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ソン・ガンホ

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

個性溢れるいかつい顔立ち、特徴のある声。チンピラ役や、なんか変な役がはまっていたのに、いつの間にこんなに素敵な俳優になってしまったのか。

質・内容共に評価の高い作品への出演が続き、今では興行を保証できる映画スターとして最も株の高い人である。

コメディースターの印象が強いが、素顔は大人の男性の魅力が静かに漂う、知的な雰囲気のある人だ。

お父さんは画家で文化的影響を受けて育ったという。芝居をするために釜山からソウルに上京し、91年舞台役者としてスタートした。映画は96年、ホン・サンス監督の『豚が井戸に落ちた日』のほんのちょい役でデビュー。主人公の作家の友人役で、意味ありげに出てきたものの結局2、3シーンぐらいで画面から消えていた。

次は『グリーンフィッシュ』だ。これはイ・チャンドン監督が当時話題になっていた舞台を見に行って、そこに出ていたソン・ガンホを見つけてキャスティングしたという。ここではハン・ソッキュ演じる男と何かとけんかを繰り返すチンピラの役だったが、その演技があまりにリアルで、映画を見た人が、本物のチンピラを連れてきたと錯覚するほどだったという。

そして『ナンバー3』へと続くのだが、これには『グリーンフィッシュ』で共演したハン・ソッキュの推薦があったという。この作品の中でのまじめな顔をして変てこな行動をとる暴力団員役が大当たりして、人気上昇。この役のイメージのCFも作られたほどで、コメディ俳優として知名度が上がった。

『クワイエットファミリー』でもほんとに変な男の役で、出てくるだけでなんかおかしい。

それらの印象が強く、どうもキワモノ役者的な印象があったが、『シュリ』で主人公の相棒の諜報部員で出てきたときは、そのスマートぶりに同じ人物とは思えないほどびっくりした。

そのあまりのイメージの違いに戸惑った客が多かったせいか、『シュリ』ではソン・ガンホ自身はあまりいい評価を得ることが出来ず、スランプに陥ってしまったという。

そんな時にキム・ジウン監督から声を掛けられて出演したのが『反則王』だった。昼は冴えない銀行マンが夜には反則王としてプロレスのリングに立つというコメディーで、初の主役。ソン・ガンホ特有の‘間’のおかしさと、大きな図体でせせこましく行動する男の頑張る面白さが存分に発揮され、作品のヒットと共にスランプから脱することにも成功した。

この人がその後『JSA』で人間味溢れる温かな北朝鮮兵士としてスクリーンに現れるなんて誰が想像できただろう。彼の演技力と、それ以上にソン・ガンホをキャスティングした人の見る目に感服するばかり。この『JSA』での演技が素晴らしい。北朝鮮訛りのセリフに苦労したようだが、恰幅もよくなって、頼れる兄貴そのもの。

この『JSA』でのブレイクで、ソン・ガンホの時代が幕を開けるのである。

『復讐者に憐れみを』では娘を殺され非情な復讐者になっていく陰惨な男を壮絶なまでに演じ、『YMCA野球団』では、いがぐり頭で韓国初の野球チームの団員をコミカルタッチで演じている。

コメディーとシリアスの間を縦横無尽に行き来しながら、役に息を吹き込んで、作品をヒットに導いていく。

そんな彼の両面がいかんなく発揮されたのが2003年最大のヒットとなった『殺人の追憶』だ。1980年代に実際に起こった連続婦女暴行殺人事件を題材に、ソン・ガンホはその犯人に翻弄される田舎刑事を演じているが、体と性格のゆるさといい、後半のやるせなさといい、圧巻だった。