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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑨兵役終えたら一人前の韓国男子

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)より。記事の転載禁止

韓国は世界で唯一の分断国家。
1950年から1953年まで行われた朝鮮戦争以来、
北朝鮮との間に休戦協定が結ばれ、
戦いを休んでいる最中に過ぎないという立場にある。

そうした特殊な国情のため、韓国の健康な男子には
兵役が義務として課せられている。

韓国では19歳になったら兵役に耐えられるかどうかの判定のために
徴兵検査を受ける。普通の健康体だと
正規の軍に行く”現役“に認定される。
これは本格的に入隊して、休暇でもない限り家には帰れない。

身体的に”現役“はちょっと難しいという場合には”防衛“となり、
”公益勤務要員“として市役所などの公共の場で勤務しながら、
軍の訓練に通うことになる。

いずれも普通は2年以上の軍服務につかなければならない。

『猟奇的な彼女』は、軍隊を終えて復学したばかりの
キョヌ(チャ・テヒョン)が、地下鉄で出会った、
かわいいけどとんでもない行動をとる”彼女“に振り回されながらも
純情な愛をささげるロマンチック・コメディー。

一見頼りなさそうなキョヌもきちんと兵役は済ませている。
ただし、キョヌの場合は”公益勤務要員“だ。
韓国では兵役を終えて初めて一人前の男になったと認識されるので、
キョヌが友だちに「だいぶ男らしくなったろ?」
と聞いているのだが、キョヌは”現役“の軍ではないため、
「家から通う公益勤務要員が軍人かよ」と言い返されてしまっている。

この映画の中では途中、脱走した兵士のエピソードも出てくる。
彼には恋人がいて毎週面会に来てくれる仲だったにもかかわらず、
ほかの男性にとられてしまった。
また飼っていたメス犬まで野良犬と駆け落ちしたことでカッとなり、
「彼女とメス犬を殺すために脱走した」といっている。

このように、軍隊に行っている間に
恋人がほかの男と付き合いだして振られたという話は枚挙にいとまがない。

軍服務期間中は2年以上の間、俗世間と離れるわけで、
この軍入隊がターニングポイントになる場合が結構ある。

例えば、日韓共同制作ドラマ『フレンズ』では、
香港で知り合い、恋心を育てていた韓国の青年ジフン(ウォンビン)と
日本の智子(深田恭子)だったが、
付き合い続けていく難しさを感じて身を引く決意をしたジフンが、
さまざまなことを思い切るために軍に入隊する。
男性にとっては、”仕切り直し“の役目も果たすのだろう。

『バンジージャンプする』は、
学生時代に付き合っていた恋人同士の物語。
男が軍に入隊する前に彼女と一夜を共にする。
そして翌朝「駅まで見送りに行くから」と言い残したまま、
結局彼女は姿を現さず、男も軍に行って
ふたりの関係はそのままになってしまったという話が語られる。

その後、男はその恋人に心を残しながらも別の女性と結婚し
子供をもうけるが、20年経ったある日、昔の恋人を髣髴とさせる学生、
しかも同性の男子学生が自分の目の前に現れて動揺するという、
輪廻転生のソウルメイトを描いた作品だった。

『リメンバー・ミー』は、1979年に生きる女学生と
2000年に暮らす男子学生が無線通信を通じて交流する
ファンタジックなラブストーリー。
この中で、1979年のソウン(キム・ハヌル)は
大学の先輩に恋をしているのだが、この先輩は軍隊に行っていて
除隊したばかりという設定になっていた。

ソウンは大学内の掲示板を見て先輩の復学を知り、
喜びをあらわにする。
そして大学構内で先輩の姿を見つけてじっと見つめている。
目が合いそうになると、

「除隊したんですか?」

「今期から復学だ。部隊に手紙ありがとう。
しょっちゅうくれたのは君だけだったよ」

という会話になる。
基本的に高校以上の学校に在学中の場合などは
入隊を延期することができるが、
このようにだいたい大学のときに休学して兵役に行って来る人が多い。

一方、軍隊に行けなかったという男性の話もドラマに出てくることがある。

『愛の群像』の貧乏学生のジェホ(ペ・ヨンジュン)は、
成績優秀な学生だ。
しかしジェホを愛しているヒョンス(ユン・ソナ)は、
ジェホを自分の会社に入社させたいために裏工作をして就職試験に落とさせる。

そんなことはつゆ知らぬジェホが珍しく教授(イ・ジェリョン)に
弱音を吐く場面。

 

ジェホ「僕みたいな奴では無理と思っていました。
軍隊に行ってないし、成績のいい奴はほかにも・・・」

教授「軍隊に行ってないのか?」

ジェホ「軍隊にも行けません。父が亡くなって母が家を出て、
それだと家長になるからと。行きたかったんですが……」

『あなたそして私』では、4人兄姉弟の家族がメインで出てくるが、
末の弟(ソン・スンホン)は、父親が浮気してできた子供だった。
そのため弟は小さいときに母親と引き離され、
自分のことを快く思っていない兄の下で育つという環境によって、
喧嘩っ早く、ナイーブな感受性を持つ男性になっていた。
この男性が軍隊について触れる場面のセリフがこれだ。

「軍隊に行きたいけど行けない。心理検査を受けたら、
団体生活不適格者だといわれた」

偏平足だから免除になったというドラマの主人公もいた。

このように、家の事情や性格的なことや、
自閉症だったり、ゲイだったり、もしくは、
背が高すぎたり低すぎたり、太りすぎたりやせすぎたり、
3代続くひとり息子というのも免除になるそうだ。

参照作品

『フレンズ』

2002年 TBS、MBCプロダクション
演出=土井裕泰、ハン・チョルス 脚本=岡田惠和、ファン・ソニョン 出演=深田恭子、ウォンビン
旅先の香港で出会った智子と韓国の青年ジフン。それぞれ帰国した後もふたりはメールのやり取りを通して心を通わせていく。文化の違いや言葉の違いに戸惑いながらも、別れや再会を経て成長していくふたりの恋物語。

『バンジージャンプする』
2001年作品
監督=キム・デスン 脚本=コ・ウンニム 出演=イ・ビョンホン、イ・ウンジュ、ヨ・ヒョンス
大学時代の恋の思い出を胸に秘めたまま、結婚し子供をもうけた高校教師の前に、かつての恋人を髣髴とさせる男子生徒が現れて、激しく心が揺れる。忘れられないかつての恋人が自分の同性として生まれ変わっていたら……。輪廻転生をモチーフにソウルメイトを描いた異色メロドラマ。

『リメンバー・ミー』
2000年作品
監督=キム・ジョングォン 脚本=チャン・ジン ホ・イナ 出演=ユ・ジテ、キム・ハヌル、ハ・ジウォン
1979年に生きる女性と2000年の世界に住む男性が、ある月食の日、不思議な力が働いて無線機で交信をするようになる。お互いのことを語りながら交流を続けるうちに、ふたりの間にはある因縁があることがわかってしまい……。初恋の日々を思い出すような、甘く、ほろ苦いファンタジック・ラブストーリー。