取材レポ・コラム
韓国スターと兵役の関係
オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2005年2月号より(※掲載元の許可を得て載せています)
今年の韓国芸能界での最大の事件といったらやはり兵役問題だろうか。『秋の童話』『夏の香り』など、日本でもおなじみだったソン・スンホンらが、数年前に行われた兵役検査の際に不正をして兵役免除判定を受けていたことがわかった。出演予定だった大作ドラマも降板し、この11月に軍に入隊した様子が日本でもニュースで取り上げられたので記憶に新しいだろう。
韓国では健康な男子ならば誰でも兵役の義務につかねばならない。一般的には2年ちょっとの期間だ。人気商売の芸能人たちにとってはかなりの痛手だが、国の決まりなのだからスターといえども例外は許されない。
過去にもこの兵役を巡って明暗を分けたスターたちがいた。ユ・スンジュンというダンス歌手だ。彼はアメリカ育ちの韓国人歌手で、当時は青少年たちのお手本ともなる大人気の歌手だった。そんな彼が、「堂々と軍隊に行きます」と公言しておきながら、いざとなるとアメリカの市民権を取得して兵役が免除になったことで、国中からの反感を買った。彼の両親をはじめとした家族はみなアメリカ在住。だからこそ本人も市民権を取るのは家族の情を考えても自然の流れと弁明があったが、世論は「裏切られた」と納得しなかった。おまけにファンらに許しを請うために韓国に入国しようとしたユ・スンジュンは仁川空港で入国拒否にあってしまった。法務部いわく、一度入隊を延期していた期間に市民権を取得しており、兵役逃れと判断、国法への秩序に対して悪影響が出るとして入国を許さなかったのだ。結局彼は、兵役には行かずに済んだが、韓国での芸能活動は完全に絶たれてしまった。2001年のことだ。
逆に人気絶頂で兵役についた芸能人たちもいる。チャ・インピョやイ・ジョンジェらがそう。チャ・インピョは94年の『愛をあなたの胸に』というドラマで一躍シンドローム現象が起きるほどの人気者になった。ちょうど今の日本でのペ・ヨンジュンのようだったとか。にもかかわらずさっと軍隊に行った。しかも、アメリカでの永住権があったにもかかわらず、それを放棄して入隊したというのだ。2年後に復帰したが、復帰作のドラマ『星に願いを』では、「入隊前と全く変わらないじゃないか」と、逆に評価を下げてしまった。だが、その批判を黙々と受け入れ、貴公子イメージを崩すような役柄にチャレンジし、視聴者からの好感と共感を得られる役者になっていったのだ。私生活でも‘模範男子’として人格者としても評価が高い。
イ・ジョンジェもやはり95年の『砂時計』という名作ドラマでブレイクしたが、その後に入隊。のちに、「せっかく人気が出たところでの軍隊入りは残念ではなかったか?」と聞いたところ、「どうせ行かなくてはならないものだし、ちょうどいい休み期間になってよかったんです」との答えが返ってきた。イ・ジョンジェは除隊後、本格的に映画に出演するようになるが、なかなかヒットせず、98年に出演した『情事』でやっと興行的にもスターと認められるようになった。この二人のように、兵役が境になって、アイドル的な人気先行だった俳優が、本格的な演技派にイメージチェンジする好機になることもある。
延長戦コラム
韓国歌謡界にはアメリカで育ったアメリカンコリアンが多いが、在米韓国人としてアメリカに永住権を持つ男性には数年前まで兵役の義務はなかった。しかし、海外移民を理由に兵役免除を受けていながら、韓国内で活躍し、大金を稼いでいる芸能人に対する一般世論の批判が高まったため、2001年に兵役法が改定されることになったのである。営利活動を目的に年間60日以上韓国内に在留する場合、兵役義務を課すことになった。これを受けてアイドルたちもそれぞれの立場をはっきりさせざるを得なくなった。
ダンスグループSHINHWAのメンバー、エリックとアンディーはこれまでアメリカの永住権を維持するために両国を行き来しながら活動していたが、このたび永住権を放棄して兵役対象者になったことが、「有意義な決断だ」としてニュースで取り上げられた。
一方俳優の世界では、ウォンビンが来年にも入隊すると公言している。「花美男から大人の俳優に生まれ変わるいいチャンス」と考えるようにしているそうだ。他にも2005年は今をときめく若手スターたちの入隊が予想されている。若手美男俳優の空洞化にならないように祈るばかりだ。