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【韓国人を熱狂させた人気ドラマの10年史】②

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

1994

94年の平均視聴率年度別番組トップ5

①M(ドラマ)MBC 38.6%

②息子の女(ドラマ)MBC 37.2%

③警察庁の人々(ドラマ)MBC 37.1%

④ソウルの月(ドラマ)MBC 37.0%

⑤最後の勝負(ドラマ)MBC 36.4%

94年7月8日に朝鮮民主主義人民共和国の金日成主席が死去。このニュースは日本でもこの年の海外ニュースの中で最も大きなニュースとして受け止められた。韓国では全軍に特別警戒令が出され、何かが起きるかもしれないと市民の間にも不安が広がった。また10月には漢江にかかる聖水大橋が崩壊、韓国では翌年6月にも高級デパートの「三豊百貨店」が突然崩壊する事故が起こるなど、経済発展優先で安全確保をおろそかにしてきた急成長のほころびが出てきたと指摘され始めた時期だった。そんな急成長の影で生まれたひずみを人間ドラマで描いたのが『ソウルの月』だったと言えるかもしれない。

『ソウルの月』は田舎出身の二人の若者の彷徨と挫折を描いたドラマ。急速な産業化の過程で生じた疎外された階層の生き様を暖かいまなざしで描いた作品だ。ハン・ソッキュが、中学を卒業してソウルに上京してきたホン・シッカ役。さまざまな苦労を体験しながら、詐欺師のようなちゃっかりさと、どんなことにもへこたれないずうずうしい人間像を熱演し、視聴者から「ホン・シッカが幸せになってほしい」という声が殺到したが、結局悲惨な最期を迎えた。後に『シュリ』などで共演しているチェ・ミンシクが、もう一人の田舎の純朴な青年役で印象的な演技を見せた。

『M』は韓国ではそれまでになかったメディカル・スリラーというジャンルの作品。堕胎されたある命がシム・ウナ扮するマリという女性に憑依して‘M’という名前でよみがえり、自分を堕胎させてしまった父母に復讐するという物語で、視聴者にショックを与えたドラマだったという。リアルなSFXでも話題になった。シム・ウナが、‘マリ’と‘M’の二つの人格の間で葛藤する人物を演じて、彼女の出世作となった。

『息子の女』は、お金儲けと3人の息子にしか興味を持たない女性の家族が崩壊する様を描いたメロドラマ。

『警察庁の人々』は事件犯罪をドラマ形式で再現する番組。93年から始まり人気が高かったが、模倣犯罪を生み出すという声が上がり論議の末99年終了した。

『最後の勝負』は大学のバスケットボール部を舞台に、バスケットボールスターを夢見る若者たちの、恋と友情を描いた青春ドラマ。チャン・ドンゴンが貴公子シンドロームを起こし、シム・ウナが清純可憐な‘タスリ’役で視聴者に印象付けた。

『M』
PD:チョン・セホ
脚本:イ・ホング
出演:シム・ウナ、イ・チャンフン、キム・ジス

『息子の女』
PD:イ・グァンヒ
脚本:チェ・ソンシル
出演:ヨ・ウンゲ、チョン・ボソク、チャ・インピョ、キム・ミンジョン

94年の主な出来事

・北朝鮮の金日成主席死去。

・若者グループ6人が「金持ちが憎い」と言う動機で資産家ら5人以上を次々に殺害。

・ソウルの漢江にかかる聖水大橋崩壊事故、死者32人。

・第17回リレハンメル冬季オリンピックで過去最高の総合6位となる。

 

1995

95年の平均視聴率年度別番組トップ5

①砂時計(ドラマ)SBS 46.0%

②娘だくさんの家(ドラマ)KBS 38.4%

③この女性は(ドラマ)SBS 37.8%

④息子の女(ドラマ)MBC 34.9%

⑤若者の陽地(ドラマ)KBS 34.0%

95年は大統領経験者が二人も逮捕されるという前代未聞の事件がおきた。前年には金泳三大統領が光州民主化運動の復権と名誉回復に努めることを宣言するなど、これまで軍事政権が行ってきたことへの総清算が行われた。そうした意味で、この年だからこそ作られた作品が『砂時計』だった。

『砂時計』は、解放50周年特別企画ドラマ。70年代、80年代の韓国の近現代史を背景に、検事とやくざに成長した幼馴染の二人の男ウソクとテスと、大建物の娘ヘリンの愛と葛藤を描き出した格調高い傑作ドラマ。主人公の一人がやくざなため、暴力場面が随所に出てきてそれがリアルで暴力団の義理などが誇張されて美化されているということで青少年によくない影響を及ぼすとの指摘も受けたが、それまでタブー視されていた光州民主化運動について、テレビドラマとして始めて真正面から取り上げて話題になった。この場面の再現のために日本のNHKで入手した資料などを土台にして考証したそうだ。あまり鮮烈に描写したため、国防部から、「文民時代に入り軍の位置づけと役割が変わったのに、過度に刺激的な姿を描写するのは軍に対する国民の認識に否定的な影響を与える憂慮がある」と、その後の描き方に対して協調を要請したという報道もあった。このように、ドラマの面白味に加え、現代史の再確認という社会的意義も重なり、終始高視聴率を維持した。ドラマは女が見るものと言われ続けてきたが、この『砂時計』は、お父さんたちも家路を急いで見たため、「砂時計=帰宅時間」と呼ばれ、酒場や遊興場の売り上げが激減する「砂時計不況」が起こったという逸話が残っている。チェ・ミンスはこのドラマでの武闘派イメージが鮮烈な印象を残し、以降はタフガイスターとして定着した。またヒロインのボディーガード役を演じたイ・ジョンジェが女性からの圧倒的な人気を集めてブレイクした。当時の東亜日報の記事に、『砂時計』の高視聴率の背景として、「80年代の光州民主化運動など、軍事政権の暴力性、非道徳性を知りながら、なすすべも無く沈黙を守っていた多くの人々は、ヘリンやウソクが不当な権力に対抗し戦うのを見て一種の免罪符を受ける感じを持った」とのソウル大学社会学の教授の分析が載っていた。

『娘だくさんの家』は、男の子中心の韓国にあって、娘ばかりの家で、娘婿らと生活しながら出てくる話をコメディータッチで描いたドラマ。PDいわく「父権喪失時代と呼ばれる現代に、厳格な祖父とおとなしい父、独特の個性を持った5人の娘を中心に、日常生活で感じるユーモアと哀歓などを描きたかった」ということだ。娘の婿の一人が外国人という典型的な韓国家庭とは一味違った部分も見せていた。

『この女が生きる方法』は、人生のたそがれと完熟期の間にある中年層の女性を描いたドラマ。

『若者の陽地』は、成功を夢見て都会へ行った田舎の青年の悲劇的な人生を描くことで、何が真の成功で、幸せなのかを問いかけるドラマ。

『砂時計』
PD:キム・ジョンハク
脚本:ソン・ジナ
出演:チェ・ミンス、パク・サンウォン、コ・ヒョンジョン

『娘だくさんの家』
PD:イ・ウンジン
脚本:イ・ヒウ
出演:ジョンウン、イ・アヒョン、ハ・ユミ、ビョン・ソジョン

『この女性が生きる方法』
PD:キム・ジェスン
脚本:ソ・ヨンミョン
出演:ユ・インチョン、イ・ヒョチュン、ハン・ヘスク

『若者の陽地』
PD:チョン・サン
脚本:チョ・ソヘ
出演:イ・ジョンウォン、ペ・ヨンジュン、ハ・ヒラ、チョン・ドヨン

95年の主な出来事

・文化体育省世論調査で国民の8割以上が日本大衆文化開放に否定的見解。84%が「質の低い文化のほうが多い」

・ソウルの高級デパート「三豊百貨店」崩壊事故。死者100人を超す。

・国連現地調査団報告によると、夏の洪水で約10万世帯が家を失い、60~70万人が行方不明。

・盧泰愚(ノ・テウ)前大統領が、収賄容疑で逮捕、起訴される。その後反乱重要任務従事罪で追起訴される。

・全斗煥(チョン・ドファン)元大統領が、粛軍クーデターと光州事件における反乱首謀の疑いで逮捕、起訴される。