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韓国ミュージカルの華麗なる世界スペシャル取材in韓国

 

今回は、4月~6月までBSスカパー!で放送されている
「衛星劇場presents 韓国ミュージカルの華麗なる世界SP」の取材で
3月に韓国を訪れた時のこぼれ話をいくつか紹介したいと思います。

私が超ハマっている韓国ミュージカルですが、
3月からも話題の創作ミュージカルが続々公演されていたので、
いくつかの作品を見たり、
関係者の方々に取材をしたりすることができました。

 


まずお会いしたのはJYJのジュンスが出演した『ディセンバー』の
製作監督ジャッキー監督。
『ヘドウィグ』でも製作監督を務め、
ギタリストとしても出演していた方です。

実はパク・シニャンが日本で行った
1人芝居を取り入れたファンミーティングや
チョ・インソンの入隊前最後のファンミでも音楽監督だった方で、
一緒にお仕事をしたことがあったので
「お久しぶりですね」というところから始まりました。
今はミュージカルのお仕事をたくさんしているんです。

『ディセンバー』に主演したジュンスは、
それまで主に『モーツァルト』や『エリザベート』など、
ソング・スルー(歌で物語を進めていく)ミュージカルに出演してきて、
歌の上手さには定評がありましたが、
『ディッセンバー』はセリフが多くて、
感情ラインが複雑で、演技にもディーテールが要求される役だったので、
自分にできるのかと悩んで、最初はしんどそうだったそうです。
でも、ジュンスは誰よりも意思が強いので、
忙しい中でも熱心に練習に参加していたそうです。

ジャッキー監督いわく、
「彼には演技の才能があると思うし、本人も今回それに気がついたと思う」
と話していました。
また私が「初日からずいぶん変わったそうですが、
そんなところは韓国らしいですね」と言ったら、
「普通はこんなことはないんです。でも、今回は
チャン・ジン監督が『臨機応変によりよく変えていこう』という方で、
製作者もそれをOKし、役者も協力したので可能でした。
おかげで日々、よくなっていきました」と話していました。

 

そんなジャッキー監督に「今、有望な人は?」
と聞いて紹介してもらったソン・スンウォンにもインタビューしました。

彼は昨年の『ヘドウィグ』で、
チョ・スンウ、ソン・チャンウィと
トリプル・キャストで主演を務めた俳優で、
『壁抜け男』にも出演している若手イケメン俳優なんです。
「ミュージカル界のソン・ジュンギ」と呼ばれているほど、
色白でかわいい顔をしているんですが、
聞いてみたら、ソン・ジュンギやイム・ジュファンと同じ事務所とのことで、
なるほどと思いました。

ミュージカル全盛期の今、先輩たちからは
「僕がその年の頃はまだアンサンブル
(一つの決まった役を演じるのではなく、
場面ごとに色々な役を演じる人)をやっていたよ」
とよく言われると話していました。

印象的だったのは『ヘドウィグ』の時の経験を語ってくれた言葉で、
「ふたりの先輩は3度目なので慣れているだろうと思っていたけれど、
熱心に稽古に参加して、常に台本を手放さず、
悩んで、努力をしているのを見て、本当に勉強になった。
あんなにうまい人たちが、
あんなに真剣に取り組んでいる姿を目の当たりにして、
喝が入り、見習いたいと思った」と言っていました。

そして、男優以上にテンションが上がったのが、
今、ミュージカル界を代表するディーバで、
トップスターのオク・チュヒョンをインタビューした時。

『エリザベート』『レベッカ』『ウィキッド』と
出演作はどれもすばらしく、
ドラマ『ザ・ミュージカル』でも、
ディーバのオーラを漂わせています。
舞台ではないので薄めのメイクで、すごくかわいかったです。
足が細くて長く、まだ寒かったのに
超ミニのホットパンツで登場して、さすが!
と思いました。

彼女だけに限りませんが、
ミュージカル俳優はすごくちゃんと自己管理をしているんだな
ということを取材のたびに感じます。
身体が楽器なので、どれだけ手入れできるかが、
普通の俳優以上に大事なんだろうなと思いました。
舞台を見ているとわかりますが、
2時間半くらいにわたって情熱的に演じるパワーは
本当にすごいんです。
それをほぼ毎日やるための身体を維持するために
涼しい顔をしながら努力していることを知り、
「私もこんなにダランと生活していてはいけない!
もっと節制しなければ!」と、刺激を受けました(笑)。

また、韓国のミュージカル俳優は掛け持ちが多く、
オク・チュヒョンも一昨年、『皇太子ルドルフ』の可憐な娘役マリーと、
『レベッカ』の恐ろしいダンバース夫人という役を
並行して演じていた時期がありました。
それについて「あれはすごかったですね」と聞いたら、
「大変だったけれども、毎晩シャワーを浴びながら
マインド・コントロールして乗り切りました」と話してくれました。
シャワーを浴びながらその日演じた役を忘れ、
シャワーブースに張った歌詞を見ながら次の日の予習をして、
翌日のトーンで声を出してみて、
眠って起きたら次の役になっているようにしたそうです。
掛け持ちの時は
「手を抜いているのでは?」と思われるといけないので、
「普通よりも、もっとがんばるんです」と言っていて、
人気者ならではの宿命のようなものを感じました。


韓国は日本に比べて創作ミュージカルが盛んで、
「自分たちが楽しめるものを自分たちで作ろう!」
という気概がすごいですね。
最近は演劇街・大学路の小さめの劇場だけでなく、
大劇場で上演される大規模な創作ミュージカルも増えてきて、
『シャーロック・ホームズ』の好評を受けて作られた
『シャーロック・ホームズ2~ブラッディー・ゲーム~』も、
とても面白かったです。
『シャーロック・ホームズ〜アンダーソン家の秘密〜』は
日本でも一路真輝、橋本さとしというキャストでリメイクされましたが、
「〜2」の方も、見せ方が工夫され、
歌詞の中に謎解きが入っていたりと面白かったです。


有名なメアリー・シェリーの小説を原作に、
オリジナルのストーリーと音楽で作り上げた新作
『フランケンシュタイン』も見ましたが、
スピーディな展開に加え、曲がよく、
歌える人もばんばん出てきて、
最後には悲しみの余韻の残る素晴らしい作品でした。
今までに人気を博した『ジャック・ザ・リッパー』や『ジキル&ハイド』
といった作品のいいとこ取りをしたような作品でしたね。
これは忠武アートホールという劇場の
開館10周年記念作品として作られたものですが、
そうした機会に規模の大きな創作ミュージカルを完成させ、
できあがったもののクオリティも高いということは、
すごいなと思いました。

また、映画にもなった小説をミュージカル化した
『西便制』は、韓国的な美や精神性がすごくよく出ていた感動の作品でした。


どの作品もそうですが、
韓国のミュージカルを見ると、
俳優陣の渾身の演技にいつも胸打たれてしまいます。
ミュージカルを盛り上げていく環境を作っていこう
という気概も感じますし、
それを見に行く熱狂的な観客も育っていると思います。

韓国で「ミュージカルもビジネスとして成り立つ」と、
多くの人が感じた大きなきっかけは、
01年に『オペラ座の怪人』を韓国人キャストで
初めて上演した時だと言われています。

また、10年にジュンスが『モーツァルト』に出たことによって
外国のファンたちを韓国に呼べるようになったそうです。
こうした二つの出来事を契機に10年ちょっとで
ここまできたのは驚きです。

映画やドラマもそうですが、
韓国の人たちの、
良い所を素早く取り入れてぐんぐん成長していくスピードの早さはすごいです。
何でも「パリ、パリ(早く、早く)」という国民性や
フットワークの軽さあってこそなんだろうなということを感じた取材でした。

 

(2014年4月9日執筆)