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ウォンビン①

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

思えば日本の‘韓流’の発端となったのは、このウォンビンの存在だった。

2002年、ワールドカップを機にTBSとMBCプロダクションの合作で制作された日韓ドラマ『フレンズ』で韓国側の主役をつとめ、その美男子ぶりが多くの日本女性の心を捉え、韓国エンタメへの興味を掻き立てることにつながった。

ウォンビンの韓国でのブレイクは2000年。熱い愛を語らせたら天下一品で、ウォンビンは韓国女性たちのハートをわし掴みにした。

それは70年代を舞台にしたKBSのドラマ『コッチ』から始まった。このドラマは9歳の少女コッチの目を通して70年代を背景に、ある家族が体験する波瀾万丈な一代記を描いたものだが、その中でウォンビンは3人兄弟の末っ子で、血の気が多く喧嘩っ早い、口の悪いチンピラのような男の役だった。

将来の展望もなく生きていたところに8歳年上のカフェのマダムに出会って胸を焦がすような恋に落ちて自分の生き方をも見つめ直していくのだが、この年上の女性との恋がものすごく話題になった。

儒教精神の強い韓国ではいまだに年上の女性との恋はためらわれるところがある。そんなところにきてウォンビン扮する22歳のミョンテが、カフェで働いている30歳の未婚の母に、不器用にも激しく愛を告白するのである。「おばさん、愛してる」と。愛する女性に「おばさん」はないだろうと思うが(笑)、このウォンビンの熱い告白「おばさん、愛してる」が世のおばさま族の心にグッと来たらしい。しかしドラマの中では、相手の女性も心は動くもののやはりかなり年下ということに抵抗があり、また彼女の昔の男が邪魔をしたりして、ウォンビンは打ち明けても打ち明けても拒絶されてしまうのだが、その切ない演技がまた上手くて、この時点でウォンビンはおばさんキラーとして確固たる存在を示したのである。

実際このドラマの影響や、韓国の国民的女優のチェ・ジンシルが5歳年下の巨人のチョ・ソンミン選手と結婚したことなども手伝って年下男性との恋がブームになり始めた。男子高校生の間でもウォンビンはあこがれのアイドルになり、やはり彼らの間でも年上の女性を好きになるのが流行ったという。双方向に影響を与えた訳だ。

そして間をおかずに続けて出演した『秋の童話』(KBS)がまたメガヒット。ここでのウォンビンは、プレイボーイで金持ちのボンボンだ。一人の女性(ソン・ヘギョ)と出会って本物の愛を知るようになるが、彼女が愛しているのは幼い頃から兄妹同然に育ってきた男性(ソン・スンホン)だ。どんなに彼女を思っても報われず、時には彼女にひどいことをしてしまうが、彼女が不治の病であることがわかってからは献身的に、そして愛する者同士を大きな愛で見守るようになるという役だった。

日本のドラマ『星の金貨』で竹野内豊が演じてスターダムに昇った「巧先生」のような役。『星の金貨』で竹野内豊のファンになった人なら、このドラマのウォンビンを見たらきっとはまるはず。ここでも、気持のみなぎる男の切なさ、優しさが炸裂していて、もう主役のソン・スンホンよりも肩入れしてしまった。魅力的すぎてもうたまりませんわーの極致である。地方の美しい景色と、郷愁を誘うもの悲しいストーリーが評判を呼んだこのドラマは、新世代のみならず、30代、40代の主婦層にまで幅広い人気を博したが、そのおばさま族の視聴者はウォンビンの魅力に惹かれて見ていたところが大きかったという。

演技力も評価されて2000年のKBS演技大賞の優秀主演男優賞を受賞した。

この2作品ですっかり、短い髪、無骨ながらも強気で押してくるというワイルドなイメージが定着したが、デビュー当時は今とは180度イメージが違っていた。

江原道の小さい山奥の村で生まれたウォンビンは生え抜きの田舎少年だった。車の整備工や新聞配達などもやったそうだ。高校3年の時ケーブルTVのタレントに採用になりソウルに出てきた。このケーブルテレビ時代はまだ本名のキム・ドジンで出ていた。それがデザイナーのアンドレ・キム氏の目に留まりファッションショーのモデルとして舞台に立つことになった。で、その舞台を見て事務所にスカウトされたのだという。

アンドレ・キムの衣装が似合うぐらいだからその頃のイメージがわかろうというものだが、ドラマデビューとなった97年の『プロポーズ』では、キム・ヒソンの隣の家に住む犬を連れた美少年として登場した。優雅なシルクのシャツに身を包み愁いを帯びた表情、長く垂らした前髪で、詩をたしなむという、まさに王子様。「あの美少年は誰?」と注目を集めた。

99年の『クァンキ』という、専門学校の広告サークルの面々の青春を描いた作品では、幼い頃に父母が離婚して以来家になじめない、写真家を夢見る青年役で、ここまではずっと孤独で繊細な王子様イメージを保っていた。だから『コッチ』のオーディションでは最初作家はイメージに合わないと反対したそうだが、本人の「命がけでやります」という態度を見て任せることにしたのだそうだ。

その言葉通り、ウォンビンは長かった髪をバッサリと短いスポーツ刈りのようにし、タフガイに変身した。

実際の彼はとても内省的な性格らしく口数が少ないのだとか。インタビューをするのがとても難しい俳優の一人だといわれている。

ウォンビンが日本のファンと交流するイベントの司会をやったことがあるが、ウォンビンは自分がスターだという意識がまだあまりない感じがした。ステージ上で話していてもどんどん後ろに下がっていってしまうし、ファンに抱きつかれて困っているような感じだったりして、終始はにかんだような笑みを浮かべている。そのシャイな感じが微笑ましかった。

仕事面では『秋の童話』以降は映画に進出。まずは4人の殺し屋たちが活躍する『ガン&トークス』で、一番末の弟分に扮し、笑顔が可愛い男の子の魅力を振りまいている。チャン・ジン監督いわく、普段はどこの田舎者かと思う感じなのに、カメラを向けるとまさにスターで、どの角度から撮っても完璧に美しかったという。

次が『シュリ』のカン・ジェギュ監督の大作『ブラザーフッド』。朝鮮戦争の時代に翻弄された兄弟の弟役に扮している。慕っていた兄に疑念を抱くようになり、それでも兄の心を取り戻そうと命がけで兄に向かっていく役どころ。感情をぶつけやすい役柄だったこともあるが、ウォンビンの良さが際立っていた。‘花美男’から脱したいと公言していたが、この作品での好演で映画俳優としての評価が高まることは間違いない。