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イ・ヨンエ

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

透明感のある美しさ、それでいて人を包み込むような柔らかさを兼ね備えている女優さん。インタビューなどで素のおしゃべりを聞くと、すごく丁寧な、優しそうなしゃべり方をする人で、女の私から見ても「なんて可愛らしいのかしら」と好感がもてる人だ。

その美しさは小さい頃から目だっていたようで、既に小学生の時参考書の表紙モデルになった。また中学3年の時にジュニア雑誌「女学生」の表紙モデルに応募して採用になったりとフォトジェニックな美しさが際だっていた。大学2年までは普通の学生生活を送っていたが、チョコレートのCMに抜擢されて芸能界入りすることになった。そしてマモンド化粧品のCMで「酸素のような女」のキャッチコピーと共に一躍名の知れる存在となった。「酸素のような女」とはよく言ったものでイ・ヨンエの透明感、清潔感、純粋さ、みずみずしさをぴったりと言い得ているコピーだ。ただそのイメージが強烈すぎて、はつらつさとか、どっしりとした存在感とか、セクシーさとか女優に求められがちなそれらのものが当てはまらない感じだ。あまりにスーっとしていて欲望とか、激しい情熱という言葉が無縁に感じられるのだ。

このマモンド化粧品のモデルは韓国内の化粧品モデルとしては2000年にファン・スジョンに代わるまでおよそ10年間という最長の契約期間を記録し、その間「世界は私を必要としている」「光になる女性」というコピーが彼女を飾ってきた。このCF人気のおかげで96年からはイ・ヨンエのCF契約料がおよそ2億ウォン(日本円で2000万円)程にもなったという。このクラスはワールドスター、カン・スヨン、チェ・ジンシル、チェ・シラに続いて4番目だという。

そんなCMモデルから今度はドラマの華へ。ドラマデビューは94年の『お宅の夫はいかがですか』で、妻子ある男性を好きになる聡明でしっかり者の女性役だった。『アスファルトの男』では未婚の母の演技でSBS演技大賞で新人賞を受賞している。また初めて時代ものに挑戦したドラマでもKBSの演技大賞の人気賞を受賞した。その後も数多くのドラマに出演するが、日本のドラマ好きの中では衛星放送各社で放送された『ドクターズ』がおなじみだろう。クールで知的な女医役。しかし、あのころと比べると年を経るごとにどんどんかわいく若返っていっている様な気がする。これがすごい。

また二組の恋模様を描いたドラマ『ロマンス』(注:キム・ハヌル主演とは違う作品)では、なんと眼鏡をかけて、ギスギスのオールドミスっぽいお堅い出版社のデザイナー役を演じている。31歳にもなって嫁にいっていないと言うことで兄嫁に強引に見合いをさせられるという設定の役。ちょっと怒りっぽくて早口でキンキンとものを言うきつい感じだ。こんな感じで、それまではガードが堅いというか、わりと純情一筋のような優等生役が多かったが、99年に出演したドラマ『招待』が一つの演技転換となった。

実はこの役、イ・スンヨンがやることになっていたが、不法免許取得問題の余波で視聴者からクレームが付いて出演を辞退したためにイ・ヨンエに回ってきた役だった。このドラマでは純潔は結婚前まで守らなければならないと信じている保守的なキャリアウーマンが、自由奔放な恋愛観を持った婚約者のいる男性に迫られながら燃えるような恋に落ちてしまうという役を演じ、恋に揺れ動く微妙な感情の変化を熟した演技力で見せつけて注目を集めた。かつて無かった激情的な姿に「驚くべき演技変身」との賛辞を受けた。

この作品以降第2の全盛期に突入。2000年に入ってからはメロドラマ界の大御所シナリオライター、キム・スヒョンの『花火』で、財閥2世の婚約者(チャ・インピョ)がいながらも旅先のタイで出会った整形外科医師の男(イ・ギョンヨン)と激情的愛に陥るドラマ作家の役に挑戦。軽いウェーブがかったヘアスタイルにして、何と第1話からして激しいラブシーン、ベッドシーンを演じているのだ。まあ、激しいったってそこは韓国のテレビドラマだから描写はそこそこなのだけど、それでも「あのイ・ヨンエがここまでやるんだ」と結構びっくりしたものである。女の色香を漂わせたファム・ファタール。情念という言葉が似合うようになってきた。

そして映画『JSA』との出会い。97年に出た1作目の映画『インシャラ』が興行的にいまいちだったということがあって出演映画の選択に慎重になっていたということだが、この『JSA』がメガヒットを記録して、シム・ウナ、チョン・ドヨン、コ・ソヨンの若手女優3人衆の域に一気に食い込むようになった。

この『JSA』での役は共同警備区域で起こった殺人事件の真相を解明するためにスイスから派遣されたスイス系韓国人の女性少佐ソフィー。イ・ビョンホン、ソン・ガンホと共に紅一点で出ているが、クレジット上ではイ・ヨンエの名前がトップに出てくる重要な役どころだ。セリフの半分は英語になるために専門家から英語のレッスンを受けて臨んだだけあって発音もいいし、頑張っている。演技的にも青龍賞の優秀主演女優賞に選ばれた。

このクールな役から、『ラスト・プレゼント』ではイ・ジョンジェとの共演で、余命幾ばくもない柔らかなイメージの奥さまの役。髪型もフェミニンになってどちらかというとこの姿が、普段テレビのインタビューなどで見せる彼女の素顔に近いのでは無かろうか。

柔らかな外見からは想像がつかないが、意外にも実生活では僻地への旅が好きだという。映画『インシャラ』のロケやCF撮影、テレビ番組で行った、サハラ砂漠、ネバダ砂漠、インドのタール砂漠が特に印象深いという。涼しげなイメージのイ・ヨンエと灼熱の砂漠の取り合わせなんてとってもユニークだ。

その後、『春の日は過ぎゆく』でやわやわとしたなまめかしいほどの艶っぽさで、年下男を翻弄する離婚歴のある女性を演じたあとは2年ほど充電期間を持った。そしてドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』への出演。朝鮮時代、宮廷料理の料理人から国王の主治医に任命された実在の人物、チャングムに扮し、一本筋の通った意志の強い女性を、晴れ晴れとかわいらしく、それでいて凛として、人間として惚れずにいられない人物像に作り上げた。この作品は視聴率60%を越える人気を博し、イ・ヨンエ人気を国民スター級に押し上げた。