取材レポ・コラム

ヤン・ジュンモのマスタークラス③   声を出すポジションを上げる実践訓練編


「声を遠くに届けるには、力で飛ばすのでなく、イメージで遠くに飛ばすことが大切。遠くに届けようとイメージするだけで変わる。目だけで話をするイメージで。」

「トレーニングするときは意識的に表情も使うこと。眉毛の上がり具合で、口から上の空間を使っているとわかります。」

「例えば良い香りのする花をかぐようなイメージをして声を出す。それが高音の出し方です。あくびして、熱いジャガイモを食べたようなイメージ。花の香りをかぐとき声の方向は上に上げて。空間を使う訓練なので、喉から声を出すのでなく、頬骨のあたりから声を発するイメージ。このイメージがないと、ワイヤレスマイクをつけても声は遠くに飛ばないです。」

と明るい声の出し方、ポジションを高くとる訓練についてイメージを語ってくれるジュンモ先生。

 

「手を前に伸ばしてその手のひらが口だと思ってそこから声を出す感じ。そして後ろから誰かがおへそをつかんで背中に引っ張ってる感じの呼吸をしてください。
やりにくいだろうけど、これができないと明るい声は出ない。
呼吸しながら、目だけで遠くに飛ばすイメージで。自然に眉毛が上がるはず。それがポジションを上げて声を出すということです。
この訓練は舞台に立つ人は必要です。」

そして今、現状を何とかしたいと切羽詰まっている人は…と言って教えてくれた方法は、

毎朝起きた後すぐに本を読むこと。
声を遠くに飛ばすイメージをしながら、音を明るく出してみる。
それをしていて喉が痛くなったら、それは間違っているということ。
自分ではわざとらしく感じるかもしれないくらいが正解。
不自然だなあと思うくらいがまずスタート。
そして寝る前にも必ずもう一度同じように本を読む。
寝る前はウォームアップができているのでのどが開いた状態。
だからだいぶ朝とは差を感じると思うはず。
これを2週間続けてみること。

だそうです。
そうするとだいぶ声が明るくなるのだそうです。

呼吸の方法については、

歌をうたう時、音を出そうと意識して出してしまうとダメで、力を抜く訓練もしなければいけない。
ということで呼吸のコツも具体的に伝授。

「僕の場合は鼻呼吸でなく口呼吸をしてます。テクニックによって鼻呼吸するときもあるけど。シアターボイスは呼吸の勉強をしてる人としていない人との差は3,4倍にもなります。」

「立ってゆっくり息を吸って横隔膜まで息が入ってきているか確認して~。
おへそを引っ張った時、何かに驚いた時のテンション、このおなかをずっと引っ張って、放す。これが横隔膜を広げる方法。この状態で明るいトーンでしゃべってみて。
眉毛を上げて明るいトーンで話すイメージ。すると自然に息も入ってくるから」

ジュンモ先生が一人一人の横隔膜の呼吸を確認して回りましたが、
受講生たちは、なかなかこの呼吸が慣れないようでした。

「歌う時はこの呼吸を習慣にしてください。私も今もトレーニングしています。これをやめると歌の音が変わってしまうので。」

キム・スハさんは『ミス・サイゴン』のためにヤン・ジュンモさんに習い始めて2年ほど。いつもこの呼吸を心掛けているけど、それでもまだこの呼吸が完ぺきにはできないのだそう。そしていつも眉毛上げて歌うことも意識していると言ってました。

でもこれを聞いて納得。ものすごく日本語の歌詞がすごくクリアにすっと耳に入ってきたのはこの彼女のブライトな歌声だったから、歌詞がきれいに伝わってきたのだなと。それこそ、今回のテーマの一つの「明るい発声で歌詞伝達力を高める」が実践されていたのだなと思いました。

そして最後の2時間は、すでに舞台に立っているミュージカル俳優さんを中心に、それぞれの聞いてもらいたい曲をみんなの前で歌ってジュンモ先生からアドバイスを受けるという時間になりました。
時間がない中ぜひアドバイスをもらいたいと、受講生からは我も我もと手が上がります。

『モーツァルト』の「僕こそ音楽」を歌った現役の俳優さんが、演技そっちのけで無表情で歌を歌ってしまっていたのですが、
ここでヤン・ジュンモ先生から一つのアドバイスがありました。
「歌を歌う前に歌詞を朗読する練習はすごく役に立ちます」
ということで、まず歌詞の内容を感情を入れて僕らに向かって説得してみて、と。
すると、歌う時はあまり表情が無かったのが、説得モードに入ると表情が変わりました。
「演技するとき歌う時、客からの目となって自分の立つ姿をイメージして。客観的に自分を見られるようにならないとね。あなたのポジションは今、胸から喉という低い位置にあるので、普段の話し方から、少し気がおかしい人くらいのようにポジションを上に持って行って話すようにしてみて」


同じく『モーツァルト』の「ダンスはやめられない」を歌った女優さんには、
地声で歌う人たちは特にあごの位置が大切なのだと力説。
「韓国のトップ女優たちは地声で歌う時、みんな口の中まで見えるから。声を遠くに飛ばすにはおなかを後ろに引っ張ることを意識する。自然に表情に出る人たちはポジションを上に上げるのが上手いので喉のダメージが少ない。とにかく眉毛を上げるイメージです」
大学路で上演中の『あなたが寝てる間に』にも出ていた女優さんは、訛りのあるおばさん役だったのでわざと喉に力を入れて声を低く作ってやっていたら公演の度に喉の消耗がひどかったのだそう。「6カ月ずっとその稽古をしてきたのですぐには変えられないけれど…」と言いながらジュンモ先生の言われるままに声の出し方を試しているうちに「あっ」と気づきがあったようでした。

また練習生の男性には、「君はワイヤレスマイクを使うと声がくぐもる声質なのでもっとブライトにしていこう。ポジションが上がった瞬間に声の魅力が2倍になるはず。ポジションが上がると伝達力がより豊かになるからね」と励ましていました。

そして『ラスト・ファイブイヤーズ』から「Moving Too Fast」を英語で歌った染谷洸太さんには、「歌のポジションはいいよ。呼吸のトレーニングをした方がいいね。今歌ったのは英語だったけど、日本語の歌の時にそのポジションを取れるかだね。稽古を重ねれば様々な歌が歌えるようになるよ」と、今後何を重点に練習すればいいかのアドバイスを授けていました。

と、ここで時間終了。
「今日した話は、今よくわからなくても、あるとき、ああ、こういうことだったのかと気が付く瞬間が来ると思います!」
という言葉で講義を締めくくったヤン・ジュンモさんでした。

今回の講義は、「声を出すポジションを高くとって明るい声を出すイメージで発声すると歌詞伝達が良くなり、喉も傷めずに様々な声を出すことができる」というノウハウを若い俳優たちに分け与える時間でした。
自身も「ポジションを高くとればいいのだ」ということに気が付くまで試行錯誤もあったというジュンモさん。
「韓国語も日本語も同じで、ポジションを上げなければ喉に負担がかかりますからね。僕が14年ミュージカル俳優しながら、どのようにしたら観客により感情が伝わって、そのうえで自分の喉も傷つけず負担なく歌えるのかを自分なりに研究した結果の講義になります。
今回は新人俳優中心でしたけど、新人だからこそ特に受けなければならない内容だったと思いますね」
でもベテランたちは自分なりの方法も会得し、歌や声の悩みもそんなにないのかと思いきや。
「いえ、そうではないですよ。僕自身も1時間後にレッスンを受けに行かねばなりませんが、みんなまだまだ不安は多いと思います。足りないところは何なのかを把握して本人が努力し続けなければならないという面では、経歴や人気は関係ないです」
と言って、自身のレッスンへと向かって行かれました。
今でも週に2回、歌のレッスンを受けているのだそうで、自身が教える立場になってもさらに学ぶという姿勢、努力と向上心には本当に頭が下がります。

ヤン・ジュンモさんが日本で再びジャン・バルジャン役を務め、今回マスタークラスに参加した染谷洸太さんがアンサンブルで出演する『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演は、帝国劇場にて5/25~7/17(プレビュー公演5/21~5/24)上演されます。

 

2017年3月25日執筆 取材・文:田代親世
取材協力:韓国ミュージカルコーディネーター 高原陽子