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イ・ソンジェ

カメレオン俳優は何もソル・ギョングだけではない。イ・ソンジェも役によってかなり違ったイメージになってしまう人である。

映画『チャグイモ』ではすごく素敵な雰囲気をたたえた男性として登場した。恋人の裏切りに合ったため自殺して幽霊となって恋人への復讐を図ろうとするキム・ヒソンを優しく見守り教え諭す先輩幽霊の役だが、落ち着いて、知的で、ちょっと引いた感じが『8月のクリスマス』のハン・ソッキュにそっくりだ。

またシム・ウナと共演した『美術館の隣の動物園』ではちょっと図々しい今どきの青年を生き生きと演じ、イ・ジョンヒャン監督から「水のような俳優」と評されたという。

そして『アタック・ザ・ガス・ステーション!』では、青年時代のトラウマから社会に不満を抱く男の役で、イ・ソンジェは髪を短く刈り上げて、表情を表に出さず、にらみの利いた硬派の演技を披露した。

2000年の『吠える犬は噛まない』では、教授になることを夢見ているが世渡りが下手で、そのイライラを近所の犬に当たるという小市民役を面白まじめ的にやっていて、どれもこれも印象がまるで違う。

コ・ソヨンとの共演で、たった一日しか生きられない赤ちゃんと夫婦の愛の物語『エンジェル・スノー』では、軽くウェーブのかかった髪を少し長くのばし、またがらっと雰囲気を変えて出ている。硬派からナイーブな男まで変幻自在だ。

背が高く、持っている雰囲気も素敵。しかし強烈なカリスマ性があるかといわれれば、それはない。でもだからこそスター女優と組むと女優の魅力を殺さずに生かすことができる存在なのだと思う。フィルモグラフィーを見てみれば、キム・ヒソンにシム・ウナにコ・ソヨンと韓国を代表する美人女優ばかりを相手にしていて、男性陣からすればうらやましい限りだろう。

大学3年の時俳優になろうと決心し、2度の不合格のあとMBC24期のタレントに採用された。その後2年ほどは泣かず飛ばずだったがKBSのドラマ『嘘』で切ない愛に陥る美術家の役で女性ファンの心を掴み、映画界へ。映画では最初から作品に恵まれ、『美術館の…』で大鐘賞を始め各映画賞の新人男優賞を獲得。『アタック・ザ・ガス・ステーション!』で青龍賞の新人男優賞、百想芸術大学の人気賞を受賞。名実ともに評価の高い俳優となった。


演技に対してすごくまじめで、作品を始めるたび、役のキャラクターを研究してA4用紙に15枚から20枚のレポートを作っていたそうだ。だが、あまりにも考えすぎていざ撮影するときに邪魔になることもあったそうで、『公共の敵』のあたりからわざと頭の中を空っぽにして臨むようにしているのだとか。

『風林高』では恋に不器用なエリートやくざ、『公共の敵』では初の悪役に挑戦し、血も涙もないような不気味なキャラクターを演じるなど、ヒット作への映画出演が途切れない。

2004年の『氷雨』では、久々に愛に苦悩する男性を演じていて、熱っぽい瞳にクラリと来てしまった。

大人の男性の落ち着きを身にまとった紳士。『吠える犬は噛まない』のポン・ジュノ監督は、韓国ではマッチョな俳優はたくさんいるが、イ・ソンジェのように繊細で線が細いタイプはなかなかいないと言っていた。かつてはコンプレックスだったと自身が語っていたそうした存在感と、どんな役にも溶け込めるまさに‘水’のようなキャラクターが、今イ・ソンジェの強みとなって輝いている。

ちなみにイ・ソンジェのお気に入りは『ほえる犬は噛まない』『美術館の隣の動物園』『エンジェル・スノー』だそうだ。

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より
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