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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑦年齢にこだわる韓国人

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)より。記事の転載禁止

日本で女性に年齢を聞くのはタブーだが、
韓国では初対面からズバズバ聞いてくる。
見た目でなんとなく判断してくれればいいのに……と思うのだが、
結構しつこく食い下がって聞いてくる。
初めはなんでそんなこと聞くんだと思ったが、
韓国をいろいろ知るようになると納得がいってきた。

韓国は儒教社会なので、上下関係が非常に厳しい。
ひとつでも年が上の人に対してはタメ口なんてもってのほかだ。
それも同じ学校の先輩だったりしたら、
それはさらに厳格に守らなければならなくなる。

そのせいか、韓国では最初に相手の年を聞いて、
言葉遣いやその後の言動に気をつけようという気持ちが働くようだ。
だから映画やドラマでも相手の年を聞く場面がよく出てくる。

『猟奇的な彼女』では、
出会ったときからタメ口をきく ‘彼女’ に対してキョヌが、

キョヌ「君の身分証を見たら1978年生まれですね。
僕にタメ口をきくのは……」

彼女「それがどうしたって?」

キョヌ「別に……、参考までに僕は1977年生まれ」

彼女「じゃあタメ口で」

というように、自分のほうが年上なのだから
丁寧語を使うべきだといいたいのに、
‛彼女’ の勢いに押されて結局タメ口のままになってしまった。

 


『ナンバー・スリー』では、チンピラからやくざ組織の
ナンバー3にまで上り詰めたテジュ(ハン・ソッキュ)が、
テジュたちを目の敵にしている検事ドンパル(チェ・ミンシク)と
話すときも生まれた年にこだわっている。

ドンパル「何年生まれだ」

テジュ「1962年」

ドンパル「サバ読まず正直にいえ」

テジュ「1964年です」

ドンパル「俺は1962年だ。タメ口きいてもいいな」

テジュ「そうですか。じゃあ、ヒョン(兄貴)と呼ばせてもらいます」

ドンパル「ふざけんな、やくざはお断りだ」

このように、韓国の人はとにかくお互いの上下関係を決めないと
落ち着かないようなところがある。

また、似たような年齢同士だと
少しでも相手より優位に立ちたいという気持ちが働くようだ。

『太陽はない』は、興信所の何でも屋をやっている
ホンギ(イ・ジョンジェ)と、パンチドランカーで
ボクサーをあきらめた男ドチョル(チョン・ウソン)という、
うだつの上がらない2人の青年が織り成す青春映画。

なにかとええかっこしいのホンギは、
一緒に暮らすことになったドチョルにまず何年生まれかを聞く。

ホンギ「何年生まれだ?」

ドチョル「1974年」

ホンギ「俺より2つ下か。じゃあ室長様と呼ぶべきだが兄貴でいい。
不便なことがあればそのつどいえ」

ところが、ドチョルはその言葉を信じていない。
そして、その後もタメ口をきく。それに不服なホンギが、

ホンギ「そのタメ口……」

と言うと、ドチョルはおもむろに、

ドチョル「見せろよ」

ホンギ「何?」

ドチョル「住民登録証、見せろよ」

ホンギ「すぐに見せてやるさ」

ドチョル「嘘ついてるだろ、1975年だろ」

ホンギ「ほんとだよ」

ドチョル「じゃ見せろ」

ホンギ「見せるさ」

ドチョル「見せろよ」

という会話になる。
映画の本編ではここで次のシーンに行ってしまうが、
シナリオ上ではホンギは本当に1972年生まれだったので
ドチョルはバツが悪いが、
ホンギのほうから友人になろうぜと言い出して、
その後は対等な関係になるというシーンだった。

『だるまよ遊ぼう』は、暴力団抗争に敗れたやくざグループが
山の中の寺に逃げ込むが、僧侶たちと対立しながら情を育てていく
というウェルメイドなアクション・コメディー。

最初、あまりに世界の違うやくざたちと僧侶たちは
お互いの存在が気に入らない。
なんとか出ていってほしい僧侶たちは、やくざたちに、
サッカー、花札など、さまざまな勝負を申し込む。
そのうちのひとつ、どれだけ長く水の中に潜っていられるか
という競争のとき、やくざチームも僧侶チームも
それぞれ海兵隊出身者を候補に出す。

そのとき、「お前何期だ」という話になり、
僧侶チームが654期だったのに対し、
やくざチームのほうはそれより26期も下の680期だ
ということがわかった瞬間、このやくざは小さくなり、
僧侶に頭が上がらなくなるのだ。

この上下関係の厳格さが韓国のよさでもあり、
ときには短所になってしまうところでもある。

2002年のサッカーワールドカップでベスト4に残った韓国チームだが、
ヒディング監督が就任した当初は、メンバー同士、
どうしても先輩に遠慮してしまい、
チームプレーが100%発揮できなかった。

それでヒィディング監督が真っ先にやったことが、
そうした上下関係の壁を取り払うことだったというのは有名な話だ。

参照作品

『ナンバー・スリー』
1997年作品
監督・脚本=ソン・ヌンハン 出演=ハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、ソン・ガンホ、イ・ミヨン
チンピラのテジュはボスを助けたことで昇格し、組織のナンバー3になる。それ以降はさらなる出世を目指して元ホステスの妻のことはほっといたまま。妻は詩の先生ランボーと浮気してさびしさを紛らわしていた。そこにテジュたちを一掃しようと検事のドンパルが登場し、テジュたちと対決する。しがない三流男たちを描いたシニカルコメディー。


『太陽はない』
1999年
監督=キム・ソンス 脚本=シム・サン、キム・ソンス 出演=チョン・ウソン、イ・ジョンジェ、ハン・コウン
パンチドランカーになったボクサーの青年と、いつかは大きなビルを立ててやると野望を持つしがないチンピラ男。ふたりは喧嘩しながらも友情を育んでいく。そこに女優を夢見る女性が絡みながら、挫折を重ねつつも夢を見続ける20代の青春が描かれる。


『だるまよ遊ぼう』
2001年作品
監督=パク・チョルグァン 脚本=パク・ギュテ 出演=パク・シニャン、チョン・ジニョン、パク・サンミョン
暴力団抗争で傷ついたやくざたちが、困った末に逃げ込んだのは山寺だった。寺のお坊さんたちは突然の珍客に大迷惑。追い出そうとあの手この手で勝負を持ちかけるが、一緒に過ごすうちに互いに情が通い始め、力を合わせて真の敵に立ち向かう。ウェルメイドなアクション・コメディー。