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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑩姦通罪があっても不倫は絶えない!?

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)より。記事の転載禁止

韓国にはいまだに姦通罪が存在し、
配偶者のいる者が姦通した場合には2年以下の懲役に処せられる。
この者と相姦した者も同じだと 規定されている。

さすが儒教の国韓国、さぞかし韓国では不倫は少ないに違いない
と思いきや、そんなことはあまり関係ないらしい。

その証拠に映画やドラマの場面でも、
不倫している本人たちにあまり罪の意識がないせいか、
「姦通罪です」と刑事にいわれても寝耳に水という感じだし、
日本と遜色ないほど不倫は多い感じを受ける。
抑止効果があるのかないのか、微妙な感じだ。

『ディナーの後に』は、
インテリアデザイン会社の社長ホジョン(カン・スヨン)、
ホテルスタッフのヨニ(チン・ヒギョン)、
大学院生のスニ(キム・ヨジン)という3人の女性たちが
セックスライフを赤裸々に語り、韓国女性の新しい一面を描いた作品。

この中で、ホジョンは複数の男性と関係を持つ開放的な女性だった。
その中には妻子持ちの男性もいた。
それで、家でみんなで焼肉パーティーをしているところに
刑事が2人来て「姦通罪で起訴されたのでご同行を」といって、
ホジョンを連れていく。

ホジョンは「えっ?」というものすごく意外な顔だ。
ヨニとスニが、訴えた妻のところに
告訴を取り消すように頼みに行くが、

妻「ホジョンさんのことは恨んでいません。
うちの人を懲らしめるためなの。彼女には気の毒ね」

ヨニ、スニ「どうか人助けだと思って」

妻「どうせ和解することになるし、そうしたらすぐに出られるわ、
それまで少しの間苦労してもらわないと」

というやり取りをするのである。

この姦通罪は配偶者の告訴があって初めて成り立つ親告罪。
原則的に離婚を前提としないと告訴できない。
そして、夫だけ、あるいは相手の女だけを訴えることは
できないことになっている。
あくまでもふたりで犯した罪だから、両方罰せられる。

だからこの映画の中の妻は、恨んでいないといいながらも、
夫を懲らしめるためにホジョンも訴えざるを得なかったのだ。

また、離婚訴訟をカモフラージュに、姦通罪で訴えた後で、
この妻が夫とよりを戻したり、離婚訴訟を取り下げたときは
告訴は取り消しになったとみなされる。

このように、離婚が前提となると多くの女性は躊躇するのだろう
もちろん男性もだろうが、映画やドラマで不倫は結構描かれるが、
実際に姦通罪で訴えられたという場面は少ない。

例えば、こんなケースもある。
『止まらない愛』で、キジョン(オ・ヨンス)との恋に生きようとする
ハン社長(チョ・ミンギ)が妻に別れてくれと言い出す。

この妻は夫のおかげで留学をしてデザイナーになったキャリアウーマン。
家事と子育てはほとんど義母任せで、
夫にもいろいろな面で甘えている女性。
「あなたに好きな人ができたらいつでも別れるわよ」
なんて言っていたのだが、
いざ本当に別れを告げられるとショックを受け、
しかもその相手が自分が密かにバカにしていたキジョンだった
ということを知って激怒する。

 

すぐさま弁護士のところに相談に行って、

「姦通罪はやめて。離婚する気はないから。夫を傷つける気もないし。
夫は十分に罰を受けたから、彼女だけを罰したいの。
親切な振り、賢い振りして私を欺いたわ。
彼女のしたことに対して仕返しをしたいの」

と怖ーいことを言って、
結局キジョンに対して慰謝料訴訟を起こして
3億ウォン(約3000万円)を請求するのだ。

姦通罪に関しては韓国でも存続廃止を巡って論争が絶えないが、
近いところでは、2001年の10月25日、
刑法第241条の姦通罪は違憲だとの起訴に対し、
憲法裁判所は、姦通罪は合憲という決定を下した。

当日の『朝鮮日報』の記事によると、裁判官や法曹関係者の中には、
「姦通は夫婦間の問題で、離婚や民事上損害賠償の対象であって、
国家の公権力が介入すべき問題ではない」という意見も
少数ながらあるという。

また、韓国女性民友会の家族と性相談所の声として、
「男性優越主義が強い韓国の現実で、
男性に比べて女性のほうが姦通罪の大きな被害者となっている。
今後も姦通罪廃止運動を続けていく」という意見も紹介していた。

ちなみに『ディナーの後で』の中で、
警察に連れていかれたホジョンは、鉄格子の留置所に入れられ、
その後和解が成立したのか、ようやく釈放された。
そして心配している友人たちに向かって悪態をつく。

「チクショウ、いつから刑事や検事が私の下半身の管理を
するようになったの? 国家保安法ならまだしも
姦通罪って何よ、クソ食らえだわ」

そして映画の最後には、ホジョンはフランスへ行く決意をし、
付き合っている男に別れを告げる。

男「フランスには姦通罪がないから行くのか?
結婚して幸せになれば世間は忘れるさ。行くな」

ホジョン「私も行きたくないけど仕方ないでしょ。
スニによると政治亡命だって。祖国が自由になる日に帰るわ!」

韓国ではこう思っている人はきっと多いことだろう。

注:姦通罪はその後2015年に廃止になりました。

参照作品

『ディナーの後に』
1998年作品
監督・脚本=イム・サンス 出演=カン・スヨン、チン・ヒギョン、キム・ヨジン
自由奔放なキャリアウーマンのホジョン、保守的なホテル従業員のヨニ、耳年増なくせに処女の大学院生スニの3人は、しょっちゅう夕食を共にしながら男について、性について開けっぴろげに語り合う。当時の韓国で、女性の性意識に新境地を開いたと話題になった。

『止まらない愛』
2002年 KBS
PD=イ・ガンヒョン 脚本=イ・ソンヒ 出演=オ・ヨンス、チョ・ミンギ、ソン・ソンミ
30代の男女のプラトニックな不倫物語。喧嘩ばかりしながら惹かれあっていくという、その描写、エピソードの一つ一つに胸がキュンとなるピュアなラブストーリー。どんなに惹かれていても男は「僕は結婚しています」といって、それ以上進むのをためらう。このストイックさがいい。すぐに一線を越えてしまうような日本の不倫ドラマを見慣れていると思わず拍手したくなる。