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『ファントム』in ソウル

 

韓国で観てきました、『ファントム』。
リュ・ジョンハンとパク・ヒョシンという
私の大好きな2大ミュージカルスターが
主演を務めるとあって、
見られるだけ見てこようと
今回はそれぞれ2回づつ4回観てきました。

 

で、もう、とっても良かった~。
素晴らしくて胸がいっぱいで
はぁ~ッて感じです。

日本で過去2回観ていまして、
大沢たかお主演版は、
まあ歌は、ちょっと…
大沢さんがそこそこうまく感じられるくらいに
苦笑レベルでヒロインが下手だったので、
歌のことはさて置き、
さすが、影を背負った男、
大沢さんの演技がとっても切なくて
良かったんです。
これならむしろ歌がない方が
ドラマの世界に入り込めたかも~
くらいに思いました。

 

昨年の城田優版は、
城田さんが以前に見た時よりも
歌がずいぶんうまくなっていて、
頑張ってるな~と思いました。
これしか知らなければ
十分上手だと思ったと思います。
が、韓国の歌い手を知ってしまうと
やはり物足りなさを感じてしまうんですよね。
歌声で客を圧倒するレベルには
達していないというか、
惜しいなあという感想を持ったのですが、
それでも他の出演者も含めて、舞台として
全体的にまあまあ良かったなと思いました。
でも実感として、
可もなく不可もなくだったんでしょうね。
今思えば、見終わった時、
私の気持ちは冷静でしたから。

 

 

ですが、今回はもう圧巻!!!
見終わったあとの興奮がおさまりません。
『ファントム』って、本来、
こういう歌える人たちで
作る作品なんだよねぇというのを実感。
なにせオペラ座を舞台に、
オペラ座の地下に住んでいる、
顔は醜いけれど歌の才能にあふれた
青年ファントムと、
天使の声を持つ女性が、
ファントムの指導を受けて
オペラのプリマドンナになっていく姿が
描かれるわけですから、
歌がうまくないと、
もうそれだけで説得力に欠けます。

リュ・ジョンハン、パク・ヒョシンは
歌のうまい人が多い韓国の中にあっても
図抜けて歌の上手さに定評があるスターなので
言わずもがなですが、
(ちなみにトリプルキャストなので
3人目はカイさん。
彼も声楽科出身で歌がとても上手いです)
今回はヒロイン役に
世界的に活躍している本当のオペラ歌手や、
声楽出身のミュージカル女優らを起用して
挑んでいますから、
もう安心してどっぷりと聞き惚れられるわけです。
こうでなくっちゃ~という感じです。

そして、2幕の、
ファントムと呼ばれる青年の
生い立ちを語る場面はバレエで表現しているのですが、
ここにも実際のバレエダンサーを起用。
このシーンがまたとても素敵で、
デュエットダンスの哀切な表現力に
魅入ってしまいました。

と、こんなふうに、全てにおいて、
「本物を集めました!」感が
ハンパないんです。

演出はロバート・ヨハンソン。
韓国で『エリザベート』『ルドルフ』
『レベッカ』『モンテ・クリスト』などなどを
演出している、
見応えのあるドラマチックな舞台を作る
演出家です。

『ファントム』でも
オペラ座の豪華さと地下の幽玄さ、
優美に見せるシーンと
畳み掛けるシーンのメリハリのきいた
スピーディーな展開で引きこまれます。

見せ場について言えば、
1幕の
クリスティーヌにレッスンするシーンは
タイタニックを彷彿とさせるところもあり、
広がりのあるメロディーがデュエットで歌われ、
胸がいっぱいになるトキメキのシーンです。

父と息子の物語でもあるので、
そこも大きな見どころなのですが、
2幕ラスト近く、
切ないセリフを泣き笑いしながら会話する父と息子の
あたりから、切なさにもう胸が痛くて。
ラストは、
クリスティーヌの美しいソプラノが
まるで天上の声のように
すべての悲しみを包み込んでくれるイメージで、
最後に救われたであろう
ファントムことエリック青年の心を思って感動。
見終わって「はぁ~」と
胸がいっぱいになりました。

リュ・ジョンハンもパク・ヒョシンも
圧倒的な歌唱力。
奥行きも広がりもあって、
迫力もすごいので、
見ている方にズドンズドンと響いてきます。

リュ・ジョンハンは、
手の動きから首や腕の動かし方など
細やかな役作りをしていて、
隠れて生きて来ざるを得なかった人物の
コンプレックスや卑屈さ、
それと裏返しの非常に高いプライド、
偏執的な部分などを感じさせ、
どこか正常ではない人っぽさを
うまく出していました。
「リュ・ジョンハンの再発見」との評も
出てるくらいで、
私に言わせれば、いまさら?
もっと前から再発見するべき作品はあったけど…?
と思うのですが。
今回は少年性の残る青年の役なので、
芸術家気質の繊細さや、うぶさに加えて
時として見せる狂気もあって、
いろいろな表現を見せることができたから
なのでしょうかね。

でもでも、私は個人的に
今回はパク・ヒョシンに撃沈しました。

なんか、役のガラに合っているというか、
私がイメージしている『ファントム』に
ぴったりだったんですよね。
不憫な存在感とか少年ぽさとか。
母を恋しがっている音楽オタクのうぶな青年ぶりと、
傷ついた感じが母性本能をくすぐるというか、
ほおっておけない感じ。
繊細で、傷つきやすく、
でもキレたら怖いという
危うさを持つ青年。
クリスティーヌに歌を教えてる時は
堂々としているのに、
クリスティーヌの顔が近づいたりすると
どうしていいか分からなくて顔を背けてしまう。
そんなうぶさがたまりません。

どこか危なっかしくて、
確立しきれていないおぼつかなさが
パク・ヒョシンにはあるんですよね。
それでいてあのボリュームの有る歌声。
哀切で、痛ましくて、
かわいそうでたまらないんです。

 

私のイメージでは、
リュ・ジョンハンは、
確立した大人の印象があるので、
危うさというよりも
妖しさの方が得意な感じで、
どちらかと言えば
『オペラ座の怪人』の怪人のほうが
しっくり来そうな感じです。

パク・ヒョシンは
『エリザベート』の時も私の好みのトート像で、
これまで見た中で最も好きなトートでしたけど、
今回の『ファントム』もそうなりそうです。
歌だけでなく演技も素晴らしくて
仮面を伝って涙が流れ落ちるほど、
鼻をすすりながらの熱演に胸を打たれました。
『モーツァルト』も良かったですし、
ミュージカルは3作品目ですが、
もう押しも押されもせぬ
ミュージカルスターになりましたね。
しかも、この『ファントム』は
彼の当たり役になるんじゃないでしょうか。

音楽に関しては、
韓国の批評では
キャッチーな曲が無いとは
よく言われていますが、
決してそんなことないのに~と思います。
冒頭の「Hear My Tragic Tale」は
これから始まる物語の悲劇性が
漂ってきて期待感をもたせますし、
クリスティーヌに嫉妬するプリマドンナの歌う
「This Place is mine」とか面白く聞かせてくれます。
「you are music」は、
気持ちが膨らむようなデュエットメロディーで
とってもよく場面にあって、
聴いていて胸がいっぱいになりましたし、
クリスティーヌが、
愛しているから仮面を取って
顔を見せてと言って歌う
「My True Love」も優しく胸に響きます。

『ドラキュラ』の時も思いましたが、
聴きこんでいけばいくほど
良い曲だなと思えるようになっていくんですよね。
まあ、でも一般のお客さんは
1回だけ見る人が多いでしょうから、
その視点に立てば、
1回見てピンと来ないようでは
キャッチーじゃないということになるのかしら。
でも舞台は、
1回よりも2回め見た方が感動が大きいので、
1度では判断しきれないなと個人的には思います。

ところで、
オーマイゴッド!
なんと、最後までファントムは
客席に仮面をはずした顔を見せないんですよね。
劇中は仕方ないとしても、
カーテンコールでもです。
せめて片目だけでも見える仮面にしてくれればよかったのに、
顔の上半分がしっかり隠れてしまう仮面なんですよ。
城田優版とか宝塚とかは
片目が見える仮面だったのに~なぜ~?

と、このように
主演俳優のファンにとっては
顔が見られないのが残念でたまりませんが、
そんなことももはやどうでもよくなってくるほど
素晴らしい舞台なので、
7月26日までの公演ですから、
この時期韓国に行かれる方には是非お勧めです。

というか、元々『ファントム』という作品が
好きな方だったら、
これはもう見に行くしかないでしょう。
これぞ、『ファントム』という舞台ですから。

ちなみに、一度、
一列目の下手側で観たのですが、
一列目は舞台より少し低めで疲れるので
避けたほうが賢明です。
オケピが舞台埋込み型なので、
もう目の前がすぐ舞台ですし。
1、2列目だと
ファントムが下手の高いところに出現した時には
見えません。
まあでもその部分は短いので
構わなければいいですが。
下手側か上手側か、どちらかと言えば
下手寄りがいいかもしれません。
良いシーンが2つほど下手側で行われるので。
でも上手にいても、
顔が上手を向いて芝居するので
まあ問題なしだと思います。

 

(2015年05月11日執筆)