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イ・ジフンインタビュー『インタビューーお願い、誰か僕を助けてー』

 

2月7日。ソウルでは自身が主演する『英雄』の公演が始まって忙しい中、3月の来日公演『インタビューーお願い、誰か僕を助けてー』の制作発表会見のために来日したイ・ジフン。
イ・ジフンさんといえば、高校時代にバラードが得意なアイドル歌手としてデビューし、コンスタントにドラマや映画にも出演しながら、ミュージカルにも出演を始め、ここ数年は『エリザベート』、『プリシラ』、『モーツァルト』、『キンキーブーツ』などなど、大劇場ミュージカルの主演に次々と抜擢され、押しも押されもせぬミュージカル俳優として活躍しています。

そんな彼が、今回出演者が3人だけという舞台に挑戦。超新星のユナク、ソンジェと共にトリプルキャストの一人として出演するイ・ジフンさんに、稽古はまだこれからとのことでしたので、昨年の『モーツァルト』のことなどを中心に個別インタビューした模様をお届けします。

――昨年は日本が誇る舞台演出家小池修一郎氏の演出のもと『モーツァルト』に出演されましたが、それまでの『モーツァルト』との違いを感じたのはどんなところですか?
一番違ったのはアマデの存在ですね。私の才能でも自我でもあるアマデという表現が全く違っていました。アマデの存在のおかげで愛する人も家族もすべて失っていく過程がすごく丁寧に描かれていたと思います。結局、モーツァルトが死んだのはたくさん仕事をしすぎたせい、つまりは才能のせいで過労死に至ってしまったという深いドラマだということが今回のバージョンで非常に際立っていたと思います。

――小池演出家と仕事をしてみて感じたことは?
すごくディテールが細かかったですね。それぞれの俳優が持つカラー、特色を非常に際立てて演出してくださったと思います。たとえば、チョン・ドンソクさんの場合は天真爛漫で純粋なところをキャッチして生かしてくれたと思いますし、キュヒョンは愛するコンスタンチェへの愛溢れるモーツァルトだったと思います。そして私の場合は、才能のせいで死んでいく悲しみの姿にフォーカスして引き出してくれました。

――それは、自分はこんな風にやりたいと自分からアピールしたんですか?
いえ、自分から言ったのではなく、僕を見てキャッチして導いてくださったんです。
なので、ドンソクさんもキュヒョンさんも小池先生の演出を非常に信頼してました。
台本を読んだとき、理解できないなと思えるところは一つもありませんでした。
そういった部分で信頼度が高くなったんです。

――ということは、中には理解できない台本もあるってことですね?
あります(苦笑)。これは何でこうなっちゃうんですか?と演出家に聞くことがありますよ。

――日本の舞台は物語の説明が丁寧だなという気がします。
まさに、観客に対してはより親切な舞台を日本の方が作っているなと思いました。
小池先生の舞台では、歌を歌っていても、その裏にあるドラマ性をすごく見せなきゃいけないんです。そういったところが僕自身にとても良い経験になりました。

――同じ役を演じるキャスト同士が仲良く協力し合っていたのが小池演出家には新鮮に感じられたそうですが。
僕が一番年長でもありましたし、弟たちがよく僕についてきてくれました。特にドンソクさんは前に一度ヴォルフガングを演じているのですが、今回の小池先生版ではまるで違う舞台のように非常に新しい印象を彼自身も持ったと思うんです。だからこそ3人が一緒に役割について語って、時間を割いて作り上げていくということができたと思います。

――イ・ジフンさんはいつも競争意識なくできる方ですか?
そう言えると思います。一緒に悩んで考えて共有していく感じですね。

――『モーツァルト』といえば、私はちょうどイ・ジフンさんが、声が出なくなったチョン・ドンソクさんの代役に立った時の公演を見ました。
あの時、僕のコンディションが最悪の時だったんです。風邪をひいてたし、腸炎でおなかの具合も悪くて。すごく大変だったんですが、でも僕よりもドンソクの方がもっと体調が悪くて。キュヒョンも日本でのスケジュールがあったのでどうにもならない状況で、僕は神様に祈って舞台に立ちました。

――代役は急に言われたんですか?
その日、僕が昼公演をやっている時、そんな状態になるかもしれないけど、でも一応ドンソクは劇場に来てはいる~という連絡は受けながらという状況でした。
でもドンソクはマイクテストした時に全く声が出なかったので、「これ以上無理するな、僕がやるから」と言ってあげました。でも実はその公演が一番出来が良かったんです。音楽監督も舞台監督もスタッフ、俳優みんながその公演が一番よかったねと言い合いました。すごい難しい状況の中でみんなで作り上げるというエネルギーが集まったと思います。

――それにしても、体調管理のことを考えても、ミュージカル俳優が俳優の中でももっとも大変なジャンルの俳優だと思いますがどうですか?
本当に大変ですよ。実はあの時もやらなくてもいい選択もあったんです。でも僕に最悪な状況の中でも舞台に立てる訓練ができていたというか。不思議なことに、声以外は最悪だったけど声は出たんですよ。声だけは生き残れるような訓練をしてきた成果がその日に現れたんだと思います。

――訓練とは?
毎日発声練習したり、先生のレッスンを受けていくということ。持続的な運動。そういう時間があったからこそできたと思います。
そういえば、小池先生は、初日が明けたあと、終盤近くにまた見に来てくださったんですが、僕の公演を見て泣いてくださったんです。
「ありがとう。自分が表現したかったモーツァルトを君が表現してくれた」と言ってくださって、僕は鳥肌が立つほど嬉しかったですよ。
――それは俳優冥利に尽きますね。

―――イ・ジフンさんといえば、アイドル出身でミュージカルで活躍し始めた第一人者です。ミュージカル畑以外の人がミュージカルの世界に入ってくる大変さもあったと思いますが、そういう意味で、今回もソンジェさんやユナクさん、『モーツァルト』でもキュヒョンさんと一緒で、そんなアイドルの後輩たちからアドバイスを求められたりするんじゃないですか?
後輩たちは皆もう上手いんですよ(笑)。僕たちが最初にミュージカルを始めた時代よりも比べ物にならないくらいに実力があるし。僕がミュージカルを始めた時は、ミュージカル俳優たちの特殊意識みたいなものがありましたけど、今ではもうそういったものもなくなりましたので、後輩たちは良い環境の中で公演できるようになっているなと思います。むしろ、背景的にアイドルが出演しにくかったような昔の悩みではなく、純粋に、どうやったらその声を出せるか、高いクウォリティーを維持できるかという作品の質を高めるための質問をしてくるので、そういうところで答えたりはしています。

――イ・ジフンさんはミュージカルだけでなく、ドラマにも出て忙しいのに、それでもミュージカルに継続的に出演されるモチベーションは何ですか?
舞台に立つ魅力を感じた今では、生涯やっていくと思います。やっぱり舞台に立つのはとても面白いし、その楽しさが分かっている今はもう舞台に立って楽しむことができる段階に来ているんですね。まだまだやりたい作品、やらなければならない作品もたくさんあると思います。

――今後絶対にやりたい役はなんですか?
『モーツァルト』がきっかけで、声を出す勉強を一生懸命にし始めました。今も『英雄』に出演しながら、より深い声を出していくためのレッスンを受けています。
ミュージカルは踊りも演技も重要ですが、やはり歌を歌いながら感情表現を観客に伝えていくことが最も大切です。声のスペクトラムが大きくなればなるほど与えられる役がどんどん幅広くなってくると思うので、その目標のためにも声の勉強は続けていきたいです。最終目標は『ラ・マンチャの男』『レ・ミゼラブル』『ジキル&ハイド』といった重みのある作品、キャラクターに惹かれます。

――イ・ジフンさんはスマートな印象なので、いつも10ある能力のうちの7割くらいで軽々とやってのけている印象を受けますが、でも結果を見るとすごく努力されているんだなと感じますが、ご本人的には余裕はあるんですか?
いえいえ~(笑)、余裕がある振りをしています。その余裕はきっと20年の芸歴があるので、そんなところから出てくるものではないでしょうか?
実はこの『インタビュー』もたった3週間で2時間あまりの公演を成立させなくてはいけなくて、ものすごくプレッシャーなんです。満足いく結果を得るためにも、この期間は好きな友達にも会えないし、スキーも大好きだけどできないしゴルフも出来ないけど、そういったものは全部捨てて、作品があるときはもうオールインします。

――かなりセリフが多くて大変ですか?
はい~。さっきも控室でセリフを思い返していましたが、けっこう難しさを噛み締めています。

――では最後に、『インタビュー』で、自分なりのシンクレアはこんな感じになりそうというのはありますか?
演出家に、ほかのシンクレアはどうだったんですか?という質問もしてみましたが、
(多重人格なのでキャラクターが5つある中)誰はどの役が似合って、ほかの誰かはこの役が良かった、というそれぞれの俳優の持つ長所がそれぞれの役にうまく合っていたといわれました。なので、冗談っぽいですが、僕は全部の役の長所を取り入れて表現できるようなシンクレアにできたらいいなと思います。
演技面でも非常に大きな挑戦になると思うので、イ・ジフンにもこんな面があったのかということを感じていただければと思います。
今では歌で鳥肌を立たせる俳優だということを皆さんよく言ってくださいますが、この作品では演技で鳥肌を立たせるような結果を残したいです。
会見では、共演のイ・ゴンミョンさんから、難役だけに、イ・ジフンさんが稽古場で頭を掻きむしりながら挫折も感じて取り組む姿が見られるのが楽しみだ~という発言がありましたが、そんな風にもがきながら作り上げていくイ・ジフンさんのシンクレア役に大きな期待が膨らみます!

『インタビュー―お願い、誰か僕を助けてー』の制作発表会見の模様はこちら

 

2017.2.16執筆 インタビュー・文:田代親世