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韓国ドラマをもっと楽しむための韓国文化

※2001年4月発刊「韓国エンターテイメント三昧vol.2」(芳賀書店)その後2003年7月発刊「韓国はドラマチック」(東洋経済新報社)にも掲載 記事の転載禁止

映画やドラマを見ていると、日本人の私から見て「えっこれってどういう意味なんだろう」とか、「へえーっ、韓国ではこういう時こんなことするんだ」という疑問や発見がよくある。同じ物でも韓国と日本とでは使い方が違ったりして、おもしろい。特にドラマは内容的に日常の生活に密着しているせいか、韓国文化に根ざした様々な場面に出会うことが多い。そんな事柄を物語の中の使い方とともに思いつくまま並べてみた。

(注:場面の説明の部分では、ドラマや映画での役名ではなく、わかる限り、演じている俳優の名前で統一しました。)

 

 食べ物編

<お餅>
引越の時日本では「引っ越しそば」とも言うように引っ越してきたらそばを振る舞ったりするが、韓国の場合はお餅を配るようだ。

例えば、ドラマ『シンデレラ』で、新しくマンションに越してきたキム・スンウ演じる男が、管理人のおじさんに「引っ越してきたので、これどうぞ」といって渡していた。

その他ドラマ『トマト』でも、新しく事務所を構えることになった人達が、友人のキム・ヒソンやキム・ソックンらを招いて事務所開きをしたときに「餅を用意したのよ」と言うセリフがあったので、「祝!事務所開き」のようなお祝い事の時にも餅は登場する。

ドラマ『あなたそして私』で、チャ・インピョにこっぴどく振られながらも未練があり、ソウルまで追いかけてきた女性がいる。その女性がチャ・インピョの家の近くの市場の中に新たに八百屋を開くことになったらしく、隣近所のお店の人に「開業記念のお餅です、どうぞ」と言って配り歩いていた。もらった相手も「若いのにしっかりしているねえ」と嬉しそうだ。この、餅を配るというシーンを入れることによって、多くを語らずとも「ああこの人とうとうソウルにお店まで開くことにしたんだわ」というのがわかるのである。ちなみにこの時のお餅は、四角くのばした餅の上に小豆がのっていて、更にその上にまた餅を重ねてその上に小豆を…というように地層のようになったものを四角く切り分けていた。


 <とうふ>

ドラマ『真実』で、恋人のチェ・ジウにつきまとっていたソン・ジチャンを殴って逮捕されたリュ・シウォンが拘置所にいると、チェ・ジウが面会にやってくる。そんな彼女にリュ・シウォンは「心配しないで、すぐ出られるから。そうしたら豆腐チゲを食べさせて」と言うのである。はて、なんでここで豆腐チゲが突然出てくるの?と疑問に思った。だって別にドラマの中で彼が豆腐チゲが好物だとか、チェ・ジウが豆腐チゲが得意だとか言ってたシーンなんて記憶になかったし…と思っていたのだが、その後続々と出所=豆腐というシーンに出くわし、豆腐に意味があるとわかった。何でも豆腐には厄落としの意味があり、2度と牢屋の中に戻らないように、すっきりときれいな身体になるようにという思いが込められている儀式なのであった。豆腐を食べるシーンにもいろいろあって、『イブの総て』では、キム・ソヨン演じるアナウンサーに陥れられ、刑務所に入る羽目になった男が復讐に燃えて出所したとき、彼の子分たちがビニールに入れた豆腐を差し出し、男はガブリと噛みついていた。

名作『砂時計』では、――やくざな道に進んでいるチェ・ミンスが拘置所から出てくる日、法律家を目指す友人のパク・サンウォンがチェ・ミンスを出迎えようと、豆腐を2丁透明なビニール袋に入れて下げて歩いてくる。しかしその目の前で、チェ・ミンスはやくざ組織に出迎えられ、黒塗りの車に乗って、パク・サンウォンに気づかずに去っていく。一人残されたパク・サンウォンは手に提げていた豆腐を寂しげに見つめるのだった。――というシーンがあるが、これはチェ・ミンスとパク・サンウォンの歩む道が決定的に違うものになったということを表す象徴的な名シーンだった。


<ワカメスープ>

ドラマ『秘密』では、父親とキム・ハヌル演じる娘の2人のある朝の食卓シーンで、父親が「ワカメスープはもう飽きた」と言うと、キム・ハヌルが「今日は私の誕生日なのよ、忘れてたんだ」と言う会話がある。これはワカメスープが何を意味するのかわからないと全くかみ合っていない会話に思えるが、韓国ではワカメスープというのは誕生日の朝には必ず飲むものという背景がある。それをふまえて見てみると、このシーンも「私の誕生日だからワカメスープにしているのに、お父さんたらワカメスープを見ても誕生日だってこと思い出してくれなかったのね」という意味の会話になっているわけである。

ドラマ『秋の童話』でも14歳まで育てた娘が実は同じ日に産まれた子供と取り違えていたという事実がわかり泣く泣く子供を交換した母と娘がいて、その数年後、未だに途中まで育てた子に思いを残している母親が朝の食卓にワカメスープを出した。実の娘の方は内心「あっ私のためにワカメスープ用意してくれたんだ」とうれしそうな表情を見せるが、次の瞬間母親が今は駆け落ちしてしまった娘のことを心配して「今日はあの娘の誕生日なのに…」とさめざめとし始めたためショックを受け、「今日は私の誕生日でもあるのよ」と切れて飛び出していくシーンもあった。

そしてワカメスープのもう一つの使われ方としては、妊娠中の女性、もしくは産後の女性に飲ませるというのがある。『イブの総て』では、キム・ソヨンが、付き合っているハン・ジェソクの母親から交際を反対され、その母親の心をなんとか変えさせようと画策するところで、母親のひどい態度に、交際していくことに自信を失って子供をおろしたことにしようとする場面があった。この時彼女の話を信じたハン・ジェソクが彼女のためにワカメスープを作ってやり、それを見た彼の母親が「まさか妊娠…!?」とぴーんとくるという小道具として使われていた。またこれは人から聞いた話なので、ドラマのタイトルはわからないが、未だに男の子を産むことが大事だと思われている家庭の中で、娘を生んだ嫁に対し姑が、「娘を生んどいてよくワカメスープが飲めたものだ」というセリフが出てきていたという。このセリフから、産後の滋養のために、子供を産んだ女性はとにかくワカメスープを飲むという風習がうかがえる。まあこの姑の場合、「女の子を生んだような嫁が一人前に産後の滋養を考えるなんて図々しい」というニュアンスが含まれているのだが、一般的には産後1か月ぐらいはたくさん飲むようにするのだという。ちなみにワカメはつるつるしているので滑って箸で掴みにくいため、試験の日の朝は飲ませないということだ。

<おでんの汁>
ドラマの中で女性主人公が屋台に入って注文したのが「おでんの汁」だった。えっ汁だけを飲むの?と変な気がしたが、韓国の人はおでんの汁が大好きなのだという。私の韓国の友人はおでんの中身よりも汁が目当てだとはっきり言い切っている。だから日本に来てスーパーなどでおでんを買ったとき、具はたくさんあるのに汁がほとんどなくて凄く悲しかったのだとか。そりゃあ、日本ではおでんといったら具がメインだものね。韓国のおでんはつみれのような、魚のすり身を揚げたものを長い串に刺して食べるのだ。それ以外の具は無いという。ってことは「おでんの具は何から食べる?」「私は大根」「私は卵」なーんて言うやりとりは韓国には存在しないことになる。で、その汁だが、だしはいりこのような魚から取っただしで、日本よりも単純な味をしているのだとか。韓国の味に慣れた人には日本のは甘く感じられるらしい。

<卵>
殴られて目の周りに青あざを作った人が、その箇所に卵を当てている。こんなシーンをよく目にする。

例えば、ドラマ『白夜』で、北朝鮮高官の娘、チン・ヒギョンへの恋心から彼女に近づく、北朝鮮の通訳ガイドの男、イ・ジョンジェに対し、チン・ヒギョンの父親が快く思わず部下に殴らせて2人を引き離そうとする場面がある。その後目の周りを青くして沈み込んでいるイ・ジョンジェに相棒のチェ・ミンスが部屋を去り際にある物を渡してやる。何かと思えばそれが卵だった。その卵をどうするのかと思ったらイ・ジョンジェはその卵をおもむろに目の周りで転がし始めたではないか。2人の男の友情がほのかに伝わってくるシーンなのだがなぜ卵なの?

映画『朴対朴』でも、顔にあざを作った、これまたイ・ジョンジェがあざの部分に卵を当ててぐるぐる回していたし、ドラマ『美しい彼女』でもボクサーのイ・ビョンホンが試合後、青あざのできた目に卵を当てていた。韓国ではあざには卵が効くと信じられている。医学的根拠はわからないが、私の韓国の友人も物心着いた頃からあざができたらその上で卵をぐるぐる転がしているとあざが引くということになっていたという。実際に確かめたことはないらしいが、あざが引いた後でその卵を割ってみると中の色が青く変色しているのだとか。この場合、生卵がいいという説とゆで卵が効くという説もあり、そのあたりは定かではないらしい。しかし、とにかくあざには卵なのだ。

 

 

事柄編

<お墓>
韓国は儒教思想が根強いことから土葬にするのが一般的である。そして風水のよい場所を選んで山盛りに土を盛ってちょっと古墳のような感じにするのである。映画『インタビュー』で、シム・ウナが事故でなくなった恋人の墓を訪ねるシーンで、この盛り土のような墓が出てくる。しかしいかに土葬信仰が強いとはいえ、このまま土葬を繰り返していくとお墓のためにどんどん国土が不足してくる事態を危惧している韓国政府は火葬を奨励しているが、なかなか火葬に移行できないのが現状のようだ。ただし、若くして亡くなった未婚の子供を葬る場合にはその後親が亡くなってしまったら誰もお墓の面倒を見てくれる人がいないからということで、その場合は通常火葬にするのだという。ドラマ『あなたそして私』では、チャ・インピョが入れ込んでいた金持ちの娘が亡くなったとき、彼女のことを好きだった弟のソン・スンホンと会話をするシーンで、ソン・スンホンに「彼女のお墓は?」と聞かれ、チャ・インピョが「そんなのない。未婚で悪い病気で死んだから火葬にした。お寺に行って位牌を祀ってきた」と答えていた。


<婚約式>

結婚の前に両家のお披露目的な意味で行われる。結婚式ほど決定的ではないが、絵的にこの2人は家公認で結婚間近というのを視聴者に理解させるのに最も効果的なせいか、ドラマの中ではよく出てくる。ドラマ『この世の果てまで』では、リュ・シウォンが本当に愛しているキム・ヒソンのことを思い切るために金持ちの娘と婚約式をするが、土壇場になって「やっぱり僕はキム・ヒソンが好きなんだ」と言い出しその場を飛び出していく。こんな感じでドラマの中に置いては婚約式をしてそのまま無事に結婚するケースはそれほど多くない。婚約式の後に主人公の心が揺れて波乱が起こるのが大方のパターンだからだ。

そして女性側の衣装がほとんどの場合、昔のアイドル歌手が着ていたようなピンクのブリブリドレスなのだ。思いつくままに挙げても、『真実』のパク・ソニョン、『日差しに向かって』のキム・ハヌル、『青春の罠』のシム・ウナ、『秋の童話』のハン・ナナとみんな見事にピンクのブリブリである。なんでみんなこうなの?と思うが、ドラマに限らず実際の婚約式でもやはりピンクのブリブリは定番らしい。普段どんなに洗練されたかっこいい女性でも、いざ婚約式になると突如としてピンクブリブリになるのだという。韓国の友人曰く、アメリカで勉強してきたキャリアウーマンタイプの友だちですら婚約式の時にはやっぱりピンクのブリブリを着ていたので、「あなたもそうなのか」とショックを受けたと言っていた(笑)。

<兵役>
兵役が義務の韓国だけあって軍隊のシーンはかなり多く登場する。『ペパーミントキャンディー』では、ソル・ギョング扮する主人公のが兵役に服しているときに光州事件があって、そこで誤って一般市民を撃ち殺してしまったことがずっと胸から消えない傷となって人生が狂っていってしまった姿が描かれている。『砂時計』でも、検事となったパク・サンウォンがその昔、やはり光州事件の時に軍にいて市民に銃を向けたことが心に引っかかっていることが語られている。

軍を除隊後も予備軍の訓練に参加する義務があるという。これは映画『誰が俺を狂わせるか』の中に出てくる。冴えないサラリーマンのイ・ビョンホンは、恋人のチェ・ジンシルや会社の同僚らからさげすまれていることが気に入らない。そんなある日会社のみんなで飲みに行こうということになるが、イ・ビョンホンは丁度予備軍の訓練の最中だ。訓練といっても軍服を着て街が見渡せるような高い場所で銃を抱えて仲間とお酒を飲んでいる。酔いが回るうちにだんだんと切れてついに彼がとった行動は…という話だった。

兵役とは違うが、訓練という意味では月に一度15日に総合訓練が行われる。サイレンが鳴ると少しの間その場を動いてはいけないことになっている。映画『僕にも妻がいればいいのに』では、先を急いでいるのに丁度この訓練にかかってしまったソル・ギョングが、なんとか動こうとするが、係員に注意されてしまう。ついにはチョン・ドヨンの協力を得て手に手を取って一緒に走って逃げるというシーンがあった。

<年齢>
ドラマ『ゴースト』の中で、キム・ミンジョンが幼なじみのミョン・セビンの誕生日に花屋に行って「彼女は年を満で数えているのでその数だけ花を下さい」というようなセリフがあった。なんでわざわざ「満で数えているので」などと言うのかというと、これは韓国で年齢を言うときは普通は数え年でいうということが背景になっている。男性の場合は年長者が敬われる儒教社会で、少しでも年が多い方がいいのかもしれないが、女性の立場からすれば年を取るにつれて満で言いたい気もわかる。だから韓国の人に年齢を聞くときには「何歳ですか?」だと返ってきた答えが満で言っているのか数えで言っているのかわからないので、「何年生まれですか?」と聞いた方が誤解がない。誕生日も今の年代の人は西暦で覚えているが、少し古い人だと誕生日も旧暦で考えるため、毎年日にちが違ってくるという。祖父母の年代では昔カレンダーをもらって最初にするのが、その年の自分の誕生日を忘れないように○をくれることだったという。ちなみに若い人でも、占いの時には旧暦の誕生日で占ってもらうのだとか。そのため多くの人が、自分は旧暦の何月何日に生まれたのかも知っているという。