スター列伝・スターコラム

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略歴

チャン・ヒョク 

コラム①反抗児からキュートな男性へイメージ変身

『火山高』で、とんでもない能力を制御できないばかりに学校の争いに巻き込まれていく、ちょっと間の抜けた漫画チックなキャラクターを演じて日本にお目見えしたチャン・ヒョク。

顔立ちといい、醸し出すアウトサイダー的な雰囲気といい、デビュー当初はチョン・ウソン2世と呼ばれていた若手スターだ。実際チョン・ウソンとはマネジメント会社も同じだ。SBSドラマ『モデル』で芸能界デビュー。この時は端役だったがその後KBSの『学校』に出演し、他の生徒たちにうまくなじめず、女性教師にあこがれるようになる大人びた生徒役で青少年たちに爆発的人気を得た。

映画『ジャン』でも問題を抱える生徒役で、MBC『日射しの中へ』も同世代の若手スターたちとの共演で、母ひとり子ひとりの家庭に育ち、否応なく暴力組織に巻き込まれていく青年役を熱演した。とにかくどこか屈折した青年役が似合うのだ。こんなところもチョン・ウソンに似ていた。

このように心優しいが社会にうまく適応できない人物といった役柄が続いたところで、10年前にヒットしたドラマの続編に当たる『ワンヌン一家』(SBS)に出演し、クールな役から一転、コミカルなキャラクターに挑戦し、役の幅を広げていった。

チャン・ヒョクという名前は本名ではなく、彼のマネージャーの名前から取ったものだという。覚えにくい韓国芸能人の中にあって短くて覚えやすいのがいい。

2000年は歌手デビューも果たした。歌手というよりはラッパーといった方が正確かもしれないが、ステージで体をくねらせるようにしてラップをひたすら口ずさむ様はちょっと衝撃的で、「クールガイのチャン・ヒョクが…」と思ったものだった。でもこれで舞台度胸がかなりついたことは想像に難くない。

チャン・ヒョクのイメージががらりと変わったのはドラマ『明朗少女成功記』だった。明るく前向きな少女が、窮地に陥った金持ち男を助けながら成功していくコミカルラブストーリー。ここでのチャン・ヒョクは両親が作った大会社の重役として偉そうに振舞っているが、自分の思い通りにならない少女、ヤンスンに好意を持ちながらもどう接していいかわからず、ついついぶっきらぼうに接してしまう。そしてあとで後悔するというようなキャラクターだった。怒りんぼうで、寂しがり屋で、強がりで、素直になれない男性像はとても可愛くて、愛すべきキャラクターだった。チャン・ヒョクの新たな魅力発見!という感じだった。

時代ドラマの『大望』では、まさに大望を抱く人物を演じ、人間味があって真っ直ぐで、芯のところがしっかりしている好男子という雰囲気がすごくよく出ていた。人がついていきたくなる男だなあと思った。孤独な反抗児から比べるとずいぶんと役の幅も広がってきた。

今ではむしろコミカルな振り回され系の役のほうが似合っているかもしれない。映画『英語完全征服』では、英語を学ぶために英語学校に通っているが、お目当てはお色気たっぷりの美人先生という今どきの青年。田舎臭いめがね女から好意を寄せられちょっと迷惑しながらもだんだん好きになっていくというラブコメディーだ。

『僕の彼女紹介します』ではチョン・ジヒョン演じる婦警に振り回される教師役。『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョンとクァク・ジェヨン監督コンビの新作だけに、チャン・ヒョクの壊れぶりに期待が持てる。

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より
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コラム② 修行僧のような真面目さ

『ありがとうございます』(07年)や『不汗党』(08年)、『明朗少女成功記』(02年)などの作品で知られるチャン・ヒョク。
作品から受けるイメージは、やんちゃでちょっとぶっきらぼうな人という感じだが、実際はものすごく真面目キャラな人である。
二〇〇四年に、映画『僕の彼女を紹介します』のPRを兼ねた済州島でのイベントで彼がチョン・ジヒョンと共に出演したとき、司会をしたことがある。そのときは「おとなしくて真面目で優しい人」という印象を強く感じた。
何よりも、周りを見つめる瞳がとても優しげで、ファンにプレゼントをあげたりするときの仕草がとても丁寧でソフトだったのだ。

それから二年間の兵役勤務を経て、いろいろなものがそぎ落とされ、絞られ、ますます格好良くなって彼は再び表舞台に表れた。
しかし、真面目度には更に磨きがかかったようで、インタビューでの受け答えなどは、もう修行僧のようだった。
例を挙げれば、
「人生は肯定的、否定的考えの両方を持っている。こうすればうまく行く、いや、ダメだろうという考えがぶつかり合う……。たとえば、朝起きて、もう少し寝ようか、それとも起きて何かしようか、靴は右から履こうか、左からにしようか、というように、人生はささいなことから常に選択の岐路に立たされている……」
というように始まって、哲学的というか、人生論に発展していく。

そんなにたくさんのスペースが割けない雑誌のインタビュー記事としてはまとめづらかったりするので、彼に取材したことがあるライターたちのあいだでも、彼のことを「すごく深みのある人」という人もいれば、「真面目すぎて面白くない人」という人もいて、そのライターが取材で何を求めていたかによって評価が両極端に分かれる人かもしれない。

確固とした自分の世界を持っているので、場を沸かせるサービストークというよりは、深くしんみりと語り合うのがふさわしい人だと思う。

来日初ファンミで司会をしたときも、煩悩がなくなりました、という印象で、本当に澄みきった美しい目をしていた。
そんな瞳でこちらの目をジッと見ながら話してくれるものだから、ドキドキしてしまい、目のやり場に困ってしまった。
そしてドラマ『ありがとうございます』の記念上映会の舞台挨拶でご一緒したときのこと。
通常舞台挨拶などの場合、俳優さんが挨拶し終わって先に退場し、そのあと場を締めてから司会が退場する。だから、たいてい俳優さんは先に控え室に戻っていたり、すでに次の仕事場所に移動していたりするのが普通だ。なのに、このときは、私が退場すると、扉を出たすぐの非常階段のところでチャン・ヒョクが立っていた。
なんだろう、こんなところにいたらファンの人に囲まれちゃうのに……と思ったのだが、彼は私を見て「お疲れさまでした」と挨拶をして、そして非常階段の後ろに消えていった。
それで思った。もしや彼は私に挨拶するためにわざわざ待っていてくれたのではないか、と。
なんて気遣いのある人なのか、と感じ入った。
いや、さすがに深い人だ。

※2009年1月発行「恋する韓流」(朝日新聞出版より)
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ペントハウスエレファント

 

略 歴

1976年生まれ。ダンクク大学演劇映画科を卒業しました。
1997年にドラマ『モデル』の端役でデビュー。99年に青少年ドラマ『学校』に出演し、周りにうまくなじめない大人びた生徒役で青少年たちに爆発的人気を得ました。デビューからしばらくは、孤独な反抗児という役どころがはまり役で、そんな雰囲気や顔立ちが似ていることから、第2のチョン・ウソンと言われていました。2001年の映画『火山高』で漫画チックなキャラをコミカルに演じて、以降は『ジャングル・ジュース』『英語完全征服』など、気のいいノー天気キャラが定着。ドラマでは2002年のコミカルラブストーリー『明朗少女成功記』で、おこりっぽくぶっきらぼうな御曹子という愛すべきキャラクターから、時代劇『大望』での正義感の強い好青年を演じて、幅広い、チャンヒョク独特の個性を打ち出すようになりました。
気の優しい温かな青年を演じた2004年の映画『僕の彼女を紹介します』のあとは軍に入隊し、2年間の兵役生活を経て2006年11月にに軍を除隊。カムバック作となったドラマ『ありがとうございます』では、心を閉ざしたぶっきらぼうな医者が人との出会いを通して変わっていく姿を、深みを増した魅力で好演して評価を高めました。その後、『不汗党(プランダン)』『イカサマ師~タッチャ』といったドラマに主演したほか、『ダンス・オブ・ザ・ドラゴン』で海外との合作映画に主演し、最新作の『ペントハウスエレファント』で恋人を忘れられないカメラマン役を演じるなど、休むことなく、精力的に活動しています。ブルース・リーの大ファンで、彼が考案した格闘技のジークンドーが得意。
2008年には結婚して子供にも恵まれ、公私共に絶好調です。(2009年1月)