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【韓国人を熱狂させた人気ドラマの10年史】①

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

韓国の人はドラマ好きだ。キー局となるテレビ局はKBS,MBC,SBSの三局だが、各局とも、毎日放送する朝ドラマや日日ドラマ、ゴールデンタイムの週2回放送のドラマに1時間の単発ドラマ、そして‘シートコム’と呼ばれるシチュエーションコメディードラマなどをあわせると、10本近いドラマを制作している。だから3局合わせて、1週間で30本近いドラマが放送されているのだ。日本は東京で考えた場合、キー局が6局で、日本制作のすべてのドラマが大体30数本(2時間ドラマを含む)だ。放送局の数が半分と言うことを考えると韓国ではいかに多くのドラマが放送されているかがわかるだろう。だから各局は毎年年末になると、それぞれで‘演技大賞’を設け、アカデミー賞ばりの厳かなステージを用意して、自局のドラマに出た俳優や作品に賞を与えている。俳優らにとってはその賞が勲章になるのだ。

これからここ10年ほどの全ジャンル総合の視聴率調査を見てみるが、毎年のトップ5を挙げると、その95%以上をドラマが占めている。これを見てもわかるとおり、韓国人のドラマ好きは半端じゃないのだ。

 

1992

92年の平均視聴率年度別番組トップ5

①愛が何だ(ドラマ)MBC 59.5%

②黎明の瞳(ドラマ)MBC 44.4%

③息子と娘(ドラマ)MBC 43.9%

④嫉妬(ドラマ)MBC 43.1%

⑤日曜、日曜日の晩に(コメディーバラエティー)MBC 37.5%

韓国は1987年に民主化宣言が出され、88年にはソウルオリンピックが開催。89年には海外旅行が完全自由化された。そして91年には北朝鮮と同時に国連に加盟、国際社会の一員として認められる。放送界で言えば民放放送局のSBS(ソウル放送)が90年に創立され、91年から放送開始。KBS、MBCと共にキー局の3局体制になった。 92年は新世代が台頭してきた年。この前年あたりからからソウルの江南(漢江の南側)、アックジョンドンあたりに住む裕福で消費生活を楽しむ若者たちのことを‘オレンジ族’と称して流行語にもなるぐらいだったが、そのオレンジ族に加え、大企業を捨てて高級と余暇を楽しむインテリ層までを含めて、新しいライフスタイルの若者たちを‘新世代’と総称するようになった。新世代は「いいものはいい、やりたいことをやる」と、従来の価値観に縛られない世代。エンターテインメント界にもこの新世代が登場してくることで大変革が起こった。歌謡界では、3人組男性グループ「ソテジ・ワ・アイドゥル」がデビューし、激しいダンス、ラップを流行らせこれ以降の音楽界をダンスブームに導いた。そしてテレビドラマでも『嫉妬』が作られた。このドラマは韓国で初めて‘トレンディードラマ’という言葉が使われた作品。新世代文化を背景に若者の愛を軽やかに描き、チェ・ジンシルを大スターにした。91年に日本で放送された『東京ラブストーリー』の影響を強く受けているというのも面白い。こうしたソテジ・ワ・アイドゥルや『嫉妬』のヒットで、92年以降の大衆文化の中心は10代、20代にターゲットを合わせて企画されるようになった。

その一方で、この年に大ヒットしたドラマ『愛が何だ』は、保守的な家庭と開放的な家庭という対照的な家族の中で育った二人の男女が結婚することで巻き起こる葛藤、世代間のギャップなどを描いたファミリードラマ。‘新世代’、‘新世代’と言っていてもやはり韓国社会では大家族の情を描いた作品に根強い人気があると立証された。主演のチェ・ミンスは、まだこの頃は、時折情けなさも見せる等身大の男の役に取り組んでいた。

『黎明の瞳』は、日帝、解放、6.25事変などの現代史を背景に、戦争に翻弄された二人の男とその間で葛藤する悲恋の女性という3人の男女の生き様を描いた感動大作。完成度の高い映像と美しい音楽、は韓国のドラマレベルを高めた作品として記憶されている。91年に韓国では、元従軍慰安婦の金学順さんが名乗り出て、これをきっかけに生存者が次々に証言し、従軍慰安婦問題が表面化したが、このドラマでは、そうした従軍慰安婦や、日本軍の人体実験のことなども取り上げられた。中国、フィリピンでの海外ロケも行われ、さまざまな意味で話題を呼んだ作品。

『息子と娘』は60年代を背景に、根深い男の子尊重主義を素材にした物語で、レトロブームも引き起こした。無名に近かったハン・ソッキュが出演し、チェ・シラ演じる女性を暖かく包み込む、フェミニストの検事役を担った。男性に対して心を閉ざしていた彼女の心を真心で溶かし、結婚後も検事が積極的に支援して、彼女が国語の教師になる夢を実現するという完璧な夫像を演じた。この男性のフェミニストぶりが20代の女性ファンたちの人気を集め、役名を取ってソッコ・シンドロームが起きたという。演じたハン・ソッキュも一躍スターダムに上り、このときの、清潔感があって、ソフトな外見、頭脳明晰なしゃべり方、理知的で洗練されたイメージが定着することとなった。

『愛が何だ』
PD:パク・チョル
脚本:キム・スヒョン
出演:チェ・ミンス、ハ・ヒラ、イ・スンジェ

 『黎明の瞳』
PD:キム・ジョンハク
脚本:ソン・ジナ
出演:パク・サンウォン、チェ・シラ、チェ・ジェソン

 『息子と娘』
PD:チャン・スボン
脚本:パク・チンスク
出演:キム・ヒエ、チェ・スジョン、ハン・ソッキュ、オ・ヨンス

 『嫉妬』
PD:イ・スンヨル
脚本:チェ・ヨンジ
出演:チェ・スジョン、チェ・ジンシル

 92年の主な出来事

・宮沢首相訪韓。従軍慰安婦問題で謝罪するも反日感情が高まる。

・韓国、中国・ベトナムとの国交樹立

・韓国大統領選挙で金泳三(キム・ヨンサム)氏が当選。

・この年6月までの1年間に韓国から日本への留学生が前年同期より175%も上昇、いきなり2万人台突破。

・[流行語] 新世代

 

1993

93年の平均視聴率年度別番組トップ5

①息子と娘(ドラマ)MBC 52.6%

②母の海(ドラマ) 37.9%

③お宅の夫はいかがですか(ドラマ)SBS 35.8%

④ピグワンドンキー(漫画)SBS 35.5%

⑤暴風の季節(ドラマ)MBC 34.0%

93年は金泳三大統領が就任し、それまで軍部の支配が強かった韓国において本格的な文民政権がスタートした年。就任後は過去の政治腐敗、汚職の摘発を積極的に進めるなど不正を徹底的に追及する姿勢で国民からの高い支持を得た。

ドラマ界では、相変わらずファミリードラマが人気だが、その中でも新世代を象徴するようなキャラクターが出てきて若者たちから支持を得た。その代表格が、『母の海』というドラマのコ・ソヨンだった。

『母の海』は、事業に失敗し、失意のうちに父親が亡くなった家族が、残された母と子とで生きて行くストーリー。それまでの伝統的な週末メロドラマを打ち破った庶民的ドラマだった。このドラマでコ・ソヨンが大人に率直にものを言う現代っ子に扮して若者たちの憧れの存在となり、彼女の言動を真似するコ・ソヨン族を生み出した。このドラマがきっかけでコ・ソヨンはブレイクし、いまや映画界に欠かせない大スターになっている。

『お宅の夫はいかがですか』は、学生時代の友人の3人の30代主婦が夫同士を比較して幸せを確認していくドラマ。イ・ヨンエのドラマデビュー作で、妻子ある男性を好きになる聡明でしっかりものの女性を演じた。

『暴風の季節』はミステリードラマ。生まれた境遇の異なる二人のいとこ同士を軸に起きる事件が繊細な人物描写で描かれて好評をさらった。

『母の海』
PD:パク・チョル
脚本:キム・ジョンス
出演:キム・ヘジャ、コ・ヒョンジョン、チェ・ミンス、コ・ソヨン

『お宅の夫はいかがですか』
PD:キム・ジェスン
脚本:ソ・ヨンミョン
出演:イ・ミスク、キム・ヨンチョル、ユ・ドングン

『暴風の季節』
PD:イ・グァンヒ
脚本:チェ・ソンシル
出演:キム・ヒエ、チェ・ジンシル

93年の主な出来事

・金泳三(キム・ヨンサム)氏第14代大統領に就任、文民政権の誕生。

・金泳三大統領「5.18光州民主化運動に関し国民の皆さんに申し上げる話」と題する特別談話を発表、光州民主化運動の復権と名誉回復に努めることを宣言する。

【光州事件】80年5月17日、民主化を指導する金大中、金鐘泌氏を逮捕し、金泳三氏を自宅軟禁措置とした。反発した光州市民の大規模デモに対して戒厳軍は強硬な鎮圧に乗り出し、軍、市民合わせて使者193人を出した。

・大田(テジョン)世界博覧会(エキスポ)開催。

・『風邪の丘を越えて―西便制-』公開。ソウルで100万人以上の動員、若者にパンソリブームが起きる。

・[ヒット商品]『風の丘を越えて』パンソリ