スター列伝・スターコラム

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イ・ビョンホン

コラム① 強烈なカリスマが見る者を虜にする

ここ数年でぐぐっと魅力を増したイ・ビョンホン。『美しき日々』や『オールイン』で見せる男の哀愁が体全体から伝わり胸に迫ってくる。今でこそ、切り込んできそうな強烈な存在感や、カリスマオーラが感じられるが、前はもう少し印象が違っていた。

がっしりとした体型に精悍なマスク。少年ぽさの漂う青春スターで、茶目っ気たっぷりの瞳が覗くチャーミングな男優さん。実は、写真を見ただけでは、なんか神経質そうで、あまり好みの顔じゃないなあなどと思っていたのだが、動くイ・ビョンホンを見たら一気にファンになってしまった。

1991年KBSの14期で俳優生活を始め、ドラマ『明日は愛』の大学生役で一躍スターダムに躍り出た。純粋な中にもセクシーな男の魅力を醸し出す外見と、演技力を武器に、その後もコンスタントにヒット作へのに出演を重ね、順調な俳優人生を送っている。

映画デビューは95年の『誰が俺を狂わせるか』。恋人のチェ・ジンシルから虐げられる作家志望の情けないサラリーマンという、普段のキャラクターとは違う役柄で、けっこう意外だった。続く『ランナウェイ』では、麻薬がらみの犯罪に巻き込まれ組織から追われる男を演じ、大鐘賞新人男優賞を授賞した。テコンドーの名手というタフガイなのでアクションものや、ハードボイルドものへの出演も多いが、私はイ・ビョンホンの恋する女性に対する報われない切ない演技が大好き。愛おしそうに、それでいて寂しそうに相手を見つめる瞳が何とも言えず、女心をくすぐるのである。特に気に入っているのは99年のドラマ『Happy Together』で、義理の弟であるソン・スンホンの恋人のキム・ハヌルに切ない愛を捧げる男の演技。「あー切ない…」とドラマを見ながら何度胸が締め付けられたことか。

キム・ハヌルとはチョ・ソンモのミュージックビデオ「To Heaven」でも共演しているが、これもクールな男の切なさが滲み出ていてかっこいい!もうとても冷静ではいられない。

そんなイ・ビョンホンにとって99年は新たなジャンルに挑戦する年であった。映画では『私の心のオルガン』で田舎の小学校に赴任した21歳の純情な教師の役に挑んだこと。筋肉質のイメージを払拭して、朴訥としたしゃべり方に歩き方、柔らかい雰囲気を醸し出すのにすごく苦労したそうだ。そしてもう一つはミュージカル『コーラスライン』で、演出家のザック役で1か月舞台に立ったことだ。以前から、映画『地上満歌』で役者志望の青年の役でいろんなハリウッドスターの真似をやって見せるなど、大げさな発散型の演技がミュージカルに合いそうだなと思っていた。歌手としても1枚、『Happy Together』の主題歌を収録した「To Me」というアルバムを出したぐらいなので、ミュージカルという分野は向いているにちがいない。

そして遅まきながら兵役へ。でも彼の場合はその前に父親が亡くなり、ビョンホン自身が家長になってしまったために6ヶ月間の公益勤務で終わり、2000年の2月には復帰を果たした。

そして『JSA』への出演。もし兵役が6ヶ月で終わっていなかったらイ・ビョンホンには回ってこない役だっただろうから、お父さんが授けてくれた大きな贈り物だったと言えるかもしれない。

続く『美しき日々』では、憎しみを抱えたクールな男が愛に目覚めていく様を演じ、イメージ変身を試みた。前髪を長くし、その間から覗くスッっとした眼差しは見るものを緊張させ、身動きできないほどの魅力を放っていた。すべてが鋭角な顔のラインがシャープで、イ・ビョンホンって美しい男性だなあとつくづく実感。胸にたぎる思いを表面的には抑え込んでいるものの、全身からその思いがほとばしっている演技などは抜群で、唸ってしまうほどだ。なんていい俳優になったんだろう。

イ・ビョンホンは演技に対する情熱と、その人間味でスタッフからも好かれている。『バンジージャンプする』や『純愛中毒』の監督たちも、「イ・ビョンホンとやれてよかった、また彼とやりたい」と声を揃えて言うし、『オールイン』のチェ・ワンギュ作家も、「本当に素晴しい優秀な俳優で、積極的に意見を出してくるからとても仕事がやりやすい」と語っていた。

『美しい彼女』で共演したソン・スンホンを始め、後輩の俳優たちからも慕われているし、役柄同様、頼れる兄貴なのである。

 

コラム②イ・ビョンホン 軸のぶれない演技者

大規模イベントが主流になってきた中で、二〇〇六年、東京ドームで行われたイ・ビョンホンイベントにはやはりスターの底力を見せつけられた。
正直、席が埋まるんだろうかと思っていたのに、見事に四万二千人が集結したからだ。
私はその日、イベント終了後の記者会見と打ち上げパーティーの司会をすることになっていた。
イベントが終わるや、すぐにドーム内の場所を移して記者会見だったので、イ・ビョンホンを会見場で待ち受けて、そこで初めて顔を合わせる形だったのだが、ここで私にとって印象的な出来事があった。
イ・ビョンホンが会見の途中で、チラッと司会席のこちらを見てニコッと笑ってくれたのだ。
以前二回ほどファンミーティングの司会をしたことはあるものの、ずいぶん久しぶりだったのだが、覚えてくれていた。
私もこっそりと会釈を返して、これはほんの一瞬だけど「ふたりだけの時間」という感じでうれしかった。もちろん言葉を交わす時間はそれ以降もなかったので、ファンの皆さんにはお許しいただきたい。
思えば、私が韓国俳優の中で最初にインタビューしたのが、イ・ビョンホンだった。二〇〇〇年のことだった。自分の本の取材でインタビュー申請をしたのだが、なかなかアポが取れなくて気を揉んだのを覚えている。
『JSA』(00年)の撮影が始まったばかりで何かと忙しく、ミーティングやらなにやらであちこちの移動が多く、落ち着いてインタビューを受けられる時間が取れないということだったが、急遽時間が出来たということでいきなり実現したのだ。
そうして指定されたのが、リッツカールトンホテルのカフェ。
このときのイ・ビョンホンはおなかがすいていたのか、マネージャーが注文しておいたアフタヌーンティーセットのサンドイッチや果物をぱくつきながら、身振り手振りを交えながら男っぽく、気さくに、チャーミングに話をしてくれた。
私は初めての韓国俳優へのインタビューということでかなり身構えていたのだが、なごやかに進んでホッとしたのを覚えている。
そして、インタビューを終え、お会計をしようとレジに行くと、すでに一足先に帰ったイ・ビョンホンのマネージャーが支払済みだった。
なんということか。インタビューさせてもらう側が払うのが普通なのに、私が日本から来たということで心遣いをしてくれたようだ。

その後も二度ほどファンミーティングの司会をした。
ビョンホンは質問を聞いてから間を取って、じっくり答えを考えてから話し出す。その‘間’がまた絵になるのだが、一方で「聞いてはいけないことだったのかしら?」と聞き手をドキドキさせもする。そして口を開けば低音の美声で気のきいた答えをつむぎだす。
まさにビョンホンマジックである。
最初のファンミのときには、イベント前夜、イ・ビョンホン本人が歌の音合わせにも現れた。ファンミでは歌がいまいちでも歌手ではないのだからご愛嬌で済むのに、それをわざわざ別日にリハーサルに現れるのだから、イ・ビョンホンの完璧主義なところがうかがえた。
そして当日、当たるライトにも気を遣っていて、そこでの会話を聞いていると、ウォンビンやペ・ヨンジュンのファンミをどこかで見ていて、そこでのライトがいまひとつだと思ったようで、自分のときにはこんな感じでやってほしいとお願いしていた。
「さすが研究熱心」とこれにも感心したことがある。
その数年後の東京ドームのイベントを見て新たに感じたのは、彼は完璧主義に加えて、あまり弱みとか悩みを人に見せたくないんだな、ということだ。
感極まって泣きそうになっても、ひとり控え室に行って目頭をぬぐうくらいで、お客さんの前では絶対に見せない。
それが、イ・ビョンホンがイ・ビョンホンであるゆえんなのかなと思った。いつでも男らしくありたいから、涙がこみ上げてきてもググッと押さえている。そんな発見もあり、イ・ビョンホンの大事な一日に仕事で関わることが出来て、とても光栄だった。
イベント終了後の会見で、イベントが無事成功に終わったことで、「これでやっと映画の役作りに専念できる」とほっとしたコメントをつぶやいたのが、やはり役者だなと思った。
彼と作品に携わった人はみんな言う。
「いつも自分の役柄に対するアイデアを積極的に出してくるので、作り手としてもすごく刺激を受ける。ぜひもう一度仕事をしたい人だ」と。
‘大スター’としての周囲の華々しさとは裏腹に、ビョンホン自身はあくまでも軸足がぶれることなく‘演技者’としての道をしっかりと歩いているのがうれしい。

※2009年1月発行「恋する韓流」(朝日新聞出版)より
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