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イ・ジュンギ

『一枝梅』(08年)で、このビジュアルかっこいい! と感嘆し、過酷な運命を背負いながら、軽快さと、熾烈さを行き来する演技がうまいなあと、イ・ジュンギのドラマを見るにつけ、彼との特別な出会いを思い出す。
あれは、ペ・ヨンジュン主演の『四月の雪』(05年)のサムチョクでの制作記者会見の取材に韓国に行ったときのことだった。

その現場で顔を会わせたのが、別の社のために取材の手伝いをしていたコーディネーターさん。その人とは、以前、その人のアレンジでKBS放送局の取材を受けていたこともあって顔見知りだった。「お久しぶりです」と挨拶すると、「そうだ田代さん、取材が終わってソウルに戻ったら会わせたい人がいます」と言われた。

そして無事に映画の取材も終わり、ソウルに戻って夜に待ち合わせ場所に出かけると、そこにいたのがイ・ジュンギだった。

彼は、待ち合わせのカフェの前に立ち、われわれの姿を見つけると、「ヒョン!こっち」とコーディネーターさんに向かって笑顔で手を挙げ、一緒にカフェに入ったのだった。

そのコーディネーターさんは面倒見のいい兄貴的な人だっただけに、知り合いのイ・ジュンギがまだ日本に知られていないと思って、少しでも日本のマスコミに押したかったようだ。
そのときのイ・ジュンギは、すらりとしたスレンダーな体型で、長めの髪に、独特のラインを描く切れ長の目で、女の人みたいにきれいな青年だなあというのが第一印象だった。
すでに草彅剛主演の日本映画『ホテルビーナス』(04年)に出演していて、知る人ぞ知る存在ではあり、私も名前は知っていたのだが、まだこのときはあいにく彼の作品を一本も見ていなかった。

私が正直に「ごめんなさい、あなたの出演作を見たことがなくて」と言うと、イ・ジュンギは薄く微笑みながら、「約束ですよ、帰ったら絶対に見てくださいね」と言う。この言い方がすでに色っぽく「おお、さすが」とドキリとしてしまった。

一時間くらい話をしただろうか。このときに、今度映画に出る予定になったということを話していたのだが、それが今思えば『王の男』(05年)だった。

 

このときの彼は周りの誰からも気づかれることなく、私も初めて顔を見ただけに、俳優と会ったというよりも、俳優志望の青年と話をしているような印象だったが、それからわずか一〇ヵ月後には『王の男』の演技で‘花よりも美しい男’としていまだかつてないほどの大ブレイクを遂げたのである。
本当に俳優はひとつの作品で一気にスターダムに駆け上がる。残念ながらブレイク前に取材する機会は設けられなかったけれど、会ったことのある青年が見事に成功していく様子を見られてうれしかった。

これには後日談がある。
最初の出会いから二年後に再び会ったとき、彼はスターで、私は彼のトーク相手の司会者だった。楽屋でご挨拶したときに、私は感慨深い気持ちで、「お茶したこと覚えていますか?」と聞いてみたのだが、「あ、ごめんなさい、覚えてないです」とサラリと言われてしまい、そのあっさり感に思わず笑ってしまった。
感慨深かったのは私だけだったか……。
ま、そんなものだ。なにせ、彼はこの間人一倍目まぐるしい日々を過ごしたのであろうから。
それでも、ブレイク前のイ・ジュンギとお茶をしたことがあるという私の密かな自慢は揺るがないのだ。


2009年1月発行「恋する韓流」(朝日新聞出版より)
 ※記事の転載はご遠慮ください

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『一枝梅〔イルジメ〕』  『アラン使道伝(サトデン)』 『朝鮮ガンマン』

『僕らのバレエ教室』

『王の男』  『フライ、ダディ』  『光州5.18』 『シチリアの恋

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