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【韓国人を熱狂させた人気ドラマの10年史】④

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)より。記事の転載禁止

1998

98年の平均視聴率年度別番組トップ5

①あなたそして私(ドラマ)MBC 48.3%

②見てまた見て(ドラマ)MBC 42.9%

③情ゆえに(ドラマ)KBS 42.3%

④龍の涙(ドラマ)KBS 38.2%

⑤ミスターQ(ドラマ)SBS 35.5%

98年は前年から続く経済危機のもと、資金援助を受けることになったIMFからの厳しい条件のもと経済改革に取り組むことになった。「無駄遣いは亡国病」「ドルを集めよう」などの官民あげての対応がとられ、お金がかかることは自粛するなど、とにかく口を開けば「IMFだから・・・」と言う言葉が飛び交うほど国全体が圧迫された状況に陥った。そんな挫折感を味わったIMF時代だからこそ、庶民に夢と希望を与えようと企画され、人気を集めたのが『ミスターQ』だ。これは同名の人気漫画を原作にしたサクセスコメディー。下着会社の落ちこぼれの若者たちが失敗や挫折にもめげず、奮闘しながら成功していく姿を明るくコミカルに描いた。

『あなたそして私』は、都会育ちで苦労知らずのキャリアウーマンが会社の同僚の、漁村育ちの長男と結婚したことから繰り広げられる人間模様。あっちの家族、こっちの家族、兄弟姉妹が大勢出てきて、一つ屋根の下でさまざまな問題が噴出しながら賑やかに家族の絆を深めていく大家族ドラマで、見る人たちの共感を誘った。

『見てまた見て』は、姉妹、兄弟をめぐる家族ドラマ。始まりは検事の男性を間に置いての看護婦のウンジュと医者の卵の女性の三角関係だったが、その後ウンジュと検事の身分違いに興味が移り、ウンジュと検事が恋人同士になると今度はウンジュの姉と検事の弟も恋仲になり(つまり姉妹の姉と男兄弟の弟、姉妹の妹と兄弟の兄のカップル)、これが韓国の家族関係的には好ましくないことから世間の関心を呼んだ。その後も嫁姑問題やら不妊問題やら次から次へと問題が出てくるという具合で、視聴率が高い一方で、放送担当記者が選ぶ98年の最悪のプログラムにも選ばれた。

『龍の涙』は朝鮮王朝建国からハングル文字の創設者として知られる世宋大王の時代までを取り上げた大河時代劇。時代物ではあるものの、現代の政治状況がうまくドラマに反映され時代劇の新しい地平を開いたとの評価を受けている。特にドラマが始まった97年はちょうど大統領選挙の年で、ドラマの中での、李王朝を建てた李成桂の後継問題をめぐる王子たちの争いと、重臣たちの葛藤が、次期大統領選をめぐって緊迫した状態となっていた当時の政治情勢と重なって視聴者の興味を引いたという。このドラマはお父さんたちをテレビの前に釘付けにしたそうだ。

 『あなたそして私』
PD:チェ・ジョンス
脚本:キム・ジョンス
出演:チェ・ジンシル、パク・サンウォン、チャ・インピョ、ソン・スンホン

 『見てまた見て』
PD:チャン・ドゥイク
脚本:イム・ソンハン
出演:キム・ジス、チョン・ボソク、パク・ヨンハ

『龍の涙』
PD:キム・チェヒョン
脚本:イ・ファンギョン
出演:キム・ムセン、ユ・ドングン

 『ミスターQ』
PD:チャン・キホン
脚本:イ・ヒミョン
出演:キム・ミンジョン、キム・ヒソン、ソン・ユナ

98年の主な出来事

・KBS,MBC,SBSの3社は経済危機に対処するためテレビ放送時間2時間短縮。またタレント出演料最高額を200万ウォンに凍結。同じタレントが3本以上掛け持ちしないよう調整、専属制を今後は廃止などで合意。

・金大中(キム・デジュン)氏第15代大統領に就任。

・大韓民国建国50周年を迎える。

・江原道束草市沖合い20キロに北朝鮮の潜水艦。9人が遺体で発見される。

・北朝鮮「テポドン」発射。

・日本の大衆文化の段階的開放方針を発表。

・一般韓国人の金剛山観光開始。

・映画『HANA-BI』封切。一般映画館で上映日本映画第1号。続いて『影武者』封切。

・MBCドラマ『青春』がフジテレビの『ラブジェネレーション』の剽窃疑惑浮上。MBCは謝罪し、ドラマは打ち切りに。

・アニメ『クレヨンしんちゃん』の韓国語版が流行。

・外国語教材の売り上げトップは日本語。村上春樹や村上龍が人気。

・[流行語]IMF

1999

99年の平均視聴率年度別番組トップ5

①見てまた見て(ドラマ)MBC 51.6%

②トマト(ドラマ)SBS 38.6%

③グッキ(ドラマ)MBC 37.2%

④愛と成功(ドラマ)MBC 36.9%

⑤青春の罠(ドラマ)SBS 35.7%

99年には日本映画が韓国市場に本格的に上陸した。前年の12月に日本映画第一弾として『HANA-BI』が封切られたのを皮切りに次々と日本映画が公開された。その中でも最も成功したのが岩井俊二監督の『Love Letter』で、ソウルで69.2万人を動員する人気になった。

ドラマの世界に目を移すと、IMFの挫折感が続く中、紆余曲折を経ながらも成功を遂げるサクセスストーリーものが相次いで登場し、高視聴率を記録した。

『トマト』は靴のデザイナーを目指す一人の純粋な女性の愛と成功を描いたさわやかな青春ラブストーリー。主演のキム・ヒソンはテレビドラマの女王と呼ばれる人気女優で、彼女が親友面をしたライバルから数々の嫌がらせを受けながらも成功していくという韓国ドラマの人気コード‘シンデレラ’が描かれたことと、相手役を演じたキム・ソックンの清潔感あふれる弁護士ぶりが人気を集めた。

『グッキ』は、韓国初の女性企業家を扱ったドラマ。韓国の植民地時代、朝鮮戦争時代といった激動期を背景に、一人の女性が逆境にも負けずに自らの人生を切り開いて女性企業家へと成長していくサクセスストーリー。そこに主人公‘グッキ’の父親の死の真相、ライバルでもあり友でもある‘シニョン’との葛藤、そして何かと‘グッキ’を助けてくれる二人の男性の愛情の行方も絡ませて、ドラマチックに展開していく。食品企業が舞台なだけに、ドラマの中でも、「食べるものを扱うからには、何よりも正直と信頼が大切」という企業倫理が随所に主張されていて、不祥事が相次ぐ今の日本の食品企業人に、是非見て、初心を新たにしてもらいたいドラマである。

『愛と成功』は、継母に育てられ、継母や義妹に気を遣いながら不遇な少女時代をすごしたヒロインが、留学帰りの弁護士と出会い恋に落ちるものの、継母と義妹の妨害に会って・・・という、まさにシンデレラのような物語。

『青春の罠』は、極限的な女の愛憎を描いた復讐劇。貧しい恋人の将来のため、自分の学業を犠牲にして尽したにもかかわらず、男は就職先の会社の令嬢から愛を迫られて子供までなした仲の女を捨てる。男性に裏切られ、事故で娘まで失ったユンヒは、男への憎しみに燃え、復讐のために令嬢の兄に接近していく。大御所人気作家のキム・スヒョンが自身の21年前の同名作をリメイクして話題になった。このドラマでシム・ウナは神がかりの演技と絶賛された。


『トマト』
PD:チャン・キホン
脚本:イ・ヒミョン
出演:キム・ヒソン、キム・ソックン、キム・ジヨン

『グッキ』
PD:イ・スンリョル、イ・ジュハン
脚本:チョン・ソンヒ
出演:キム・ヘス、ソン・チャンミン、チョン・ソンギョン

 『愛と成功』
PD:オ・ヒョンチャン
脚本:キム・ジンスク
出演:パク・サンウォン、オ・ヨンス、チョン・ソンギョン、コ・ドゥシム

 『青春の罠』
PD:チョン・セホ
脚本:キム・スヒョン
出演:シム・ウナ、イ・ジョンウォン、チョン・グァンリョル、ユ・ホジョン

99年の主な出来事

・『シュリ』が封切られ、ソウルで246万人を動員。『風邪の丘を越えて―西便制-』が持っていた興行記録を大幅更新。韓国型ブロックバスター映画(大作映画)時代の幕開け。

・無期懲役で服役中の金嬉老氏保釈され、韓国に直接移送。

・日本の大衆文化第2次開放を発表。歌謡曲は2000席以下の室内での日本語の公演の解禁、映画は国際映画制作者連盟などが公認した約70の国際映画祭受賞作品が公開可に。(アニメは除外)

・『うなぎ』『楢山節考』『Love Letter』『ソナチネ』『リング』公開。

・日韓混成ロックバンドY2Kブーム。メンバーの松尾兄弟の弟、松尾光次が日本人として始めて韓国企業のCMに登場する。

・日本のアニメ『ポケモン』が韓国で放送開始、グッズが大人気。

・[ヒット商品]『シュリ』