映画解説
強力おすすめ
タイトル | 八月のクリスマス |
---|---|
韓国公開年 | 1998年 |
出演者 | ハン・ソッキュ シム・ウナ シン・グ イ・ハヌィ チョン・ミソン |
監督 | ホ・ジノ |
【 映画紹介 】
『八月のクリスマス』は、不治の病で余命いくばくもない青年の元に最後に訪れた愛、そこはかとなく、人間のやさしい情が描かれているラブストーリーです。
日本においては2000年の1月に公開された『シュリ』の大成功が韓国映画を一躍印象付けましたが、実はその1年前の夏に公開されたこの『八月のクリスマス』こそが、韓国映画に対する偏見や先入観を一掃させたといっても過言ではないと思います。
写真館を営むジョンウォン(ハン・ソッキュ)はいつも笑顔を絶やさず写真の現像にやってくるお客たちに接している好青年。でも彼は自分の死期を悟っています。そんな日常に現れた交通取締員の女性タリム(シム・ウナ)。駐車違反車の写真の現像を頼まれるうちに彼女との会話を楽しみにするようになりますが、病気は待ってくれないのでした。
ホ・ジノ監督は、小津安二郎を尊敬しているといいます。作品を見ていると淡々とした日常を描きながらも、そこに詩情が漂う雰囲気は小津安二郎の作品を彷彿とさせます。描くもの、そしてその描き方からして、日本人好みの監督だと思います。
主人公ジョンウォンを演じたハン・ソッキュは、韓国では、出演した映画は必ずヒットするという興行不敗神話を持つトップスター。力の入った演技タイプの多い韓国男優の中にあって、自然な演技のうまさに定評がある人です。ここでも、死に向き合い、いくつもの葛藤を通り過ぎた後の人間が持つ、一歩引いた様な静寂感、透明感が伝わってきます。
一方の交通取り締まり員タリムを演じたシム・ウナは、この作品で日本で最も知られる韓国女優の一人になりました。その後韓国映画界を代表するトップ女優に成長しましたが、そのきっかけとなったのが、この『八月のクリスマス』でした。
感情過多になりがちな韓国映画の中にあって、静かに、抑えた描写で見るものの心にしみこむような感動を与える珠玉の作品です。
この作品、見終わってしばらくたってからじわじわと感動が沸き上がってきます。
『八月のクリスマス』は、ホ・ジノ監督が、「死にゆく人の日常生活を撮りたいという気持ちから作り始めた」というだけあって、死期が迫った青年の残りの日々に、父や妹と過ごす風景、友達との会話、ジョンウォンが経営している写真館にやってくる客たちとのやり取り、そしてほのかな恋心が織り込まれていきます。いくらでもドラマチックになりそうな素材をあえて誇張したりはしません。なんでもない風景、どうということの無い日常がとても淡々と描かれるのに、景色が、セリフが、眼差しが、心にしみこんできます。
地元韓国では、単純なメロドラマの慣習を越えて作家的視線まで引き上げたと評され、興行と批評の両面で高い評価を受けました。