ミュージカル
『アンナ・カレーニナ』(ミュージカル)感想
遅くなりましたが、
1月からいきなりハマってしまった
『アンナ・カレーニナ』について感想を書いておきます。
『アンナ・カレーニナ』はトルストイの小説を原作に
ロシアのプロダクションが制作して
2016年の10月に初演したミュージカルです。
年の離れた政治家の夫を持つ、
社交界の花アンナ・カレーニナが、
青年将校ブロンスキーと道ならぬ恋に溺れ、
夫も子供も捨てて不倫の道に落ちていき、
悲劇的な末路を辿るという内容です。
ロシア以外では
今回韓国が世界で初めて上演したわけですが、
ロシアの制作陣が演出なども担当し、
美術セットなども
ロシアからそのまま持ってきているそうで、
ロシア版を、そのまま俳優だけ韓国人にして
上演している感じです。
いやあ、豪華だわ~と圧倒されました。
歌だけでなく、美術セット、衣装が美しく、
ダンスなどを含めたビジュアルの魅力が凄くいい!
そして、
韓国版『ファントム』にバレエが効果的に出て来るように、
『アンナ・カレーニナ』にはワンシーンだけですが、
ものすごい存在感でオペラが出てきます。
見ていくうちに楽曲の良さにも心惹かれるようになり、
立て続けに5回見てしまいました(^-^;。
これなら言葉の壁があったとしても
楽しめます!
これを見て、
ロシアってやっぱり芸術大国なんだな、
美へのこだわりが素晴らしいと思いました。
私が一番好きなのはオープニングです!
LED映像とセットとが見事に融合している美術を背景に、
薄い透明幕の後ろに浮かび上がる駅、列車、人々のシルエット。
幕が開いて列車が客席に向かって徐々に前に進んでくると
うごめいているのが列車に捉まっていた人間たちの動きなのだと
わかるというゾクゾク感。
この時の人々の動きって、
EXOの「ウルフ」の冒頭の場面を彷彿させます。
今回、アンサンブルの他に
ダンサーが16人入っているので
ダンスの魅力がほかの舞台よりも強いです。
このダンサーやアンサンブルたちの
歌や踊りに加えて
運命を司るかのようなMCが登場。
このMCの不気味さもあいまって、
一気に心つかまれるオープニングなんです。
そしてこのダンスに目を奪われていると
セットの上の陸橋のようなところでは
アンナとブロンスキーがすれ違い
お互いに一瞬何かを感じているという
シーンが本当に何げなく演じられているので
下のダンスばかりに目が行っていると
ここ見逃します。
このミュージカルもあちこち目が忙しい作品ですね(^-^;。
このオープニングの歌も
ざっくり言えば
「汽車に乗る、より良い席、より前を求めて、幸せを目指して~
線路に入っては危険です、
ルールを守りさえすれば神の審判は避けられる~
戻りの切符はないですよ~」
という感じで、
貴族社会のロシアで
その枠組みの中で生きていけば幸せでいられるけど、
ひとつ踏み外せば大変なことになるよ~的なことを
暗に歌っていて
アンナのこれからの運命に警鐘を鳴らすような
非常に示唆的な歌なんですよね。
またLED映像で映し出される大きな列車の車輪も
アンナの運命の歯車が回り始めるようなイメージで
いろんなものが詰まっているオープニングなんです。
MCはこの芝居の狂言回し的役割でもあるけれど、
運命の神様という雰囲気もあって
アンナを死出の道へ誘っていく怖い存在です。
私は原作は読んでおらず、
映画を見て予習しましたが、
映画ではアンナは兄が浮気して妻から離婚を言い出されたので、
義理の姉に会ってそれを取りなすために
ペテルブルグからモスクワに出かけていくのですが、
ミュージカル版では
アンナは兄に会うためにモスクワに来たけれど、
兄嫁の存在は出てきませんし、
兄嫁の妹であるキティは親戚ではあるけれど
アンナのことをそこまでよく知らない
という設定になっていました。
アンナ兄とブロンスキーは友達で、
舞踏会の日、
ブロンスキーはキティにプロポーズするつもりだったのですが、
アンナ兄がモスクワにやってきた妹アンナのために
ブロンスキーにモスクワの社交界を紹介してやってくれよと
頼むので、仕方なくブロンスキーはそれに応じるのですが、
最初は「アンナはどこだよ」と渋々という感じだったのに
いざアンナが登場すると、あまりの美しさに
吸い寄せられるようにアンナをエスコートし、
舞踏会のあいだじゅう二人で会話し、踊ってしまい
キティが失恋してしまうんですね。
こんな感じでアンナ兄がちょいちょい
出てきていらぬおせっかいを焼いたりして
人々を結び付けたりする役回りを担っていました。
このあたりからネタバレを含みますのでご注意ください!
この作品、デュエット曲がいくつもあるのですが、
いずれも素晴らしく聴きごたえがあります。
一幕では
アンナとブロンスキーのデュエットの
「あなたが私のそばにいなかったなら」がいいですね。
アンナもブロンスキーも、それぞれ夫や母親から、
社交界で既に噂になっているから、
大きなスキャンダルになる前に
会うのをやめなさいと忠告されてしまうのですが、
それを意に介さず
「愛する人もいなくて生きるなんて何の意味もない~
これ以上自分の感情を留められない、
すべての非難も嘲笑も
あなたがそばにいてくれれば耐えられるわ~」
的なことを、
2人は衣服を脱ぎながら
愛を確かめ合うように触れ合って抱き合って歌う場面が
色っぽくていいです。
オク・チュヒョンもチョン・ソナも胸が豊かなので、
ブロンスキーがアンナの体にすがりつくと
ブロンスキーの頭が胸につかえてしまいそうで
違う意味で見ていてドキドキしてしまいますが(笑)
競馬場のシーンも面白いです。
どう表現するのかと思ったら
な~るほど~という感じです。
で、ここでアンナはブロンスキーが落馬したことで
公衆の面前だというのにうろたえてしまうのですが、
いさめる夫に対して
「私はブロンスキーを愛しているの」と
宣言して行ってしまいます。
ここキャストによってセリフが違っていて面白かったです。
私が見たときは
チョン・ソナは「私は彼を愛しているの!」でしたが、
オク・チュヒョンは「私はもう彼の女なの」と言うんですね。
なんか「彼の女」と言われた方が生々しくて
ドキッとしますね。
セリフって意味するところが同じなら
自由に変えていいんだな~と思った場面でした。
でもここ、セリフだけじゃなくて、
チョン・ソナはかぶっていた帽子を脱いで
夫に投げつけるように去っていくのに対して、
オク・チュヒョンは、はめていた結婚指輪を外して
夫に突き返して去っていきます。
それぞれのこだわりが面白いです~。
そして1幕ラスト、アンナが
「もう絶対に戻らない、
まわりの目も常識からも抜け出して
自由と幸福に向かって飛んでいくわ~」
と力強く「自由と幸福」を歌い上げて
大拍手の中幕が下ります。
この作品、小説だと超大作なのに、
ミュージカルではアンナの愛に話を絞っているためか、
休憩入れて2時間30分くらいと割と短めなんです。
それがまた見やすくていいです。
この作品は、
アンナとブロンスキーという不倫愛に突っ走る2人と
ブロンスキーに失恋したキティと、
そのキティに振られてしまったレビンが育んでいく愛という
2組の愛が対比的に登場します。
アンナは子供を置いてこざるを得なかった悲しみのなか、
ますますブロンスキーに固執していき、
ブロンスキーはそんなアンナを少々疎ましく思い始め、
アンナの夫カレーニンは妻に去られた失意と恨みにとらわれている中、
キティとレビンカップルだけは幸せをかみしめています。
そんなアンナとキティのデュエット
「その時知っていたら」で
その時こうなるとわかっていたらすべては違っていたかもしれない~
的なことを歌い、
ブロンスキーがキティではなくアンナを選んだことで
すれちがってしまった二人の運命を対比させています。
で、オペラのシーンですが、
ペテルブルグで評判の歌姫パティのオペラを見に行こう
と兄から誘われたアンナは
ブロンスキーに一緒に行こうと誘うのですが、
不倫している身で社交界に顔を出したら
どうなるかわかっているブロンスキーに断られ
それをブロンスキーの愛が冷めてしまったのだと思ったアンナは
気丈にも1人で劇場に行くのですが、
案の定、社交界の人々が口々にアンナをののしり攻撃して
いたたまれなくなるのですが、
そんな風にアンナが打ちひしがれているところに登場するのが
パティです。
この場面がまた度肝を抜くというか。
パティが舞台の高いところに表れて
まさしく天上の声のような歌声を聞かせてくれる
のですが、これが圧巻でした。
このアリアもこのミュージカルのために作られた曲とのことで、
この作品、キャッチーな曲というわけではないかもしれませんが、
全編に渡って曲がいいです。
このオペラの場面は
これだけ歌うまのミュージカル俳優の歌を聞いたあとでも
更に次元の違う歌声に聞き惚れました。
『ファントム』でクリスティーンだったキム・スンヨン、
本領発揮でした!
この場面一曲だけのためにキャスティングされているのですが、
カン・ヘジョン、キム・スンヨンという現役のオペラ歌手と
キティ役でも出ているイ・ジヘが日替わりでパティ役でも出ています。
ちなみにイ・ジヘも普段のミュージカルの時とは
また全く違う発声で
すごいな~と驚きましたが、
韓国の人に聞くとカン・ヘジョンが最高なのだそうです。
残念ながら日程が合わず聞くことはかないませんでしたが…。
で、ここではパティの歌を聞きながら
アンナに心境の変化が現れるというか
「死のような愛」を歌う内容に自分の心情を投影して
表情が変わっていくところが見どころです。
この曲を聞いて自殺を決意してしまうのですから
見逃せない大事な場面です。
オク・チュヒョンは泣き笑いのような表情で
チョン・ソナは切なく聞き入るような表情になっていくんです。
ここでは、アンナの夫カレーニンもブロンスキーも
アンナに手を差し伸べるのですが、
アンナはもはやそれに応えることはせず
1人ふらふらとMCの後をついて行ってしまいます。
そんなアンナを見て
彼女をあんな風にしたのは自分のせいだ~と
それぞれが歌うカレーニンとブロンスキーの
男同士のデュエット「私の罪」もとても切ないです。
ソ・ボムソク演じるカレーニンがすごくいいんですよね。
対面を気にして威厳を保っているけれど、
妻に去られて一番傷ついていて、
そんな葛藤を経てもアンナを守ってやろうとするけれど、
アンナに拒否される姿が可哀そうでたまりません。
ブロンスキーも決して心変わりをしたわけではないのに
アンナ自身が自分は捨てられると妄想して、
男二人からちゃんと思ってもらえているのに
どんどん自分を追い込んでいってしまったところがやるせないです。
これ、アンナとブロンスキーのキャストをコンプリートしましたが、
誰で見ても歌も演技もいいので
もう好みの問題ですね。
オク・チュヒョンは
精神的に壊れていってしまう感じの演技がうまくて、
哀れを誘いますし、
チョン・ソナは愛らしさがあって、
世間知らずの女性が恋に目覚めて
わがままを貫いてしまった感じが出ている気がします。
ブロンスキーでいえば、
イ・ジフンはソフィスティケートされた落ち着いた色男という感じで
抑えた余裕が感じられます。
ミン・ウヒョクは若さと覇気があって、
恋にも想いを抑えきれないという
息せききった勢いが感じられます。
どちらも白い軍服がカッコイイこと!
私の好みのブロンスキーはミン・ウヒョクですね。
恋している時の眼差しと、
倦怠期になってからの、
ちょっとイラだちを伴った冷めた眼差しの落差が怖くて
悪い奴~と思ってしまいます(笑)。
人によっては、
夫も子供も捨てて不倫しておきながら
最後に自殺してしまうところに共感できないとか、
精神的に追い詰められていくさまが重くて
イマイチ乗れないという意見もありますが、
私は大のお気に入り作品になりました!
『ベンハー』で「俺はメッセラ」という曲が耳について
離れなかったように
『アンナ・カレーニナ』では、オープニングの曲に
中毒になりそうです。
ところで、
韓国ミュージカルについて楽しく語り合う
韓ミューサロンを2月20日(火曜)に行います。
午後のお茶の部が、まだ韓国ミュージカルを見たことがないような
初心者向けの講義形式のサロンで、
夜の食事会の部が、ファン同士で好きな作品について語り合うサロンです。
午後の部はあと5人くらい、
夜の部はあと2人ほどご参加いただけますので、
韓ミュー仲間を見つけたい方、是非どうぞ!
申し込みは 初心者向けが こちら
ファン向けが こちらです。
サロンの内容について詳しく知りたい方はまずこちらの記事をどうぞ。
2018年2月12日執筆