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チョ・スンウ

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

平凡で、取り立てて顔がいいというわけでもないのにスクリーン上で動き出すと俄然輝きを放つ。そんな俳優が韓国には多い。既に日本で紹介された俳優で言うとハン・ソッキュやユ・ジテ、イ・ジョンジェもこの部類に入るが、チョ・スンウもその一人だ。

顔だけ見れば、ちょっぴり下がり眉で特徴を上げづらい顔立ちだし、ごくごく普通の青年という感じだが、作品を見終わると「この人すごくいい」と一番印象に残っていたりする。顔につかみ所が無いだけに、いかようにも変身できるのだ。

デビュー作となった『春香伝』の両班(ヤンバン)のお坊ちゃま役の時も、主張のなさそうな、のっぺりした坊ちゃんだなあと思っていたら、いざ動き出すと、涼しげで、りりしげな立ち居振る舞いと発声のしっかりした堂々たるしゃべり方に、「おっ、この青年素敵!」とすっかり第一印象が覆ってしまった。

水彩画のようなラブストーリー『ワニとジュナ』では異母姉弟のキム・ヒソンとお互いに胸に秘めた互いへの愛を抱え、切ない思いをかわす役で、ちょっと危険な香りを漂わせるセクシーな男性として現れた。『フーアーユー』ではゲーム作りの仕事に夢中な好青年をすがすがしく演じてどれも好印象。

そして『H』。一見人のよさそうな柔和な顔の裏には狂気が秘められ、柔らかな微笑がかえって不気味。一重まぶたも味方に付け、変幻自在の表情を生み出していく。声も妙な湿気があって柔らかい。それが一層不気味さをかもし出す。不敵な笑みを口元に浮かべる頭脳犯。自ら‘怪物’と言ってるように、とらえどころの無い悪魔を演じきっている。

驚くのはこの『H』とほぼ同時期に公開された『ラブストーリー』では、初恋にときめく心を体いっぱいに表して青春期から青年への過渡期をみずみずしく演じていたこと。髪形もいでたちも『H』とそんなに変わらないのに、まるっきり違う印象で登場するのはさすがである。

70年代に活躍した歌手チョ・ギョンスを父親に持つチョ・スンウは、中学3年のとき姉が出演したミュージカルを見て芸能界を志し、芸術高校に進学。ミュージカル俳優を夢見て高校時代を過ごした。

その後99年、檀国大学の演劇科に通っていたとき、教授の推薦でイム・グォンテク監督の『春香伝』のオーディションを受けたのがきっかけで、1000倍の競争率を勝ち抜いて主役に抜擢された。これで韓国人俳優として初めてカンヌ映画祭のレッドカーペットを歩くという栄誉を受けることになった。

しかし注目を浴びた後は小劇場に活動の場を求め、映画やテレビからのオファーにもまだ時期でないからと断っていたという。そしてミュージカルに出演するなどして演技の研鑽を積んだ。長い目で俳優として活動していくための選択だったというが、こうした目先の成功に浮き足立たないところが‘若年寄り’とあだ名されるところなのだろう。

「明成皇后」「地下鉄一号線」などという韓国でも指折りの名作ミュージカルに出演するなど、ミュージカル俳優としても活躍する彼は、現在24歳と若いのに卓越した演技力で次世代の演技派俳優として映画関係者から一目も二目も置かれている。

次回作は『酔画仙』でカンヌ映画祭で監督賞に輝いたイム・グォンテク監督の99本目となる作品『下流人生』の主役だ。1950年代後半から70年代という韓国の激変する歴史のうねりに巻き込まれていくチンピラの人生流転を描いたアクションドラマ。デビュー作に続いてベテランの大監督から再び声がかかったのをみてもチョ・スンウの今の韓国映画界での地位を物語っている。2004年は年男、一層の飛躍が期待される。