取材レポ・コラム
俳優と歌手の兼業が増えてきた韓国
オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2004年10月号より(※掲載元の許可を得て載せています)
私が韓国の芸能界を取材するようになって早5年。その当時からは想像もつかないぐらい韓国の芸能界が日本でも身近になってきたが、この間の韓国芸能界自体も確実に状況が変化してきている。顕著なのは、俳優と歌手を兼業するスターが増えてきたということだ。
これはSMAPなどのジャニーズのタレントに代表されるように日本ではごく普通のことだが、韓国ではこれまで、俳優は俳優、歌手は歌手で棲み分けされていて、両方の分野で活躍する人はごく限られていたのだ。
これは芸に対しての目が厳しいせいか、俳優なら演技、歌手は歌に専念すべきで、他の仕事に浮気をするのは好ましくないという世間一般の考え方があったようだ。これについては当時から俳優と歌手を兼業していた俳優アン・ジェウクも「これまでは両方やることに対して視聴者になじみがないというか、韓国では大衆文化そのものに対する幅広い理解がなかったということなんでしょう」と語っていた。
そんな状況が変化してきたのは2001年ごろからだろうか。『猟奇的な彼女』でおなじみのチャ・テヒョンが2001年にアルバムを出し、歌謡番組にも積極的に出演してダンスまで披露していた。それまでもイ・ビョンホンやチャン・ドンゴンなど、日本でもおなじみの俳優が何かの記念の意味合いや、出演したドラマで歌ったのをきっかけにCDを出すということはあったが、別に歌手として活動しようとしてのことではなかった。しかしチャ・テヒョンは「俳優としてではなく、歌手として認められるために最善の努力を傾けた」と真剣に取り組んだ意気込みを語り、現在まで2枚のアルバムを出してヒットさせている。
そして最近日本でもCDデビューしたパク・ヨンハもその一人。2002年に『守護天使』というドラマの挿入歌を歌ったのがきっかけだった。もともと歌をやってみたいという思いから、自分から立候補して掴んだチャンスだったが、この時は本人にいわせれば「あまりうまく歌えず周りからの評価もよくなくて自信喪失したが、それから本格的に歌の練習を重ねた」そうで、去年出したデビューアルバム「期別」(キビョル)では見事な歌声を披露している。現在2枚目のアルバムも準備中で、今後は俳優業と両立させていくという。
そしてもうひとつの変化は、以前はグループ歌手だったらそのメンバー個人個人が別個に仕事をするということはほとんどなかったのだが、これも最近活発になってきた。以前H.O.Tという韓国でも最高の人気を誇った5人のアイドルグループがいたが(今は解散)、その生みの親のプロデューサー、イ・スマン氏に2000年にインタビューしたことがある。そのときはこう語っていた。「グループの中で一人だけ活動すると、その個人が経済的な目的あるんじゃないかなど、韓国では文化的にも情緒的にもあまりよく受け取られないんです。これからは変わっていくべきですが、私一人がそう思ってもクライアントの考えもそうなってもらわないと…」ということだった。
それが2年ほど前から、S.E.S.やFIN.K.L(ピンクル)という女性人気グループがメンバーそれぞれの活動をスタートさせ、続いて6人組のSHINWHAという男性グループも、映画、ドラマ、ソロ歌手、司会、個人のCM出演など、メンバーの個別活動にも力を入れ始めた。期も熟していたのか、視聴者からの反応も悪くないようで、この傾向はますます広がっていくだろう。こうして韓国芸能界もだんだん日本と同様の状況になりつつある。
延長戦コラム
これまでは俳優が歌手としてデビューするというケースが目立っていたが、その逆も増えていて、特に今年はそうした歌手出身者たちが主役を勤めるドラマが相次いで登場している。まずは神話のメンバーエリックが『火の鳥』でプレイボーイの御曹司に扮し、恋に真剣になっていく様を演じて単独の存在として人気がブレイクした。このドラマは視聴率も40%を越し、エリックは今やCM、ドラマに引っ張りだこである。
そしてこの夏はそうしたドラマが各局競うように同時放送された。スカイパーフェクTVのペイパービューで日韓同時放送中の『いつか楽園で!』では、二人の男性から愛されるヒロインをFIN.K.Lのメンバー、ソン・ユリが演じているし、『フルハウス』でアジア最高の映画スターに扮し、偽装結婚から本当の愛へと変わっていく様を演じているのがピだった。またG.O.Dのメンバーユン・ゲサンは『兄嫁は19歳』に登場し、『九尾狐外伝』には神話のチョンジンが出演してそれぞれ主役の一人として健闘している。
ドラマだけではなく、映画にも歌手出身組が進出しており、彼らの頑張りが今後の新しいムーブメントになりそうである。