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チャ・インピョ

※2001年6月発刊「韓国はドラマチック」(東洋経済新報社)より

端整な顔立ち、あふれる気品、チャ・インピョは、まさに韓国の貴公子である。思えば、この人の出演したデパートを舞台にしたドラマ『オールマイラブフォーユー』を見たのが、私の韓国ドラマへの興味の始まりだった。この『オールマイラブフォーユー』で大手デパートの御曹司を演じたチャ・インピョは、洗練された身のこなし、流ちょうにあやつる英語、細面の顔に似合わずボディービルで鍛え上げたたくましい体、そしてアフターファイブにはサックスなんかを吹いてしまうという、もう絵に描いたようなかっこいい男性で、それこそ、少女漫画に出てくる白馬に乗った王子様のようだった。あまりにキザ過ぎて笑ってしまうところもあったが、この人がやると様になるのだ。もちろん本国韓国でもそんな彼の魅力は大人気で、チャ・インピョシンドロームを引き起こし、デビューしてから1年ほど、たいした注目も浴びていなかった彼はこのドラマで一気にスターダムに躍り出た。

しかし、こんなにかっこいいのに、すんなりと俳優になれたわけではなかったようだ。

俳優を志したのは中学生の頃、『ET』を見て感動したのがきっかけ。学生時代をアメリカのニュージャージー州立大学で過ごし、帰国してから本格的に俳優を目指し始めた。何とか芸能関係者の目に留まろうと、お茶を飲むのでも映画関係者が多く集う場所に行ってスカウトされるのを待ったり、直接写真を持って売り込みに行ったりという日々が続くが、KBSや、SBSのタレント採用オーディションにも落ちた。やっと受かったMBCテレビでも1年ほどは端役ばかりでぱっとしなかった。しかし、オーディションを通してキャスティングされた『オールマイラブフォーユー』が人生を変えた。俳優としての知名度が大きくアップしただけでなく、このドラマで共演したタレントのシン・エラと翌年には結婚し、更なる話題を振りまいたのだ。ドラマの中でも、イ・スンヨン演じる過去の恋人に別れを告げ、シン・エラ扮するデパートガールと恋に落ちるという設定だったから、そのままになってしまったわけだ。しかし、この人生の絶頂期に何と彼は兵役に行ってしまったのである。

韓国男児の義務とはいえ、つらい。入隊中も軍隊ドラマ『申告します』『男を作る』や、軍の広報映画『アルバトロス』などに出演するが、やはり2年以上も留守したのは痛かった。兵役終了後、彼をスターに押し上げた『オールマイラブフォーユー』のプロデューサーの下、チャ・インピョ復帰作という触れ込みで『星に願いを』に出演するが、作品はヒットしたものの皮肉なことに3番目にクレジットされていたアン・ジェウクに人気を持っていかれてしまった。おまけに、演じた役柄も大企業の御曹司という『オール…』の時と似通った設定だったため「3年間冷凍になったがそのまま解凍された」と評されるほど新鮮味が無く、演技力不足も指摘されてしまう。

しかし、チャ・インピョは非難を黙々と受け入れ努力した。『英雄反乱』で王子イメージをぬぐい去り、1997年の『君と僕』ではきれいな顔を武器に金持ち女を引っかけ玉の輿をねらうしょうもない男の役で完全にイメージチェンジを果たした。視聴率60%を越す大ヒットとなったこのドラマで人間味溢れるキャラクターを演じたチャ・インピョは再び注目を浴び、演技力も認められるようになる。決して順風満帆で来たわけでない彼の俳優人生もこれで一過性ではない人気が定着した。このあとは子供を作りたいからとドラマ出演を休んで活動を映画だけに絞り、その甲斐あって1998年の暮れには見事男の子が誕生した。こういうところがなんかとっても計画的な人だ。1999年の『ワンチョ』では、韓国に実在する、物乞い集団のボスとして激動の時代を生き抜き晩年は孤児や貧しい人のために尽力した庶民の英雄、キム・チュンサムを演じMBC演技大賞の男子優秀賞を授賞。授賞のスピーチでは「この喜びを愛する妻と息子と分け合いたいです」とラブラブな挨拶をしていた。どんなにごろつきを演じようと、本質はとことん紳士なのだ。最新作は2000年の1月から始まった『花火』。6年間専属で出演していたMBCを離れ、初めてSBSのドラマに登板した。『青春の罠』などで知られる脚本家キム・スヒョンの書くメロドラマで、再び金持ちの紳士役でお目見えしている。

映画界への進出は1998年から。兵役中の96年に軍の広報映画『アルバトロス』に出演はしているが、これはあくまでも軍の命令でのこと。自分の意志で出たいわゆる商業映画デビュー作は98年の『ジャン』ということになる。この作品では高校の問題児クラスの生徒達を持ち前の明るさと包容力でひっぱていく音楽教師を演じ、キーボード演奏や、ラップなども披露した。1999年にはメディカルミステリーの『ドクターK』で、神秘的な能力を持った医者を演じた。チャ・インピョ自身、役柄や設定が気に入って是非ともやりたいと希望した作品だったそうだ。しかしながら、この『ドクターK』、手術技術が優れているブラックジャックのような一癖も二癖もある名医なのかと思ったら、何のことはないいざというときは超能力を使うのだった。その能力を使ってるときの「いっちゃった目」がちょっと怖かった…。