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いきなり映画で人気に! 韓国俳優のブレイクパターンが変わりつつある!?

オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2006年6月号より(※掲載元の許可を得て載せています)

韓国では、若手俳優がスターへの階段を上っていく順番として、最近はモデルから見出され、テレビドラマに何本か出演し、そのうちにいい役どころを演じてブレイクし、その勢いで映画に進出していくというのが大方のパターンだった。クォン・サンウも、ソン・スンホンも、カン・ドンウォンなどもそうだ。

もう少しベテランになると、さすがにモデル経験というのはないが、テレビドラマから映画へ進んだ例として、イ・ビョンホンやチャン・ドンゴン、そして『シュリ』のハン・ソッキュも『デイジー』のイ・ソンジェなどもあげられる。

つまり一般的にテレビドラマ→映画だったのだ。それは、人気の出やすさと大衆への認知度という面でハードルの高い映画から成功を収めるのは若手にとっては至難の業だからだ。

それが、最近、いきなり映画で大ブレイクした若手スターが現れた。イ・ジュンギである。2005年末に韓国で公開された映画『王の男』で、女性のように美しい、朝鮮時代の中性的な旅芸人を演じているのだが、この作品が、1230万人という、当時の韓国映画史上最大の観客動員記録を作る特大ヒットとなり、好演したイ・ジュンギが大ブレイクしたのだ。


それまでの彼は、実は日本でのほうがなじみが深いぐらいの俳優だった。草なぎ剛と共演した『ホテルビーナス』や、日韓合作ドラマの『STAR’S ECHO(スターズエコー)』などに出演しており、韓国では『僕らのバレエ教室』という青春映画に出たぐらいの存在だった。しかし『王の男』で状況は一変した。ちょうどタイミングよく、イ・ジュンギが3番手の役どころとなるドラマ『マイガール』の放送も始まり、ここでは男らしいタフな魅力を発揮して相乗効果の人気を博すようになったのである。

「彼はいったい何者?」ということでインターネットのポータルサイトの検索語1位になり、一気に一番人気の存在となった。コマーシャルモデルに起用された飲料水は発売初日から品切れ現象を起こし、彼が出演したミュージックビデオの曲が入ったバラード歌手のアルバムは50万枚の売り上げが見込まれるというし、現在撮影中の映画『フライ、ダディ』の原作である金城一紀の翻訳小説が3カ月で5万部が売れる勢いなのだという。まさに株価暴騰といった感じだ。

もうひとり、先日韓流シネマフェスティバルのオープニング記念舞台挨拶のために来日した若手のオン・ジュワンもこれに近い進み方をしている。イ・ジュンギと共演した『僕らのバレエ教室』でデビューし、続いてインラインスケートにのめりこむ若者たちの青春を描いた『台風太陽』に出演するなど、華のあるアイドル顔の美しさなのに、作品性の高い映画に出て本格派の階段を上っているのだ。このたび初の主演映画『ピーターパンの公式』を撮影し、ベルリン映画祭に出品されてヨーロッパのマスコミからその演技力が高い評価を得た。またこの作品はフランスドーヴィルアジア映画祭で審査員賞も受賞している。

次回作は、『猟奇的な彼女』『僕の彼女を紹介します』『ラブストーリー』などでアジアで大人気のクァク・ジェヨン監督の作品だという。なんでも『武林女子大生』という現代版武侠メロドラマなのだとか。演技力が認められたあとは大衆的な人気を博す可能性の高い映画に出ることで、今度は認知度アップを図る。イ・ジュンギのサクセスストーリーに今最も近い人かもしれない。

延長戦コラム

動員が1000万人の大台を突破。韓国で大ヒットの『王の男』

『王の男』とは、朝鮮時代の悪名高き暴君として有名な国王、燕山君(ヨンサングン)と、彼が寵愛した美貌の芸人とその兄貴分芸人の物語だ。昨年末に公開されたのだが、みるみるうちに1000万人の観客を動員した。私はこの映画が1000万人を突破したあとに韓国の映画館で見たのだが、それだけの人が既に見たにもかかわらず、2月中旬に私が行った日も映画館は混みあっていた。その後も着実に動員を伸ばし、1300万人に迫るという歴代1位となったのだ。韓国の4人にひとりが見た計算になる。

これまでに1000万人の大台を超えたのは、『ブラザーフッド』と『シルミド』。これらの2作品はどちらも映画界のビッグスターが出演し、南北分断絡みの史実を素材にした大作映画だった。ところが、大作でもなく、ましてやビッグスターも出ていない時代劇がこの数字を記録したので大きな話題となっった。

しかし、見ればわかる。身分の低さから理不尽に虐げられてきた芸人たちの自由を渇望する魂の叫び、男同士の魂の絆、そこに、誰にも理解されない孤独な権力者の哀れさが加わって、感動の人間ドラマとなっているから。