ドラマ解説

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タイトル カインとアベル
韓国放送年 2009年 全20話
演出 キム・ヒョンシク
脚本 パク・ケオク
出演 ソ・ジソブ シン・ヒョンジュン ハン・ジミン チェ・ジョンアン

【 ドラマ紹介 】

『カインとアベル』は、数奇な運命に弄ばれる血のつながらない兄弟が繰り広げる壮絶なドラマ。大病院を舞台に陰謀や嫉妬が渦巻く愛憎劇です。

亡き両親の友人の病院長に引き取られ、実の子とともに本当の兄弟のように育てられた養子のチョイン(ソ・ジソブ)。やがてチョインは医師となり父親のもとで働いていましたが、父親が病で倒れたことをきっかけに、運命の歯車が狂っていきます。実の息子のソヌ(シン・ヒョンジュン)は、父の病院長が実は弟のチョインに病院の経営権を譲ろうとしていたことや、愛するソヨン(チェ・ジョンアン)までもチョインと恋仲だということを知り、複雑な思いを募らせていくのでした。

旧約聖書に出てくる、兄が弟を殺した話の「カインとアベル」をタイトルにしているように、血のつながらない兄と弟の愛憎入り乱れる対立が中心となるドラマです。ソ・ジソブが中国の砂漠で頭を撃たれて瀕死の状態という衝撃的なシーンから始まり、「なぜ砂漠?」「なぜ中国?」「なぜ銃?」「彼は医者のはずだよね?」と、一気にドラマへ引き込まれます。回を重ねるごとに三角関係、記憶喪失、親との確執といった要素が入り、ドラマティックに展開していきます。

このドラマの面白さは、緊迫した兄弟の対立を軸にミステリーラインが入ってくるところでしょう。主人公のチョインは人のいい青年だけに、そこまで自分が邪魔に思われているとは露知らず、襲われても「誰が何のために自分を貶めたのか?」ということがわかりません。その後記憶も無くし、再びなくした記憶を取り戻すのですが、果たしてチョインは、どこまでの記憶を本当に取り戻したのかが最初は見ている方もわからないので、その辺で見るものをもドキドキさせていきます。そして、序盤では兄に一方的にやられるばっかりだった弟が、途中からやり返し、互角の勝負になっていくという展開が緊迫感があってすごく面白いです。
もともと、兄のソヌが「自分のものだと思っていたものがすべて弟のものになろうとしている」と思ったことが悲劇へとつながっていきます。自分を慕ってくる弟をいとおしく感じながらも、父親からの信頼も愛する者の心もすべてが弟に向けられていく絶望感と焦燥感でチョインに嫉妬心を燃やしていきます。最初から悪だったのではなく、渡りに船の状況に際して、心の奥にあった嫉妬心やねたみから悪魔に魂を売り渡すことになってしまうという設定がうまいです。
一方、弟の立場から見ても、この世で最も信頼していた兄から裏切られていく絶望感が痛くて、このドラマは、この世で最も欲していた愛情が裏切られて起こってしまった悲劇といえます。

ソ・ジソブの多面性が一度に味わえる

ソ・ジソブ演じるチョインはもともと、誰からも愛される、ちょっとおちゃめな面のあるやさしい好青年です。そんな彼が拉致をされたり、殺されそうになったりと、自分でも思ってもみなかったすごい目に遭い、さらに、記憶を失い、収容所に入れられたりする。環境が波乱万丈に変わっていくのに合わせてキャラクターもどんどん変わっていくので、ソ・ジソブのさまざまな姿が見られます。孤独感や、頼りにしていた人を亡くした喪失感、本当に信頼していた兄が自分を殺害しようとしていたことをわかった時の絶望感。そうかと思うと、優しさを思い出したり。さらに、攻めに転じて自分を貶めた相手に向かっていく対抗意識。とにかく一つのドラマの中でどれだけ多彩な面を見せられるのかということに挑戦しているかのようで、役者としては本当にやりがいがあったのではないでしょうか。攻める時は怖いくらい冷酷な表情で攻めていくのですが、愛する女性の前ではとても優しく、寂しそうな目になる。そんな二面性もファンにはたまらないですね。韓国でも、彼の目の演技がいっそう深みを増したと絶賛されていました。またいきなりのキスシーンで驚かせたりもしてくれます。
兄ソヌ役を演じたシン・ヒョンジュンは、カリスマ性にあふれ、うずまく心情をすべて内に秘めた人物に扮して評価されました。悪になりきれないように見えてやっぱり悪というところを、時に憎々し、時に痛々しく魅力的に演じています。脱北者の少女役のハン・ジミンは、明るく純粋で、けなげでかわいくて、天使のような癒しの存在です。彼女の存在が、いろんなことで傷ついているチョインを癒します。小柄な彼女が背の高いソ・ジソブと並ぶと、凸凹して見えて、『ごめん、愛してる』のような感じがします。小さい彼女に守られる彼というのがいい感じですね。

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