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『花より男子 The Musical』韓国版の演出家・鈴木裕美さんインタビュー(前編)

※文章・写真の転載はご遠慮ください

 

現在韓国で上演中の『花より男子 The Musical』

これは、日本はもとよりアジア各国で大人気の少女漫画『花より男子』(原作:神尾葉子・集英社マーガレットコミックス刊)を 2016 年1月、日本で世界初のミュージカル化をした舞台の、日本発信のライセンス公演です。

 

脚本は『八犬伝』『鉈切り丸』『9 days Queen』など多くの作品で脚本家、また演出家として活躍している青木豪。

演出が『宝塚BOYS』『夜中に犬に起こった 奇妙な事件』『ブラック メリーポピンズ』『サンセット大通り』など、小劇場から大劇場、ストレートプレイ・ミュージカル、数々の作品で演出を手掛け、名だたる演劇賞を総なめにしてきた鈴木裕美。

音楽は「ポルノグラフィティ」や「いきものがかり」をはじめとする数々のトップアーティストのプロデュースを手掛け、現在の日本音楽界をリードする本間昭光。

この豪華な布陣で、韓国では、日本のドリーム・チームが手掛けたミュージカルの上陸ということで大きな話題を呼んでいます。

 

また韓国版では、VIXXのKEN、BTOBのイ・チャンソプ、SUPER JUNIORのソンミン、miss Aのミン(イ・ミニョン)、ジェイミンなどのアイドルたちを中心としたキャスティングも大きく注目され、2/24~5/7までの日程で絶賛上演中です。

 

この韓国版の演出を手掛けているのは、日本オリジナル版と同じく鈴木裕美さんです。

そもそも日本で『花より男子 The Musical』の上演に際し、原作漫画の『花より男子』及びそのドラマがアジア各国で人気だったこともあり、この作品をアジアに向けて日本から発信していきたいという意気込みで制作開始。鈴木裕美さんはそのときから、もし海外でこの舞台をやることになれば演出をやりたいと名乗りを上げていたとのこと。その後、韓国からの上演希望の話を受けて、「演出は鈴木裕美さんで」とお願いしたら、韓国側からも「ぜひに」ということで実現したのだそう。
「韓国のみならず、外国語を話す俳優さんたちを外国で演出してみたいという気持ちが強かったので非常に嬉しかったです。新しい考え方や新しい感受性、今まで私が知らなかったものに出会いたいという気持ちが強かったんです」(鈴木裕美さん)

 

そこで、鈴木裕美さんに、韓国ミュージカル界での演出という異文化体験を通して感じたこと、また韓国版『花より男子 The Musical』の魅力についてお話を伺いました。
『花より男子 The Musical』韓国版プロジェクトについては、

「実は、キャストが全部決まったのは稽古が始まってから。固まらないままの進行でした」(鈴木裕美さん)

という話に代表されるように、韓国では、日本ではお目にかかれない状況にたくさん遭遇したそうです。

 

 

●日韓の仕事の進め方の違い
―――キャスティングにはどの程度関わったんですか?

韓国は日本以上にチケットパワーという言葉がすごく強くて、つまりどれだけお客様を呼べるかがキャスティングに強く影響するんですね。そこは私にはわからないところなので、その部分ではキャスティングはお任せしてました。
トリプルキャストのうちの一人の静、ダブルキャストのうちの一人の順平、浅井、アンサンブルはオーディションで選びました。

あと 最初は、キム・テギュがあきら役でチャン・ジフが総二郎役だったんですが、読み合わせとかの様子を見ていたら逆の方がいいなと思ってプロデューサに提案したら、それはそうかもしれないと、OKをいただきました。

※写真右上がキム・テギュ、左下がチャン・ジフ。彼らが元の配役から入れ替わった

 

――――今回はトリプルキャストが多かったですね

韓国でのミュージカルは2か月半上演することが多くて、800、900席クラスの劇場をシングルで持たせられる動員力のある方は少ないんですね。なのでどうしてもトリプルキャスティングが当たり前になっていて、そうなるともちろん十分に稽古することは難しいです。

トリプルですから、1週間のうちの3日間、もしくは2日間しか出演しないので、残りの 4、5 日で次の公演の稽古ができるんです。そうやって本番をやりつつ、次の稽古をする俳優さんもたくさんいます。

 

――――稽古の進め方はどのように?

なかなか出演者全員が揃わないんですよ(苦笑)。

ソンミンさんは最初、この舞台のオファーの 前から決まっていた予定が入っていて、合流できたのは稽古も半ばの頃でしたし、司役のキム・ジフィさんはほかの舞台の本番を抱えてました。司役の他の二人、チャンソプさんとKENさんはアイドルですから、当然忙しい。

司役が3人もいるのに誰もいない日もありました。読み合わせしてても、いない人の役を説明したりして。「今日はいないけどね」って言いながら。

 

 

      ※道明寺司役の3人 左からイ・チャンソプ KEN キム・ジフィ

 

―――韓国らしいといえばらしいですけど。

ほとんどの役がトリプルなので稽古時間がどうにもこうにも足りなくて。

3 番(舞台上の立ち位置)に立ってこのセリフを言って6番に移動してこれをやれ、というようにあらかじめ段取りを決めておいてそれを指示する稽古のやり方をすれば、稽古時間は短縮できると思いますが、それをやってしまっては、良いお芝居にはならない演目だったと私は思います。

協力演出の人に「あなたは役の気持ちの説明ばかりしていて、何番に立って何をどうしろという段取りを決めてあげてないので、それは良くない」と言われてしまい(苦笑)、それにはびっくりしましたけど、韓国のシステムではそうした方がスムーズなのは理解できます。

 

―――稽古期間や時間はどんな風だったんですか?

稽古期間は2ヶ月でした。その間、日本では信じられないでしょうけど、朝10時から夜10時までずっと稽古する日が1ヶ月はありました。週1で休みはあるんですけど。

日本だと午後1時から7時くらいまでが一般的で、昼ごはんは食べてきて開始し、晩ごはんは終わってから食べるという感じです。日本では最長でも夜9時くらいまでです。

韓国では「この日、この俳優は1時出し」という場合、10時から1時まで3時間は稽古できるという意味になります。日本では「その日の稽古には来ない」って意味になっちゃうことが多いんですけど。

あと掛け持ちで本番の舞台を抱えてる俳優もいたので、当然夕方になるといなくなって、俳優全員が揃ったことって一日もなかったんじゃないかな。日本では考えられないですね(苦笑)。初日開くのか? と思いました。

もちろんいいところもたくさんありましたが、これは絶対に日本の方がいいということもたくさんありました。

 

―――韓国でやってみて感じた良かったところは?

いろいろありますが、俳優たちは全員、譜面を読めるんです。日本だと読めない人もいるので、稽古場で耳コピで覚えたりするんですが、ハモれない人や音程が不安定な人はほとんどいないです。

アクションも基本訓練がなされているので、あっという間に形になりますし、刀などを使う場合はわかりませんが、殴り合う程度なら、殺陣師なしで芝居が作れます。俳優としての才能とは別の話になりますが、基本スキルはみんなとても高かったです。

そして、日本だったら暴動起きそうですが、朝 10 時~夜 10 時の稽古でも暴動は起きなかったです(笑)。日本では休憩1時間きちっと取るってほぼないんですけど、韓国は昼休憩と夜休憩 を1時間ずつきっちり取ります。お弁当が出たり、稽古場まわりの店と契約していてクーポン券を渡されて食べに行くとか、ごはん環境は充実してました。稽古中はみんな食べるのには困らないという。食は大事にする文化ですよね。

 

―――文化的違いはありましたか?

日本以上に契約社会で、システムや契約を重んじる傾向が強かったです。小道具も契約した人でないとやれないんです。手を出してはいけないというか。アメリカのやり方に近いんじゃないでしょうか?

劇場に入ってからの時間は日本よりも圧倒的に長くて、と言っても2週間ほどですが、小道具などは全部劇場に入ってからということで、稽古場では本番用の小道具は使わないことが多いみたいです。

 

―――じゃあそれらしいものを使って稽古するんですか?

そのそれらしいものも誰が用意するかということになって、小道具担当として契約した方しか手を出せないので、稽古の時は小道具無しでやる部分もありました。

例えば衣装に帽子があるんだったら、俳優に帽子を渡せば、脱いだり被ったりする仕草で気持ちを表現するアイディアも浮かぶと思うんですが、そういうことはできなかったです。

稽古の時からもう少し本番に近い状況にする事が出来れば俳優たちももっと豊かな表現ができる可能性が広がるのになと正直思いまし た。

 

●キャストたちの魅力

―――司で言えば、イ・チャンソプさんは初のミュージカルですよね?

彼、すごくいい人ですごくまじめ。必ず会った時と別れる時は日本語で挨拶してくれました。「こんにちは」って。日本では「おはようございますっていうんだよ」って話もしましたけど(笑)、お昼に会うと必ず「こんにちは」って。

本当に俳優はどこも同じで、日本のアイドルも本当にまじめで少ない時間で一生懸命にやるんですけど、チャンソプさんもそうでした。俳優たちはみんな一生懸命やってました。

チャンソプさんはすごく鍛えてて本当にボクサーみたいな身体なんですけど、司役にしては自分は小柄だ、と気にしてたんですよね。

稽古期間の途中で、すごく何か迷ってしまったというかイキイキしなくなってしまった時期があって、その時、

「あなたを見てると、韓国にいるかどうかわからないけど、背が高くないんだけどボクシングがすごく強くて、ものすごく愛妻家で笑顔が可愛いというボクサーが思い浮かぶから、あなたはその路線で行くのはどう?」って提案したんです。

「司は親に愛されなかったから自分が取るに足りない人間だと思っていると思う。自分自身を取るに足りる人間だと認めたい願望でケンカっ早く権力的な発言をしてしまう。でも実は愛妻家で笑顔が可愛くて子煩悩でっていう‘あの人’をマネしてやろうよ」って言ったら、韓国にもそういうボクサーがいるらしくて、お互いに違う人を思い浮かべてるんだけど(笑)、「わかりま~す」って日本語で言ってくれました。

私とチャンソプさんのあいだでは、司はその路線なんです。

―――チャンソプさんは初めてだから俺どうしたらいいんだろうっていうのはありましたか?

すごくあったみたいです。最初の通し稽古の時、チャンソプさんは舞台袖で震えていたそうです。もちろん彼の中で稽古が足りてないという不安が大きかったんでしょうね。チャンソプさんも KEN さんも稽古期間をきゅーっと縮めると2週間くらいだったと思います。

チャンソプさんは彼の初日の時、一幕は怖くてしょうがなかったけど二幕になったらすごく楽しくなったって言ってて、最終的に「僕はとっても楽しめました」って言ってくれたので、ああ良かったと、思いました。

彼は本人が切望してたわけじゃないと思うんですよね、ミュージカルに出ることを。初めてミュージカルをやる方とご一緒する時は、もう二度とやりませんって思ってしまわないか、初体験が良い記憶になることを気にしてしまうんですが、またミュージカルに出てもいいと思ってくれたのではないかと思います。

―――KEN さんは?

KEN さんはまずはとっても司の役にガラが合っていて、本人もそれを自分でわかっていたので稽 古の初めから割と楽(ラク)そうでした。非常に愛らしく、チャーミングな方で、稽古場でもとても愛されていました。カンがいい人なんですよ。

「今あなたのカンで合ってると思うし、ガラも合ってるから」と言って、自由にのびのびやってもらえるように演出したつもりです。でもあの忙しさは本当に気の毒だなと。寝る時間取れてる? レベルの忙しさだったんです。

そしてKENさんはものすごくおしゃれ。稽古着で靴までコーディネートしてる人始めて見ました。稽古靴を服に合わせて変えてくるんです。すごいかわいいんですよ、稽古着が。すごくセンスのいい方ですね。稽古着にもこだわって好きなものを着て楽しんでるのを見て、人生そのものを楽しむやり方を知ってる人だなと思いました。


―――キム・ジフィさんの司は?

ジフィさんはミュージカル俳優で舞台にもたくさん出てるし演劇的教育をとても受けてる人。年齢も一番上ですし、自分がミュージカル俳優だというこだわりもあったと思います。私とも話し合う時間が長かったですし、一番ものを考えているので、「愛されなくて傷ついている暴力性とか根暗な感じを怖がらないでやっちゃっていいと思う」って言いました。

こんな風に3人とも同じ司役でも目指しているところが違うんですよね。


―――つくしは?

ジェイミンとも役柄や状況についてたくさん話し合いましたし、missAのミンは初舞台ですが、すごくミュージカルに出たかった子で、稽古にたくさん参加してくれたので時間をかけられました。

すごいいい子なんだけど、ぶきっちょさんなんです。ミンと時間をかけて丁寧に話し合えたことはとても良かったし、彼女もそう言ってました。

※左がジェイミン、右がミン(イ・ミニョン)

 

インタビュー後編に続く

2017年4月22日執筆 インタビュー・文:田代親世