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潜入取材

ドラマ王国MBC訪問

※初出2000年6月「韓国エンターテイメント三昧」(芳賀書店)改訂版を2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)に掲載 記事の転載禁止

韓国には地上波が3局ある。
韓国のNHKにあたるKBS(韓国放送公社)、
MBC(文化放送)にSBS(ソウル放送)だ。
この3局がしのぎを削って人気ドラマを生み出している。

長年ドラマ王国と呼ばれてきたのが半公営のMBCだが、
1990年に設立された新興の民放局SBSが
その牙城を切り崩そうと意欲作を次々と打ち出している。

KBSも主に大河ドラマや週末ドラマで力を発揮しているが、
『秋の童話』や『冬のソナタ』などの恋愛ドラマの方面でも頑張っている。

そんな韓国ドラマの制作背景などについて
2000年5月にインタビューしたのが次の内容だ。
MBCの当時のドラマ局のキム・ジル局長、ドラマ開発チーム長の
イ・ウンギュさんに話を聞いた。

――週2回放送はいつごろからはじまったのですか?

「以前は日本と同じく3か月13回で構成していたのですが、最初に週末に二回編成をやってみたら視聴者の反応がすごく良かったのでそれが拡張して平日も、月火、水木という風になってきたんです。最初ミニシリーズは8回でやっていたんです。だから1か月で終わりだったんですが、それだとドラマにはまって面白くなってきた頃に終わってしまうからそれをもう少し持続させるために2か月16回になったんです。86年頃からですね。」

――人気のジャンルはなんでしょうか?

「以前は日本と同じで、ミニシリーズで言えばトレンディドラマがメインで人気が高かったんですが、最近は少し変わりつつあってサクセスストーリーなどが人気があったりとかもしています。」

――韓国ではプロデューサーとディレクター一人でやっているんですか?

「今まではPDと言う単語で全部一つにくくられてたのですが、これからは日本のようにプロデューサーは企画と製作の管理をする人、ディレクターは演出をする人と二つに完全に分かれています。何年か前から徐々に分離し始めていたんですが、昨年から本格的に定着させています。」

――その方がいいんですか?

「製作システムがだんだん複雑化してきたし一人がプロデューシングとディレクターを全部やるのはもう不可能になってきたからです。」

――視聴率は何%で合格とみなしているのですか?

「MBCは視聴率30%です。他の局では20%ぐらいでしょう。」

――MBCはドラマ王国と呼ばれるだけあってハードルを高くしているんですね。

「だから最近は成功と呼べるドラマがあまり多くないんです(笑)。今は『ホジュン』が60%越してるんですよ。」

とここまで聞いたところで忙しいキム・ジル局長は用事で行かねばならなくなってしまった。そこで局長に代わってドラマ開発チーム長イ・ウンギュ氏が登場。ディレクター出身で、チェ・ミンス、ソン・ジチャンらが出演したドラマ『歩いて空まで』(93年)のPDで、ドラマ班の中でも理論派で通っている方だそうだ。


――韓国の場合、タレント養成システムはどうなっているんですか?

「1年に1回公式採用試験で毎年10数人を取って教育をして、2年はその局専属で番組に使ったりとか活動して、そのまま育っていけば、あとはフリーで独立した俳優さんになっていきます。そのルート以外だったらそれぞれのプロダクションが自分たちが育てたタレントさんを売り込んできてというその二通りですね。日本はほとんどプロダクションが育ててますよね。最近は公募での実用性というのがだんだん落ちてきているので、この公採制度がいつまで有効か見通しが不透明です。」


――どの年齢層に向けた番組作りをしてますか?

「20代から40代ですね。絶対数で言えば30代が一番多いです。韓国では20代、30代、40代のゼネレーションギャップがすごく大きいんです。40代50代に合わせてドラマを作ると20代30代の人が見なくなってしまうんです。でも20代30代の感性に合わせて作った場合は40代50代も付いてきてくれるんです。」


――MBCでは週に何本のドラマがあるんですか?

「9つの枠があります。それプラス、シートコムですね。シートコムはドラマ局ではなくて芸能局が作っているんです。」

――PDの数は?

「PとDあわせて30人です。」

――ドラマにはどのくらい前から企画を始めるのですか?

「ジャンルによって違いますが、1週間に2回のドラマはだいたい1年前から企画します。

製作は3か月前からです。」

――ドラマの成功で一番重要なのはなんですか?

「全体で見ると、まず作家の力量が一番問われます。企画力、その次がキャスティングです。」

――作家のキム・スヒョンさんとソン・チナさんは人気がありますが、彼女たち以外で注目の作家は誰ですか?

「古い人で言えば、キム・ジョンスさん。内容的にはキム・スヒョンさんよりも質は高いと思います。『君と僕(原題:あなたそして私)』や『田園日記』などを書いている人です。若手ではデビューして3,4年しか経っていませんが、イム・ソンハさん。第2のキム・スヒョンと言われています。『もう一度逢いたい(原題:ポコトポコ)』という一日連続ドラマ1編しか書いていませんが、それだけの力量があるといわれているんです。」

――シナリオ作家の希望者は多いんですか?

「4,5年前から志望する人が増えてきましたし、収入もそれにつれて増えてきていますし、人気ありますよ。放送作家を養成する学校として放送作家協会に所属している作家たちが教授になって教えている放送作家教育院というところがあって、それ以外にはMBCアカデミーなどもありますし、そういうところで作家が養成されるわけですが、テレビ局としては公式採用で1年に1回、作家を5,6人採用しています。1年契約で採用することが多いのですが、それでもベスト劇場という単発ドラマのシナリオを募集すると4000本ぐらい応募があってその中で選ばれるのも5,6人。そしてまだ漏れた人がいるかもしれないし、他の可能性も探すということで常時インターネットを通じてシナリオの受付をしています。」

――ドラマの傾向として韓国のものはドラマチックな展開が多いですよね

「韓国社会そのものが激動の社会というか変化の大きい社会なので視聴者たちもドラマチックで変化の大きいものを好む傾向にありますね。」

――日本のドラマをご覧になったことはありますか?

「ここで、ビデオで少し見たことあります。」

――どんな印象を持ちましたか?

「こじんまりしているというか、感性的だし、ディティールがすごく繊細だと思いました。」

――何を見たのですか?

「『ラブゼネレーション』です。こちらのドラマの『青春』が『ラブジェネ』のコピーではないかという意見が出たので見ました。あとのものは断片的にしか見てなくてタイトルもわからないんです。」

――韓国のドラマによく貧富の差が出てきますが、この設定だと視聴率が高いということがあるんですか?

「そうですね。実際そういうドラマは本当に多いです(苦笑)。それは韓国社会の情緒、内面の問題と関わりがあると思うんですけど経済成長をしたのがここ20,30年で、社会が急激な変化をしたわけですよね。まだそういう貧しかった時代からかけ離れていないというか、いまここで暮らしている人達もほんの20,30年前までは貧しかった記憶を持っていてその反面、逆にものすごい勢いで富を蓄積して豊かになった人もいればそうじゃない人もいて、というように貧富の差の問題というのは韓国社会にあるし、心理的にすごくそういうものをみんな持っているんです。例えば結婚するにしてもいまだに家柄のバックグラウンドを重要視したり、どれだけお金を持っていたりとかを見たりするというのが根強く残っているわけで、若い人達は意識の変化はだいぶあるけれども、そういうものを下敷きにして貧富の差を扱うドラマはある意味で保守的なドラマといえるかもしれませんが、でも依然としてそういうドラマが力を持っているのも事実です。」


――イさんから見ておすすめのドラマは?

「ミニシリーズ『女はなんで生きるのか』。これは大人気で、これがきっかけになって8回ものが16回になったんですよ。あとは96年の『恋愛の基礎』もいいですよ。」


――主人公が死んじゃうものが多いですね。

「心理的に悲劇を好む傾向が多いですね(笑)。」


――今後MBCとしてこういうドラマを作っていきたいという方向性はあるんですか?

「80年代後半までは大人をターゲットにしたドラマが多かったのですが、それ以降からは若い人の人口も増えたということもありますが、若い層の感性に合わせたドラマ作りが増えてきて、90年代の末からは多様化してきているんです。素材もこれまではメロドラマやホームドラマが中心だったのが今後はそういった意味で素材の多様性というものを試みていきたいと考えています。連続ドラマの長さを縮めることも考えています。題材として面白いと思っているのは女性の見方も変わってきているし、そうした女性の社会的変化を扱った話や、専門職をやっている人達の話ですね。」

――話題を呼ぶドラマ枠はありますか?

「話題性として一番挙げられるのは水木ドラマです。月火は30回から50回と長い編成のドラマですが、水木はミニシリーズなので16回で終わるのがほとんどですよね。ですから素材も多様なものが増えてくるので話題になるんです。スターPDやタレントたちもミニシリーズに出ることを好みますよ。」

――ビデオで販売しないんですか?

「ほとんどないですね。『砂時計』とか、そのくらいですよね。ビデオレンタルで借りる人というのがそんなに多くないんですよ。」

――じゃあ若い人が昔の見たいと思っても見られないんですね。

「だから再放送のリクエストが多いですよ。最近はケーブルテレビで再放送をいろいろやってますよ。」

――テレビの映画化とかスペシャル版とか作ったりしないんですか?

「俳優たちのスケジュールを合わせるのが難しいし、韓国ではドラマが長い分作家たちも書き終えるとそこで疲れ果ててしまって(笑)、余計なものを書こうというところにいたらないんです。まあそういったニーズはあるのですが現実化するのは難しいですね。」