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とことん意見交換をしあう韓国

オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2006年2月号より(※掲載元の許可を得て載せています)

『宮廷女官チャングムの誓い』で、目標に向かってひたむきに努力し、はつらつとしたヒロイン、チャングムを演じて韓国の国民的女優にまでなったイ・ヨンエ。そんな彼女がイメージを180度変えて挑んだ映画『親切なクムジャさん』も日本で公開され、演技者としての幅の広さを感じさせてくれた。

イ・ヨンエは、この映画の撮影に当たって事前に自分なりに主人公を研究し、幾通りもの演技を準備して現場に出向き、監督がOKを出しても、「もう一回やらせてください」と申し出て、他のパターンも演じて見せた。だから、現場での彼女のあだ名は「もう一回」だったという。

これと同じく、『冬のソナタ』でも、ペ・ヨンジュンは、監督が「いいよ」と言っているにもかかわらず、自分でどうにも納得がいかないと「もう一度やらせてください」と言い張ったという。このように、いろいろと話を聞いていくと、韓国の俳優たちはすごく演技欲が強く、主張するのだなあという事を感じる。


これは何もトップスターに限ったことではない。『天国の階段』に子役で出演していた新人俳優のイ・ワンが、このほど、日本映画の『ベロニカは死ぬことにした』に出演した。このときイ・ワンは事前に堀江慶監督と6時間ほど台本について意見交換をしたそうだ。なぜそうなるのか、物語の中で自分の果たす役割はどういうものなのか、などについて徹底的に話をして、互いの理解の一致を見た上で撮影に入ったという。そして、肝となるシーンでは、監督は一発目ですごくいいと思ったそうだが、本人からはもう一度やらせてほしいと迫られ、時間との戦いのなか、2時間くらい粘って同じ場面を繰り返して撮影した。相手役もいるし、またスタッフも疲労がピークに達している時だったというが、それでも、新人ながらも「よりいい演技を見せたい、チャレンジしたい」というプロ根性を見せるイ・ワンに感じ入ったという。

『オアシス』の演技でベネチア映画祭で新人女優賞を獲得したこともあるムン・ソリ。彼女が、このほど第6回東京フィルメックス映画祭で上映された新作映画『サグァ』の舞台挨拶で、監督の隣に座りながら、「撮影中も監督とは何度も衝突しました」と語っていた。やはり監督、俳優の双方が意見を主張しあうからだなあと実感。

ある日本の俳優さんから聞いた話だが、彼は韓国の作品に参加した事があって、その時、韓国俳優と監督との間での‘いいものにしていこう’という熱いディスカッションが、ものづくりのあるべき姿だと思ったという。日本では温度が低いというか、ディスカッションを怖がるというか、議論を避ける傾向があるようで、「準備が出来たら演じてください」という感じで俳優にお任せのことが増えていると言っていた。この熱さが韓国の生み出す作品に感じられるエネルギーになっているのかもしれない。

延長線コラム

11月29日に、韓国の映画賞のひとつ、青龍賞の授賞式が行われた。今年は、観客動員も良く、また質の高さもあわせもった作品が目白押しで、各賞ともに激戦だった。なかでも主演女優賞には、『親切なクムジャさん』のイ・ヨンエが輝いた。強力なライバル、『スキャンダル』などで知られるチョン・ドヨンが、これまでの韓国恋愛映画の観客動員記録を塗り替える作品『ユア・マイ・サンシャイン』で好演していただけに、その彼女を制しての受賞とあって信じられない気持ちだったのか、イ・ヨンエは、名前を呼ばれた時から涙を流し、喜んでいたのが非常に印象的だった。

もうひとつは、『甘い人生』で、上半期に行われた映画賞で助演男優賞を受賞したファン・ジョンミンが、今回は『ユア・マイ・サンシャイン』で主演男優賞を受賞。‘韓国映画界の発見’とまで言われている。

実は日本の北野武作品や宮崎アニメなどで知られる作曲家の久石譲が、800万人越えという、今年最も観客を動員した映画『トンマッコルへようこそ』で音楽賞にノミネートされていたが、残念ながら受賞はならず、この部門は『マラソン』の音楽監督が獲得した。3年前の大鐘賞で仲村トオルが『ロスト・メモリーズ』の演技で外国人として初めて助演男優賞に輝いて以降、徐々に映画賞の候補者の中に日本人の名前も登場するようになっている。