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韓国映画界の鬼才 キム・ギドク監督インタビュー

オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2004年4月号より(※掲載元の許可を得て載せています)

勢いのある韓国映画界においてひときわ異彩を放っている韓国映画界の鬼才キム・ギドク監督。海兵隊出身で除隊後はフランスに渡って美術を勉強したという変り種。独特の世界を描き出す映像作家として定評があり、ベネチア映画祭を初めとする海外の映画祭で高い評価を受けている。その監督の作品が今年は立て続けに日本で公開される。『悪い男』『コースト・ガード』『受取人不明』『春夏秋冬…そして春』。キム監督の映画は低予算で撮られる事が多く、スター主義の韓国映画界にあって珍しく新人を起用することが多い。

2月末から公開されている『悪い男』では、清楚な女子大生に一目ぼれしたやくざがその女性から冷たくあしらわれ、可愛さあまって憎さ百倍ともいえる復讐心と所有欲で彼女を自分と同じような立場の娼婦に陥れていくというすさまじいまでのやくざの純愛が描かれている。この主役の女子大生を演じているのもソ・ウォンという新人女優だ。

映画の度によくオーディションをするというキム監督に聞いたところ、起用のポイントは、キャラクターにあっているかどうかと、そのキャラクターにモデルがいる場合にはそのモデルに似ているかどうかを重視するという。「具体的に『悪い男』のソ・ウォンはオーディションで白紙のような女性だというイメージを感じました。白紙のような女性であれば女子大生がやくざにだまされて娼婦に転落していく過程をすごくリアルに見せてくれるのではないかと思って選びました」


この作品では娼婦に身を堕とす役だけに新人ながらも激しいセクシャルなシーンが出てくる。部屋で最初の客を取るシーンでは、監督と撮影監督、そしてやくざ役のチョ・ジェヒョンの3人だけしか現場に入らずに撮影したのだそうだが、この場面のソ・ウォンの演技があまりにリアルだったので、キム監督は自分でそういうシナリオを書いたにもかかわらず胸が痛んだそうだ。そうした熱演を経て、物語が進んでいくごとにソ・ウォンがどんどん妖艶に魅力を増していくのがすごかった。彼女はこの作品で注目を浴びた。

主演のチョ・ジェヒョンもそれまでは助演者として主にコミカルな役が多く、映画、ドラマに出演していたが、「いつもコミカルな役があてがわれて自分でも葛藤があった」という。キム監督の自由で開放された感じの映画の中で、監督が自分の違う面を引き出してくれたと語る。チョ・ジェヒョンはこの作品をきっかけにして渋い男性的魅力を発散させる男性スターとして一躍ブレイクした。このように役者の個性を引き出すのが上手いキム・ギドク監督に日本の俳優についてどんな人を知っているか聞いてみた。

「日本の俳優では『うなぎ』の清水美砂さんに是非『魚と寝る女』に出演してもらいたかったんですがいろんな事情があってダメでした。そして奥田瑛二さんも知ってます。『純愛譜』に出てた橘実里さんは非常に可愛い子だと思います。『ドッペルゲンガー』に出ていた役所広司さんは韓国のアン・ソンギさんといわれていますけど、素晴らしい役者さんだと思うのですが、欠点といえばあまりにも有名であるということだと思います。私がこれから日本の俳優を起用することがありましたら、まだあまり知られていない新しい俳優さんを発掘して、あまり高くない、しかも素晴らしい、そういう若い俳優を探して一緒に仕事をすることが出来たらいいなと思っています」

新人にこそ大いにチャンスがありそうな監督の言葉は、デビューを目指す皆さんには嬉しいだろう。キム監督の映画に出られれば世界の人の目に触れることになる。国際スターを目指す人にとっては要注目の監督だ。

延長線コラム

キム・ギドク作品とは・・・

キム・ギドク監督の作品は現在『魚と寝る女』(99年)がビデオリリースされている。これは釣り場を営む女の元に自殺するために訪れた殺人犯がこの女との愛にのめりこんでいき、逃れられなくなっていくお話。この作品はベネチア国際映画祭のコンペ部門に出品され、あまりの猟奇的な描写に失神者が出たという逸話を残した。

『受取人不明』(01)は米軍基地を舞台に、そこに暮らす青年と、アメリカへ帰国した夫へ手紙を送り続ける母親の悲哀に満ちた生活ぶりが描かれる作品。これもベネチア映画祭に出品。『悪い男』(01)はベルリン映画祭のコンペ部門に招待され、3年連続で3大国際映画祭に招待されるという快挙を成し遂げている。これにより『コースト・ガード』(02)では韓国で超メジャースターのチャン・ドンゴンが自ら志願して出演している。

キム監督の作品は一見エロ・グロな世界にもかかわらず、映像の美しさと、作品に漂う残酷さ、やさしさが拮抗して引き込まれていってしまう。ヨーロッパでの評価が高いということと、決してメジャーな作品作りではないというところなどは日本の北野武監督を思わせる映像作家である。