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チェ・ミンシク

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

‘やさぐれ男’‘中年男の哀愁’がもっとも似合う男、チェ・ミンシク。時には成熟した渋い男の魅力をたたえ、そうかと思えばただの情けない中年おじさんになりきって、見るものを惑わせる。

最初に見たのが『クワイエットファミリー』というブラックコメディーだったものだから、このときのちょっと小太りの変なおじさんが『シュリ』に出ていると言われても全くピンとこなかった。

『シュリ』でのあの格好良さはどうだろう。北朝鮮の特殊部隊長に扮したチェ・ミンシクは渋くて、かげりがあって佐藤浩一のような雰囲気で、体だって引き締まっている。‘変なおじさん’と、とても同一人物とは思えない。

『クワイエットファミリー』で共演したソン・ガンホも『シュリ』では素敵に変身しているし、みんな『シュリ』では株を上げている。

チェ・ミンシクはもとは舞台役者。1989年『九老アリラン』で映画デビュー。今の韓国映画界は舞台出身の俳優たちが看板スターになっているが、その先陣を切って舞台出身俳優として活躍しだしたのがチェ・ミンシクだった。

92年の『我らの歪んだ英雄』では若い教師役でアジア太平洋映画祭助演男優賞を受賞した。

一方で、芝居では食べていけないとテレビにも進出することになったという。90年にドラマ『野望の歳月』で人気者になるも、今ひとつブレイクしなかった。その後紆余曲折を経ながらも映画への出演を続けるうち、97年にハン・ソッキュやソン・ガンホと共演した『ナンバー3』がヒット。ここでは、登場シーンは少ないながらも、チンピラのハン・ソッキュとやり合う敏腕検事役で人気が上昇し、99年の『シュリ』で大ブレイクを果たすに至るのである。

この演技では韓国のゲーリー・オールドマンと称されたが、そんな『シュリ』の次の作品が『ハッピーエンド』だった。力が入っていたバリバリの男気発散人物から、リストラにあってうだつの上がらない気の弱そうな男への演技変身。『シュリ』とは対極にある役柄で、力を抜かなければならず役作りはとても大変だったそうだ。

まるで主婦のような無気力な夫が最後には不倫した妻を殺してしまい、罪悪感にさいなまれていくのだが、情けない男の悲哀がにじみ出ていた。

浅田次郎の短編小説を原作にした『パイラン』でもしがないチンピラを演じ、中国の少女パイランからありがとうと手紙をもらって思わずむせび泣く場面では、見るものの胸に迫る男泣きを見せている。

チェ・ミンシクの魅力はなんといってもそのやさぐれた男臭さだ。丸めた背中に漂う哀愁、ムンムンとした男のフェロモンに、成熟した男の色気が漂ってくる。

驚くのはその年齢で、まだ40歳だという。お肌つるつるの美肌俳優が多い韓国にあって、しわが顔にくっきり刻み込まれたチェ・ミンシクの顔は、年齢よりも老けた風貌に見せている。俳優としての浮き沈みを経験し、決して順風満帆ではなかった人生をしっかりと刻んできた顔なのだ。

『パイラン』のソン・ヘソン監督は「しわも演技になる俳優」と言うし、『ハッピーエンド』のチョン・ジウ監督は「じっとしている動作を撮っても感情が生きている俳優」と言っている。重厚な存在感とその確かな演技力は若手俳優たちにとってはあがめる対象にもなっている。

2003年の『オールドボーイ』では15年も監禁されていた男の鬼気迫る復讐劇を演じ、息苦しいまでの男の情念が画面いっぱいにたぎっている。

撮影のために10キロの減量に挑んだということで、役によって体重を自由自在に増減させるのも、もはやこの人の定番になっている。