映画解説

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強力おすすめ

タイトル 王の男
韓国公開年 2005年
出演者 カム・ウソン チョン・ジニョン イ・ジュンギ カン・ソンヨン
監督 イ・ジュニク

【 映画紹介 】

『王の男』は、朝鮮時代の悪名高き暴君として有名な燕山君と、二人の芸人を巡る人間ドラマです。

原作は「イ」という舞台劇。「イ」とは、朝鮮時代、王が寵愛する者を呼ぶときに使った呼び名を示すのだそうです。舞台劇としても数々の賞を総なめにしてきた作品です。

舞台版は富と権力によって徐々に堕落していく美貌の芸人コンギルが主人公でしたが、映画化するにあたり、芸人仲間のチャンセンを主人公に据え、チャンセンの感情が軸となってコンギルと燕山君の関係が揺らいでいく様を描いています。

この作品を語るとき、欠かせないのが、1300万人が見たという韓国映画史に残る特大ヒットを記録したことです。これは韓国の4人にひとりが見た計算になります。上映前はあまり注目されていなかったのですが、試写の段階から素晴らしい作品だと口コミが広がり、公開が始まるやリピーターも含めてどんどん観客を増やし、ついには17週間にもわたってロングラン公開されました。その時までに1000万人の大台を超えたのは、『ブラザーフッド』と『シルミド』。これらの2作品はどちらも映画界のビッグスターが出演し、南北分断絡みの史実を素材にした大作映画でした。ところが、大作でもなく、ましてやビッグスターも出ていない時代劇がこの大ヒットを記録したので大きな話題となりました。

監督は『あなたは遠いところに』『黄山が原』のイ・ジュニク監督。脚本はイ・ジュニク作品を数多く手掛けているチェ・ソクファン作家で、身分の低さから理不尽に虐げられてきた芸人たちの自由を渇望する魂の叫びや男同士の魂の絆、そこに、誰にも理解されない孤独な権力者の悲哀が加わって、感動の人間ドラマとなっています。

この作品で一躍スターダムに上ったのがイ・ジュンギです。中性的な魅力を生かして王の寵愛を受ける芸人を演じ、映画賞でも新人賞や人気賞を総なめにし、‘花よりも美しい男’として大ブレイクしました。カム・ウソンもそれまでのソフトイメージを覆す、カリスマのあるタフな面を見せて大鐘賞で主演男優賞に輝きました。

イ・ジュニク監督作品には欠かせないチョン・ジニョンが燕山君を演じて、従来の暴君像に深みのある解釈で王の人間味を出し好評を得ました。『スキャンダル新良妻賢母』のカン・ソンヨンが朝鮮王朝の3大悪女のひとり燕山君の愛妾チャン・ノクスを演じています。

tashiro

実はこの映画、主人公チャンセン役のキャスティングには紆余曲折がありました。いい作品だけにさぞかし名乗りをあげる人が多かったことだろうとおもいきや、実際はその逆だったんですね。まず時代劇は、TVドラマでは大人気の素材で視聴率もいいのですが、映画となると難しい歴史モノは売れないという意識があったそうなんですね。加えて芸人の役だけに芸ごとなど習わなければならないものが多く、様々な負担があって俳優たちが嫌がる役だったというんです。最初に決まっていたのがチャン・ヒョクだったのですが急遽軍隊に行かねばならなくなり、次に有名俳優が決まったそうですが、結局は辞退して、何人かに打診して断られ、クランクインの1ヶ月前まで主役が決まらなかったのですが、そんな紆余曲折を経てご覧いただいたようにカム・ウソンが演じることになりました。
彼は綱渡りなどの芸も自らこなす執念を見せ、素晴しい演技で見事に映画を輝かせたわけですが、その陰には、断って後悔した俳優もいることでしょう。