取材レポ・コラム
『チェオクの剣』『アラハン』ヒロインに見る「‘アクション’は身を助ける」
オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2005年12月号より(※掲載元の許可を得て載せています)
韓国の女性が活躍するアクション作品が、映画にドラマにと日本にお目見えする。ひとつはNHKBS2で放送が始まる『チェオクの剣』で、もうひとつは映画の『アラハン』だ。
11月3日から放送が始まる『チェオクの剣』は、朝鮮時代に警察組織の中で女性捜査官として活躍するチェオクの壮絶な愛と宿命を描いたアクション・ラブストーリー。
主人公のチェオクを演じているのは『バリでの出来事』などのハ・ジウォンだ。このチェオクというキャラクターは、女ながらに、幼い頃から修練を積んだ武芸の達人で、空中を飛んだり水の上を走ったりとスーパーマンのような華麗な武術を見せる人物だ。
実はハ・ジウォンは「練習の虫」と呼ばれる努力の人。新人のころから、きっといつか演技に役立つからという事で、乗馬やジャズダンスを一生懸命に習っていたという。そうした下地があるハ・ジウォンだが、武術の達人を演じるに当たって、撮影前に国家代表の新体操選手から特殊訓練を受け、ほとんどのアクション場面を代役なしでやり遂げたという。体はあざだらけで、夜寝るときも体中痛くてたまらなかったそうだ。『チェオクの剣』はそんな彼女のアクション演技と、感受性豊かな切ない表情演技が見るものを惹き付けて放さない。
ハ・ジウォンはこのほど映画でも、キャラクターは違うが、やはり朝鮮時代の女刑事を演じた。このときも新たに3ヶ月間ほぼ毎日10時間を武術訓練に費やしたという。また激しいアクションシーンで首の骨にひびが入ったときも、監督の「カット」の声がかかるまでは気を失わずにしっかりと演じきったとか。この恐ろしいまでの役者魂。このただならぬ根性が彼女をトップクラスの女優へと押し上げた。その実力を是非『チェオクの剣』で確認してほしい。
もう一方の『アラハン』は、カンフーアクションを全面に押し出した映画。カンフーの達人の娘で拳法の修行中というのがヒロインの役どころで、演じているのが20歳のユン・ソイ。172センチの長身で、ファッション雑誌のモデルとして芸能界入りし、CMでのはにかんだような笑顔が評判となって、『アラハン』に抜擢されたという。
この映画に出るには剣術とワイヤーアクションは必須事項。撮影前に3ヶ月間、アクションスクールで毎日6時間にわたって特別指導を受けながら、キックにジャンプ、ワイヤーアクションの訓練を行ったという。そして、現在彼女はこの『アラハン』でのアクション演技が認められ、世界規模での公開が予定されている武侠アクション時代劇の『無影剣』の女剣士役に抜擢された。これは『天国の階段』でおなじみのシン・ヒョンジュンが主演だが、彼がアクションの出来る女優という事でユン・ソイを監督に推薦したのだという。まだ韓国ではアクションも演技もこなせる女優はそう多くないので貴重な存在なのだ。
ユン・ソイは中学時代から演技学院に通いながらたくさんオーディションを受けたそうだが、100戦100敗だったという。そんな彼女もいまやアクションを武器にしてどんどん大役が回ってきているという事例である。
延長戦コラム
視聴率よりもマニアへの圧倒的人気。『チェオクの剣』のサイトには42日間で100万人
『チェオクの剣』は、2003年制作の韓国で旋風を巻き起こしたドラマだ。といっても分かり易い‘視聴率’という形ではなく、ハマル人が続出し、熱狂的なファンを生み出したのだ。それはインターネットのホームページへの掲示板への書き込み数が100万件を突破した事が如実に物語っている。
それまでは1年間続いた人気ドラマでもトータルで約20万件だったのが、『チェオクの剣』は14話完結と短い放送期間にもかかわらず、42日間で100万件を達成したのだ。視聴率50%近くまでいった『オールイン運命の愛』でも7万件弱だったのだから、どれだけすごいことかが分かるだろう。
原題は『茶母(タモ)』で、茶母とは、朝鮮時代に奴婢の身分の女性が官庁などの役所で茶を煎じる使用人の役目を負いながら、女性捜査官としての権限も持たされていた職業のこと。朝鮮時代は男女の区別が厳しく、女性が絡む殺人事件などは男性が女性の遺体に触れられないことから女刑事の存在が必要とされた。他にも潜入捜査でも活躍したそうだ。
目新しい題材に、練られた脚本、力の入った演出と俳優陣の渾身の演技、力強く悲哀に満ちた音楽と、どれをとっても素晴しい出来。思わず姿勢を正して見てしまうほどの作品だ。アジアのエミー賞といわれる「アジア・テレビジョン・アワード」でドラマ部門の最優秀作品賞も受賞している。エンタメの道を目指す人には是非見てもらいたい。