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シム・ウナ

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

潤んだ瞳から流れ落ちる一筋の涙。このショットが世界で一番はまる女優だと勝手に思っている。清純な中に意志の強さを秘めた魅力は、男たちから命がけで愛される運命の女がよく似合うのだ。最初にシム・ウナを見たのは『八月のクリスマス』だった。この時は前髪をカチューシャで上げていたせいか、顔の線がふっくらとして見え、大人の女性というよりは元気印のかわいい人だなあというただそれだけの印象でしかなかったのだが、むしろこういう元気な役の方が彼女にとっては珍しかったようだ。1999年の連続猟奇殺人ものの『カル』では、そこにいるだけで哀しみが漂ってくる存在感で、そのまっるきり違う演じ分けに「このひとすごい女優だなあ」と私の中で一気に株が上がってしまった。

シム・ウナは93年MBCの第22期の新人タレント選抜に合格して芸能界デビュー。翌年の94年にはチャン・ドンゴンらと共演した『ファイナルジャンプ』でドラマに出始め、続く、リアルなSFXを使ったミステリードラマ『M』では悪魔の本性を隠した2つの顔を持つ女を演じ、52.2%という高視聴率をはじき出し、シム・ウナの出世作となった。テレビドラマで早々に成功をおさめたあと、映画界へ進出するが、チェ・ミンスと出た映画『アッチ・アッパ』、チョン・ウソンと共演の『ボーン・トウ・キル』のいずれもヒットせず、彼女にとっては2度の失敗と位置づけられている。シム・ウナは韓国映画界を支える若手映画女優という観点でチョン・ドヨンとよく比較されるのだが、映画の分野では最初から作品に恵まれていたチョン・ドヨンに比べると残念なスタートだったわけだ。

しかし、98年『8月のクリスマス』からシム・ウナの反撃が始まった。青龍賞と大鐘賞で主演女優賞を授賞しただけでなく、いい作品に巡り会えたおかげで韓国国内だけでなく、日本、香港など海外にも一気に知名度を上げることに成功したのだ。続く『美術館の隣の動物園』では女性ビデオカメラマン役で、それまでの清純なシム・ウナから、飾り気のないカジュアルな魅力のシム・ウナに変身し、『8クリ…』をさらに上回るヒットとなった。そして99年、前述の『テルミー…』でハン・ソッキュと再び共演。興行的にも、そして演技力の面でもシム・ウナは手堅いヒットメーカーであるとの意味で「女版ハン・ソッキュ」と呼ばれるまでになった。これは現在の韓国映画界に於いては何にも勝るほめ言葉だ。その透明感、とらえどころのない2面的な魅力に更に演技力が加わって怖いもの無し。

しかし、対人拒否症だとかで、『テルミー…』の記者プレミアの時も自分の主演映画の試写会なのに人目を避けるようにこっそりと会場入りし、記者に見つかるとダッシュで現場から逃げ去ったりしてマスコミや視聴者からも反感を買っていた。ワイドショーのような番組では「なぜここまでマスコミを避けるのか?」という分析までやっていたほどだった。おまけに『テルミー…』の監督からも、「ただ演技するだけでなく、もっと観客に親しまれるようなエンターテイナー的要素を持った女優になって欲しいです」と言われてしまっていたから相当ひどい対人拒否症状だったのだろう。彼女の精神の繊細さが裏目に出てしまったのかもしれない。

地元の映画関係者にいわせれば、彼女の最も素晴らしい演技はテレビドラマ『青春の罠』だという。子までなした男に裏切られ、復讐を図ろうとするが、真の愛を知っていくという物語で、愛の喜び、絶望、憎しみ、昇華を見事に演じきって‘神がかりの演技’と評された。

2000年の『Interview』を最後に事実上の引退宣言をしたが、復帰のラブコールは絶えることなく、今年こそはカムバックするのではといまだにマスコミをにぎわせている。