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脚本家インタビュー

ドラマ脚本家インタビュー イ・ソンミ作家

※2003年7月発刊「韓国はドラマチック」(東洋経済新報社)より 記事の転載は禁止です

韓国ドラマについてよく言われるのは、
視聴者の意見によって最初の企画意図からラストが変わってしまったり、
好評だとすぐ話数が延長になったりするという臨機応変なところ。
でもそれに対応していく脚本家の苦労はいかばかりか……?

実際のドラマ作家に、ドラマができるまでの進め方なども含めて話を聞いた。

イ・ソンミさんは、日本でも放送された『星に願いを』をはじめ、
大ヒットドラマを何本も生み出している売れっ子の中堅作家だ。

実は夫のキム・キホさんと夫婦で合作している、韓国でも珍しい夫婦作家である。

 

 ドラマもひとつの創作行為です

――ドラマが始まるまでの手順は?

「最初に作家がシノプシスを放送局に提出して、放送局側がそれをやるかどうかを判断した後で番組に取り掛かるんです。『星に願いを』も『危機の男』もそうでした。作家のほうから先に提出しました。

PD(プロデューサー兼ディレクター)がそれに合意すれば、ゴーサインが出ます。時期に関しては、ミニシリーズ(12話~20話ぐらいのドラマのこと)はだいたい1年前からスタート。もっと長い連続ドラマの場合は2、3年前から企画が始まると聞いています」


――PDは、どうやって決まるんですか?

「新人作家の場合は、PDのほうが作家にコンタクトを取るんですが、名前の知れた中堅作家の場合は、放送局のほうで作家に合うPDをマッチングしてくれるんです」


――第1話はどのくらい前にできあがっているものなんですか?

「第1話はドラマ全体の印象を決める一番大事なものなので、早くて5、6ヶ月前、遅くても3、4ヶ月前には仕上がっています。週末連続ドラマの場合は、またケースが違うかと思いますけどね」


――1週間に2話ずつ放送されるから書くペース配分が大変ですね。

「1週間に2回といっても、アイデアがわいているときは別になんでもないんだけど、やはり後半追われてくるとすごくきつくなってくるのは事実です。

配分という感覚ではなく、とにかく書くしかないという状況でやってます。先に全部仕上がっていれば楽なんだろうけど、そうじゃないから大変です」


――韓国では視聴者の意見でドラマの結末がよく変わると言われていますが、作家としてはそれについてはどう思っているんですか?

「ドラマもひとつの創作行為なので、視聴者の意見によって内容が変わるとよく報道されるのは、私はとても残念に思っています。創作行為に対しての理解に欠けているんじゃないかと思います。

視聴者の意見は途中途中で返ってくるけれど、それによって左右されるようではストーリーはめちゃくちゃになってしまうわけで、作家の頭の中にはラフながらも全体のストーリーラインは最初からもうできています。

途中少しずつ修正することがあるとしても視聴者の意見で大きく左右されるということはまずないと思ってもらいたいです。私の場合は特にそうです。

反響が大きいドラマの場合、女性視聴者は誰かと誰かがくっついてほしいという望みが強いんですが、例えば『星に願いを』の場合は、インターネットが今ほど盛んでもなかったし、自分の家にもインターネットがなかったので、自分の頭の中にあったものがドラマとしてそのまま表現されました。

だから私の場合はそういうことはありませんでした。ただ、主人公が死んでしまう結果だった場合、視聴者から殺さないでほしいという意見がすごく多かった場合には、テレビというメディアの特性上、あまり暗い結末よりは、やはり視聴者の意見を尊重するということは何回かありましたけどね」


――では、『星に願いを』はチェ・ジンシルとチャ・インピョが結ばれるはずだったのに、相手がアン・ジェウクに変わったという韓国での報道があって、私もてっきりそう思っていたんですけど、これは違うんですか。

「だいたいシノプシスで、このドラマはこういうドラマだと判断して記事を書き始める記者が多いと思うんです。

シノプシスというのはあくまでも放送局に決済を求めるための第一の材料で、ドラマそのものではないんです。だから最初のシノプシスではこうだったのに結末が違うじゃないかとシノプシスで判断されてはたまりません。でもドラマの特性上、創作過程が公開されるためにそうやって誤解を招くのかもしれませんね。

『星に願いを』の場合は、第8話でチェ・ジンシルとアン・ジェウクがミラノで会うシーンがあるんですが、これは第1回放送前にすでに撮影されていたものだったのです。もしドラマが視聴者の意見を反映しているものだったらこういうことは不可能ですよね」


――ドラマが好評だと延びたりしますが、脚本家にとってはこれは大変でしょう?

「実際私も『星に願いを』のときは延長してほしいという圧力があったんですが、そのときは拒否しました。なぜなら、やはり16話までということでストーリーを書いているのに、後から延ばすということはできないんです。

作家ができませんといえば、それを無理して放送局側が延ばすということは不可能です。でも新人作家の場合、放送局がそういう要求をしてくることはありますね。私も『星に願いを』のときは新人でしたから。

また最近は外注プロダクションで製作しているドラマも多くて、その場合1回1回が制作プロダクションの収益にかかわってくるから、何が何でも延長するという立場の人も多いわけです。でも最後まで作家がノーといえば延長しませんよ。

私は一度も延長したことがないので、その苦しさはよくわかりません」

――PDと作家の関係性は?

「デビューしたてのPDと私たちのような中堅作家がやれば、私たちのほうが立場が強くて意見も反映されるでしょうし、新人作家と売れっ子PDだったら当然PDが強いでしょう。

一概に言えませんね。でも週末ドラマの場合は作家のほうが強いと言えます。なぜなら週末ドラマは50話、100話の長丁場なので、大部分がスタジオ撮影で、セリフで勝負する作品がほとんどだから、作家の力に左右されるのです。なので作家の力が圧倒的に強いと言えると思います」


――キャスティングに作家の意見は反映されますか?

「それはよくあります。PDと作家とでお互いにこの俳優はどうですかという意見交換がまずあります。主要キャストの場合はほぼ一緒に決めるんです。助演の場合も意見交換をしながらということが多いですね」

 


女性の意識はものすごく変化した
 

――夫婦作家ということで、どのように書き上げているんですか?

「私たちは最初の企画からシナリオを書き上げるすべての過程を一緒に相談しながらやっています。私がまず全体的なシーンを書いてみて、夫が善し悪しを見て、こうしたほうがいいというように指摘してくれるんです。

だから例えば、セリフ一行書くにしてもお互いの意見が食い違うと書けないということになるんです。台本が遅れる理由は、互いの合意なくしては仕上がらないので、ひとりで書く人よりは倍の時間がかかってしまうからなんです。

ただメリットは男女が一緒に作業しているので、女一人、男一人で書くよりは、男の気持ちも女の気持ちもよく表現できるということでしょうね」


――『危機の男』の結末にはどんな反響がありましたか? 不倫ドラマの収め方には時代の変化もあるようですが。

「現実的な結末だという意見をよく聞きました。放送媒体そのものが作家を保守的なほうに持っていこうとする力があるようですが、私たちはそれなりに破格な結末だと思っていたんです。

でも最近の視聴者は作家よりも意識がもっともっと前に進んでいて、私たちのことを保守的だと批判する声も実はすごくありました。

どうして夫の恋愛のほうはうまくいったのに、妻の恋は結ばれなかったんだ、妻のほうも相手とうまくいってほしかったのに、どうして彼らはひとつになれなかったんだということを批判されたんですよ」


――見る側の意識に変化が見られているということですね。

「男と女の意識水準はすごく違いが見られます。女性の意識はものすごく変化したと思います。

女性団体のセミナーに招待されて話をしたら、数十人の主婦たちから、『危機の男』のファン・シネはもっと愛されて幸せになるべきなのに、どうしてああいう結末になるんだとすごく言われました。

女性の視聴者たちはこれだけ意識が変わっていて、以前と違って、我慢する、耐える女の時代はもう終わったんだなと強く感じました。

その反面、男の人たちはすごく停滞しているというのを感じました。『危機の男』も、男の人の中には、このドラマにすごく不満を言う人が多くて、主人公の夫の無能力さとか、私はそんなつもりはなかったけれど、すごいフェミニズムドラマだという怒りを露骨に表している評論家がいたりして、ああ、すごく男性たちの意識が滞っていてつまらないんだなということを感じました。

IMF以降の韓国社会での意識の変化は大きくて、昔ながらの権威主義や家父長的なものが崩れていって、その代わりにどんどん女の人たちが社会に台頭してきたのですが、そうした状況をあえてドラマでそこまで露骨に描く必要があったのかと男性にいろいろ言われました。

もっと男性の立場をよく描いてくれたらよかったのに……とかね。

でもそんなことは右の耳から左の耳に聞き流していました(笑)」

 

 自分が選んだ新人の成長が
 すごくうれしく楽しい

――ご自身が書かれた中でお気に入りの作品は?

「作家としては完成度ということで考えるんですが、個人的に『明日に向かって撃て』が一番好きです。このドラマの場合、主演から助演までほとんどが新人でした。

そういう意味で達成感があったし、裏番組がSBSの『白夜』だったんです。あれはシム・ウナやチェ・ミンス、イ・ビョンホンといった豪華キャストで、その裏番組に勝ったといった意味でもすごく気分よくできた作業でした。

ドラマの内容も芸能界の裏側のマネージャーたちのお話なんですが、すごく明るくて前向きで愉快で夢もあって、放送ドラマが目指すべきところがこのドラマに凝縮されていたんじゃないかと自負しているんです。だからすごく楽しくできたドラマでした」

――キャスティングに関してのエピソードは?

「新人をキャスティングしたことが多くて、『愛をあなたの胸に』では、チャ・インピョをキャスティングして彼はスターになりました。忘れられない作品のひとつです。

最終に残ったふたりのうちひとりを選んでくれとPDに言われて、それがチャ・インピョともうひとりだったんです。ふたりとも演技はすごくへただったんですが、チャ・インピョのほうが少しうまかったんですね。

それで彼を選んで、彼はスターになっていったんですが、こうやって俳優がどんどん成長していって、スターとして作られる過程を実感できることは私にとってすごくうれしく楽しいことです。

『星に願いを』のときも、アン・ジェウクも新人だったんです。彼のことはその前からずっと注目していて実際に演技もうまかったんですよ。

もうひとつは『明日に向かって撃て』のユ・オソンです。ユ・オソンは放送局からものすごく反対されて、2ヶ月間言い争いをして勝ったケースなんです。忘れられないキャスティングですね。その前から芝居でユ・オソンの演技を見てすごく注目していて、このドラマでは役者らしい役者を使いたいんだと意見を押し通したんですが、PDもこの意見に乗ってくれて、PDとがっちり組んで放送局と戦ったんです。

反対された理由としては、顔がちょっと険しいとか、テレビにふさわしい顔じゃないとか、不細工だとかいろいろ言われました。

ヒロインのパク・ソニョンの場合もKBSから移ったばかりで、主人公には向かないんじゃないかと反対されたんですが、今でもふたりとも健在ですごく活躍してがんばっているので、すごくありがたく思っています」


――韓国のドラマは後半になるとよく台本が遅れて当日になることもあると聞きますが、遅れてしまう理由は何ですか?

「私は台本が遅れることで悪名高い張本人のひとりなんです。

それは作家のスピードによるんですが、私たちはどちらかというとすごく怠け者の作家で、仕事が速い作家は、50部作でも全部書き終えてから始まる場合もあるんですが、私たちは、最初の4回がドラマ全体の印象やキャラクターまでを決定付けるものだと思うから、これにはすごく時間をかけます。

5、6ヶ月前から始めても、それを全部使い切ってしまうことがあるんです。だいたい20部作のドラマがスタートするまでに、7、8話まで書き上げて始めるんですが、1日で1回分ができることもあるし、遅いときは1回に2ヶ月かかってしまうこともあるんです。

私たちの場合、時間があると次に次にと延ばしてしまう傾向にあるので、それで遅れてしまうんです」

――いつから夫婦で?

「『星に願いを』からです。『愛をあなたの胸に』は私ひとりでした」

――次回作は?

「『千年の愛』です。百済のお姫様が2003年のソウルにやってくるというSFファンタジーラブロマンです。

日本の華族の血を引いた1000年ぐらい続く家柄の息子も出てくるんですよ。3月の頭から放送です」

  • イ・ソンミさん、キム・キホさんの主な作品(注2002年までの作品です)
    『愛はあなたの胸に』
    (イ・ソンミさん単独執筆)
    1994年 MBC
    PD=イ・ジンソク 主演=チャ・インピョ、シン・エラ、イ・スンヨン
    大手デパートの御曹司と貧しいデパートガールの恋。そこに御曹司の昔の恋人で今は上司の妻となっている女性が絡んで繰り広げられるトレンディードラマ。主演のチャ・インピョはこのドラマでシンドローム現象を起こすほどの人気を得、共演者のシン・エラと結婚したことでさらに話題になった。

『チェンジ』
(イ・ソンミさん単独執筆)
1996年
監督=イ・ジンソク 主演=キム・ソヨン、チョン・ジュン
女生徒と男子生徒が落雷がきっかけで入れ替わってしまうという韓国版『転校生』。

『星に願いを』
1997年 MBC
PD=イ・ジンソク 主演=チェ・ジンシル、アン・ジェウク、チャ・インピョ
孤児院出身の少女が金持ちの家に引き取られ、その家族にいじめられながらもデザイナーを夢見て成功をつかむという韓国版『キャンディーキャンディー』。ヒロインと恋する歌手ミン役のアン・ジェウクがこのドラマでブレイクした。中国における韓流の火付け役になったドラマ。ちなみに私を始め、このドラマがきっかけで韓国エンタメにはまった人は多い。

『明日に向かって撃て』
1998年 MBC
PD=ジョン・イン 主演=ユ・オソン、パク・ソニョン、オ・ヨンス
ひょんなことから歌手のマネージャーになった落ちこぼれのデホ。歌手志望のスヨンとの恋なども織り交ぜながら、デホが成功や挫折を経験し、再起をかけて明日に向かってがんばる姿を描くバックステージドラマ。

『日差しに向かって』
1999年 MBC
PD=パク・ソンス 出演=チャ・テヒョン、キム・ヒョンジュ、チャン・ヒョク、キム・ハヌル
ままならない青春時代に出会った4人の男女。父親に反発し、自堕落に生きてきた男が、貧しいながらも正直に懸命に生きている女性に出会って成長していく。チャ・テヒョンがシリアスな役に挑戦し、チャン・ヒョクは、無口だが、心優しい反抗児を演じてそれぞれ魅力的。

『危機の男』
2002年 MBC
PD=イ・グヮニ 出演=ファン・シネ、キム・ヨンチョル、ペ・ジョンオク、シン・ソンウ
結婚10年目の夫婦が陥った離婚の危機。夫の前には昔の恋人が現れ、妻にも心を騒がせる男性が出現する。「危機の男」と言いながらも物語は不倫ドラマの女王ファン・シネの目線で進んでいく。なんと言ってもファン・シネの不倫相手になるシン・ソンウの、愛に満ちた眼差しが最高!切ない音楽も相まって酔わされました。