取材レポ・コラム
映画&ドラマで見るドラマチック韓国
⑥若き乙女も結婚すれば「アジュンマ」
東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)より。記事の転載禁止
「アガシ(=お嬢さん)」か「アジュンマ(=おばさん)」か
の区別は、若いか若くないかということ以上に、
結婚しているかいないかで分かれる。
『守護天使』では、孤児院育ちのダソ(ソン・ヘギョ)が、
姉妹同然に育った女性が事故で亡くなったため、
その遺児を引き取って育てているが、彼女の年齢は20歳そこそこである。
そのダソに好意を寄せているのが、
年上の男ハ・テウン(キム・ミンジョン)だ。
彼は、彼女が未婚と思っていた時は「アガシ」と呼んでいたのに、
彼女に子供がいるとわかると、いきなり「アジュンマ」呼ばわりをする。
ダソのほうもそう呼ばれてさして嫌そうでもなく、
当然という顔をしている。
そうかと思えば30歳すぎの独身女性が、
子供から「アジュンマ」と呼ばれてむっとして、
「ヌナ(=お姉さん)」でしょと言い直させている場面もあった。
女性同士で呼ぶ場合、親しい間柄だと、
名前よりも、「オンニ(=お姉さん)」という呼び方がよく使われる。
でも「オッパ」が、呼ばれたほうは嫌な気がしないのとは対照的に、
「オンニ」は誰もがうれしく思う呼ばれ方ではないようだ。
例えば、『サイの角のように一人で行け』という映画の中で、
先輩アナウンサーが後輩から「オンニ」と呼ばれて、
「オンニと呼ぶのやめなさい、先輩と呼びなさい」と厳しく言い直させていた。
また、『あなたそして私』では、モデルスクールで学ぶ女性が、
スクールの女性教師にアルバイトの斡旋を頼むときに、
「オンニー」と擦り寄ってお願いするのだが、
「私はあなたたちのオンニではないわ」と
冷たく言われてしまう場面があった。
「オンニ」という呼び方には、やはり甘えの関係がにじみ出る。
だから仕事関係の場所では使い方が微妙になるようだ。
逆に、こう呼ばせることを許したら、
甘えられても文句がいえないということだろう。
ところで、韓国の女性は結婚して子供ができると
名前を呼んでもらえる機会が極端に少なくなる。
なぜなら子供の視点から呼ばれるようになるからだ。
まあ日本でも似たようなものかもしれないが、
少なくとも苗字は呼んでもらえる。
しかし韓国では、例えば、「ポム」という名前の子供がいたら
「ポムオンマ(=ポムのお母さん)」と呼ばれることになる。
妻が独立して働いてでもいない限り、
一般的にはずっと「ポムオンマ」のままだ。
これは第3者からだけでなく、ときには夫婦同士でも使われる。
夫婦同士の呼び方として代表的なのは
「ヨボ(=お前)(=あなた)」だが、
ほかに、この「ポムアッパ(=ポムのお父さん)」「ポムオンマ」と
自分の子供の名前をつけて呼ぶのだ。
これに慣れないうちは、会話を聞いていて、
「あれ? このふたりって確か夫婦だったのに、なんで
他の子供のお母さんやお父さんを呼ぶような呼び方するのかなあ」
と不思議に思ったものだった。
『密愛』では、夫の暴力に悩まされ、
峠の茶屋のようなお店をたたんで逃げようとしている女と、
不倫が明るみに出てしまった人妻(キム・ユンジン)が語り合う場面で、
逃げようとしている女が、
「私の名前教えてあげる。でも呼ばないでね。
そういう名前だって覚えていてくれればいいの。
15歳のときから名前で呼ばれたことないから」とポソっと言うのだ。
結婚しても苗字が変わらない韓国女性だが、
それは男性が脈々とつなげてきた一族の数に
入れてもらえていないことの現れでもある。
その上その名前すら読んでもらえなくなるというのは
なんともさびしいことだ。
参照作品
『守護天使』
2001年 SBS
PD=キム・ヨンソプ 脚本=イ・ヒミョン 出演=キム・ミンジョン、ソン・ヘギョ
なんだかんだいいながらも影に日向にひとりの女性を守り続ける男。飲料業界を舞台に、出生の秘密を抱えた男と、訳あって一人娘を育てている女性が恋に仕事に活躍していく。
『あなたそして私』
1997年 MBC
PD=チェ・ジョンス 脚本=キム・ジョンス 出演=チェ・ジンシル、パク・サンウォン、チャ・インピョ、ソン・スンホン
会社の同僚スギョンとドンギュは両者の家庭環境の違いを乗り越えて結婚するが、結婚後もドンギュの田舎の父親や妹弟らが同居することになって大騒ぎ。毎日誰かが何か事件を起こして繰り広げられる悲喜こもごもが描かれる。韓国お得意の大家族ドラマ。
『密愛』
2002年作品
監督=ビョン・ヨンジュ 脚本=キム・ジェヒョン、ビョン・ヨンジュ 出演=キム・ユンジン、イ・ジョンウォン
幸せな結婚生活が一転、夫の不倫相手が乗り込んできたことでうつ状態に陥った妻。夫と子供と共に田舎に引っ越してやり直そうとするが、そこで出会った医師とゲーム感覚で不倫関係を始めるうちに、どんどん本気になっていく。狂おしい愛にのめりこんでいく魅惑的な人妻をキム・ユンジンが情熱的に演じている。