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イ・ジョンヒョン

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

『美しき日々』で、歌手になるために情熱を燃やす少女セナ役でおなじみのイ・ジョンヒョン。実際の彼女も歌手兼女優である。しかもセナのように強烈なインパクトを与えるステージパフォーマンスで歌謡界を席捲したテクノの女王なのだ。

1999年後半、「ワ(来て)」で歌手デビューするやいなや、その独特な風貌で一躍注目された。初めて彼女の歌う姿を見たときには何だこれはと思ったものだ。

着物のような衣装にでっかいかんざし、大きな扇子を広げ、まるで地を這うかのように腰をかがめて体をカクカク動かして踊る。おまけに小指の先に小型マイクをつけて左腕を口と平行に維持したまま歌うのだ。その一度見たら忘れられない振りが話題になり、他のタレント達もバラエティー番組などで盛んに真似をしては笑いをとっていた。

作り込まれた歌手という印象を受けたのだが、実はこの衣装や小道具、そして曲の最初に流れる伝統琴の音色もイ・ジョンヒョン自身のアイデアなのだとか。特に衣装は漢城産業大学でデザインを専攻しているというイ・ジョンヒョンの3番目のお姉さんとアイデアを出し合ってお姉さん自身が制作しているという。テクノといえば、サイバーファッションという固定観念の逆発想が成功したわけだが、イ・ジョンヒョンは自己プロデュース能力に長けていると感心させられる。

ちなみにカクカク踊り(私が勝手にそう呼んでいる)は中国の太極拳からアイデアを採り、衣装も香港映画の『チャイニーズ・ゴーストストーリー』のジョイ・ウォンが着ていたものをイメージしているということだ。

続く後続曲の「パックォ(変えて)」ではこんどはMVの中では妖艶な人魚の姿で悩ましげに踊り、スタジオではサイバーファッションに背中に大きな羽根をつけて魔界の天使のような格好で挑発的に踊る。おりしもちょうど選挙中だったものだからこの曲がちょうどいいイメージソングになり、各陣営がこの曲をかけながら選挙運動をしていた。

インタビューなどでおしゃべりしているときの彼女は甘ったるい声で美しくかわいらしいのに、いったん歌になると顔と動きが一変して怖いまでの気迫が感じられる。163センチに40キロそこそこというか弱い体であの大胆な踊り方はさぞかし疲れるだろうにと、秘かに心配でもある。

歌手デビューから遡ること4年の1996年には女優として将来を嘱望される存在でもあった。光州事件を描いた『つぼみ』で時代に翻弄され深い心の傷を負う少女を体当たりで演じ、青龍賞と大鐘賞で新人賞を獲得した。

この映画出演後からずっと歌手デビューしないかという話があったそうだが、大学に進学する予定もあり、また当時は俳優が歌手もやるというのは好まれない風潮だったとかで(今も少なからずそうらしい)、なかなか実現しなかった。

しかし元々イ・ジョンヒョンはマイケル・ジャクソンのファンから始まって、ソテジワアイドゥルにはまっていた時期があるなど、当初から歌手はやってみたかったことだったということでついに決心し、デビューに至った。

5人姉妹の末っ子で親の愛を一身に受けて育った。歌手にならなければ天文学者になっていたかもというほどの天文好き。全国中学生科学探究大会で「星に関する観察」で金賞を受賞したこともあるそうだ。だからデビュー曲「来て」のMVは宇宙がらみになったのか?今でも趣味は天体観測で、数年前に買った望遠鏡で時々夜空を見上げるのだとか。