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韓国トップスターたちの演技への向上心  

オリコングループ発行「月刊デ・ビュー」2003年7月号より(※掲載元の許可を得て載せています)

韓国の俳優たちは総じて演技への向上心がすごい。インタビューなどをすると、俳優としてのあり方などがガンガン伝わってくるのだ。国は違えど、演技者を志す者にとっては参考になる部分もあるかと思うのでちょっと紹介してみたい。

以前もこのコラムでちらりと触れたことがあるが、ドラマ『イヴのすべて』や映画『友へチング』で日本でもおなじみとなったハンサムスター、チャン・ドンゴンは、テレビでデビューして人気を得た後で放送活動を中断して演劇学校に入った人である。そのときの気持ちを聞くと、

「私は偶然の機会から運良く演技を始めるようになって、演技力が身につく前に人気を得てしまいました。その頃には演技が楽しくなり、俳優を一生の仕事にしようと気持ちが固まってきました。そのためには実力を備えなければならないと思って学校に入ったんです」という答えが帰ってきた。そして2年間、みっちりと演技を学んでドラマの世界に戻ってきたのである。その後の活躍は目覚ましく、いまや映画の世界で大活躍している。


『JSA』『ラスト・プレゼント』『春の日は過ぎゆく』で知られるイ・ヨンエは、

「デビュー間もない頃は欲ばりで、自分が持っている物や努力に比べてあまりにもたくさんのことを期待して葛藤がありました。でも焦ったからってチャンスがくるわけじゃないってわかったんです。それで、一生懸命やりながら、旅行をしたり本を読んだり、そういうひとつひとつの過程を大切にしながらチャンスを待ち続けてきました。今後は更に自分の演技の成熟度を高めていかなければならないと感じています」

6月に『二重スパイ』が公開されるハン・ソッキュは、韓国映画界で「出演する映画はすべてヒットする」と言われ、誰もが認める演技派のトップスターだ。その彼にしても演技の話になるとものすごく謙虚になる。

「最初に映画に出演したときよりも自分の演技には不満がたくさんです。というのも、それだけ観客の期待も高くなってくるので、その期待に応えようという気持ちがあって、自分の演技を厳しく見てしまうんだと思います。俳優としての一生の目標は、意識しない無意識の演技です。それが一番難しいことですし、これからもそのために努力するつもりです」

逆に、監督たちは、俳優にはどうあってほしいと思っているのかを発言の中から探ってみると、4人の殺し屋をスタイリッシュに描いた『ガン&トークス』のチャン・ジン監督はこう言っている。

「撮ったときに人間の香りがする人がいいです。俳優の中には有名になったからといって、人間であることを忘れて自分は有名スターなんだと勘違いしてしまう人がいるんです。そうするともう、魅力、面白さは無くなってしまいますね」

チャン監督は、舞台、テレビ、映画と縦横無尽に活躍する気鋭の演出家で、俳優を見る目には定評があるだけに、この発言には説得力がある。

また『リメンバー・ミー』という作品を撮ったキム・ジョングォン監督は、主演のユ・ジテのことをこう語っている。

「私は自分の役に対してすごく悩む人が良い俳優になれると思っています。助監督の時にも多くの俳優を見てきましたが、ユ・ジテの場合は本当に深刻なくらい悩んで、自分で研究して工夫してというタイプの役者なので、トップレベルまで成長できる力量のある俳優だと期待しています」

演技に対して俳優たちが皆いかに誠実か、また、韓国ではいかにそれが求められているかがにじみ出ている。

延長線コラム

『友へチング』や『チャンピオン』で主役を張っているユ・オソンは、監督や脚本家から「絶対にこの人を使いたい」と思わせるタイプだったそうだ。ユ・オソンは個性的な顔と存在感で、長らく印象的な‘助演者’の位置にいた。その彼が始めて主演に抜擢されたのが98年のテレビドラマだった。歌手のマネージャーを描くバックステージものだが、このとき放送局から、「顔が険しくてテレビに合わない」とか「不細工だ」とまで言われてすごく反対されたが、舞台でのユ・オソンの芝居にかねてから注目していた脚本家と演出家がどうしても役者らしい役者を使いたいと意見を押し通し、2ヶ月も論争をして勝ったのだという。

また『ガン&トークス』のチャン・ジン監督も99年『SPYリー・チョルジン北朝鮮から来た男』でユ・オソンを主役に起用した。これも大反対にあったが、絶対に譲らなかったのだという。

「彼は、こうしたらどうですか、ああしたらどうですかって自分からどんどん意見を出す、すごいアグレッシブな俳優なんです。舞台時代、私の先輩だったので、昔から彼の演技の幅はすごく大きいって言うのはわかっていましたからね」

優れた役者は見る目のある制作者の気持ちを揺り動かすものなのだ。