コラム・取材レポ・ブログ

コラム・取材レポ一覧に戻る

ハン・ソッキュ

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

『八月のクリスマス』『シュリ』と、日本での韓国映画人気を決定付けた作品の主演俳優としておなじみ。いわば日本における韓国映画ブームの立役者といってもいい、韓国を代表する映画スターだ。

ぱっと見たときには、いくら彼が韓国ナンバーワン人気のスターだと説明されてもどこか「???」と納得できかねるところがあったが、実際に作品を見ると、その深さ、物腰の柔らかな知的な雰囲気、漂う清潔感で一気にファンになる人が多い。決して「かっこいいー!」と黄色い声が飛ぶタイプではないが、その素敵さは十二分に伝わってくる。

芸能キャリアの始まりは声優で、低音でよく通る声は素晴らしい。高校時代は声楽家になることを夢見ていたそうだ。声優からMBCのタレントに合格し、その後は演技者として活躍していく。

92年に出演したドラマ『息子と娘』では、女性を優しく包み込むフェミニストの検事役を担い、理想の夫像を演じて女性ファンたちの人気を集めた。これを機にスターへの階段を登っていくのだが、このときからハン・ソッキュの理知的で洗練されたイメージが定着した。

ドラマでの人気をバックに95年からは映画界へ進出。おりしも映画界の主流がアクションものからラブストーリーへ変わろうとしていた転換期で、ハン・ソッキュの自然体の演技、ソフトな雰囲気はそれにちょうどハマり、監督たちからのオファーが絶えなかった。

97年の『グリーン・フィッシュ』では、平凡な青年がやくざ組織に身をおいたがために堕ちて行ってしまう悲劇を演じ、その年の主演男優賞を総なめにした。

その後も『接続』『八月のクリスマス』『シュリ』など、韓国映画の転機となる作品に次々に出演。自分の出る作品が韓国映画界においてどんな意味を果たすかも考えて作品選びをしているというだけあって、その慧眼はさすがだ。

その優れたシナリオ読解能力と卓越した演技力の賜物で、長らく「ハン・ソッキュが出れば映画は必ず当たる」という興行不敗神話の持ち主だった。

だが、99年の『カル』以降は、なかなかこれといった作品にめぐり合えず、出演決定の話が出ては消えしてファンをやきもきさせた。

実はハン・ソッキュの尊敬する人は高倉健だという。作品が選べずにあせりを感じがちなときも高倉健も7年ブランクがあったのだから3年ぐらいなんでもないと自分を励ましていたのだそうだ。

そんな充電時期を経て3年ぶりに出演したのが『二重スパイ』だった。1980年代を背景に、使命を帯びて韓国に偽装亡命した北朝鮮の諜報員が、歴史の狭間で北からも南からも追われていく悲しい宿命を描いた作品。いいにつけ悪しきにつけ、とにかく信念を持った人物を演じてみたくて選んだという。

だが、渾身の演技を披露したにもかかわらず作品は思ったほどの成功を収められなかった。そのせいで、なんと映画雑誌の企画で、2003年最も株価が下がった俳優に選ばれてしまった。韓国は容赦が無い。

ハン・ソッキュは、ほぼすべての韓国映画を公開されたときに見に行っているという。それで様々思うところがあったのだろう。「自分も40歳近くになっているので、もっと多様なジャンルのいい映画に出演して観客が共感できる演技をして観客層の幅を広げたい。それが自分の役割であると思う」と言うようなことを語っていた。

‘成功請負人’の名誉を挽回すべく挑む次回作はアクションスリラーの『塩人形』。妻を拉致されてしまった知的な弁護士役になるそうだ。そろそろ明るい役を演じたいと言っていたが、今度も精神的につらい役、その選択が吉と出るよう期待しないではいられない。