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イ・ジョンジェ

※2004年7月発刊「韓国はドラマチック2」(東洋経済新報社)より

韓国スターは、どの作品から見るかでそのスターのファンになれるかどうかが変わってくる。
それほど作品によって違う姿を見せてくれるのだ。

イ・ジョンジェも、『純愛譜』を見るとただの危ないおたく青年だが、『黒水仙』を見れば「かっこいい人」に思えるはず。ましてや『イルマーレ』などでは、「雰囲気のある素敵な人」と目を留めるはずだ。

顔だけを見ればすごいハンサムというわけではないが、かもし出すムードが素敵な雰囲気ハンサムだ。

目尻の下がったチャーミングな顔が安心感を与える一方で危険な香りも醸し出す、韓国映画界きってのセクシーガイだ。といってもフェロモンバリバリというのではなく、上品なセクシーさ。しなやかなラブシーンのうまさは溜息もので、柔らかい男の色気を醸し出すのがうまく、メロドラマキングといってもいいほどラブストーリーへの出演が多い。

カクカク顔の多い韓国人男性の中にあってラインの柔らかな細面が韓国女性にアピールする。

野望系、はい上がり系が似合う男、貴公子とは対極にある魅力が、役者としては大きな強みだ。

人気、実力共に揃った映画スターとして、映画出演が引きもきらない。はったりが効いて、女好きそうで、ユーモアもある。韓国で『ルパン三世』を映画化したらルパンはこの人がぴったりではないかと秘かに思っている。

1993年のSBS特別採用で芸能界入り。その年の青少年向けドラマ『恐竜先生』でデビュー。94年には映画『若い男』でスターを夢見る若者を鮮烈に演じて注目を浴びその年の新人男優賞を総なめにする。

そして、イ・ジョンジェの名を一層世に広めたのが、95年、今でも韓国人の心のベストワンになっている大ヒットドラマ『砂時計』だ。この中でイ・ジョンジェはヒロインを愛しながらもいつも静かに見守り続けるボディーガードを演じ、韓国中の女性が「どうして私の彼はあんな風じゃないのかしら」とため息をつくほどイ・ジョンジェに恋をしたという。

黒のスーツをぴしっと着こなし、髪をオールバックにしてすくっと立つ姿はもうそれだけで美しかった。そう、この人はモデル出身だけに何気なく立った姿もさまになるのだ。そんな彼がヒロインを守るためにボコボコに殴られて死んでいく。この日、テレビの前で泣かなかった韓国女性はいなかったと言われている。これで彼は「永遠のボディガード」の称号を手にし、人気絶頂期に軍に入隊するのだった。

これからというときにもったいないと思わなかったのかと尋ねたことがあるが、本人としては「ずっと長い撮影が続いていたから休みが欲しかったし、どの道行かなきゃいけなかったものだから僕にとってはすごくいい休みのような感じになったんですよ」ということだった。

軍隊でも、チャ・インピョらと共に軍の広報映画『アルバトロス』にも出演している。除隊後初のドラマは『かたつむり』。これは『砂時計』で一世を風靡した脚本家ソン・チナの作で韓国のフォレストガンプと呼ばれる役柄を演じてそれまでのタフガイイメージを払拭して視聴者の注目を集める。

映画では『火の鳥』で野望に燃える青年を、そして『パク対パク』ではちょっぴりいいかげんな弁護士を好演するが、ヒットに結びつかなかった。私としては、『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンにも似た危険なイメージでセクシーさ全開の『火の鳥』も、甘え上手でお調子者の『パク対パク』も結構気に入っているのだが…。

そんな彼が98年の『情事affair』で初めて興行俳優の称号を得た。実はこの前に、ハン・ソッキュ主演で大ヒットした『接続』の主役は最初イ・ジョンジェにオファーがあったのだ。しかし製作陣からの2か月に渡る説得にも関わらず「ドラマティックでないメロドラマだから」という理由で出演を拒否したという経緯があった。そして出演したのが『情事』だったわけだ。確かにこれは同じメロドラマでも十分ドラマティックだ。何せ、夫も子供もいるフィアンセのお姉さんと激しい恋に落ちるのだから。

禁じられた愛におぼれていく男女の葛藤が、繊細に、濃厚に、香り高く描かれ、イ・ジョンジェは、内に熱情を秘めた青年を雰囲気たっぷりに演じている。

それにしてもイ・ジョンジェのラブシーンの上手さといったらない。特に相手が年上だとよけいにいい。あの絡み付くような、すがるようなまなざしが母性本能を刺激する。ムード作りが上手いのだ。その秘訣について聞くと、「人に触れたり、掴んだり、その人を見つめたりするときの間合い、そういったリズムをすごく大事にしています」と秘訣を語ってくれた。

女優との絡みの多かったイ・ジョンジェだが、続く99年の『太陽はない』では青春スターのチョン・ウソンと共演で、3億のビルを持つという途方もない夢を抱きながら詐欺を働くチンピラになる。こういうはったりの効く与太者もよく似合う。この映画で99年の青龍賞で最優秀主演男優賞を授賞した。

99年はハン・ソッキュや『シュリ』のチェ・ミンシク、チェ・ミンス、パク・チュンフンなどそうそうたるメンバーがノミネートされていただけに本人も自分がもらうことは全く予想していなかったようで、授賞には驚きを隠せなかったようだ。実は99年はもう1本100年前の済州島の乱を率いた英雄を描く時代劇『イ・ジェスの乱』で主役を演じたが、ヒットせずプライドが傷つけられていただけに、この日の授賞は嬉しかったに違いない。

シム・ウナと共演の『Interview』では250人もの人に愛についてインタビューをする映画監督になる。フランスで暮らす姿があまりにも自然で、似合っていた。実はイ・ジョンジェはムキムキすぎず、適度に鍛えられたとても美しい胸板をしていることで有名。だからか、彼の作品では必ずといっていいほど裸を見せるシーンが出てくるのがお約束となっているのだが、ここでも見事な後姿が登場してくる。

01年の『ラスト・プレゼント』は売れないお笑いタレントと不治の病の妻との夫婦愛の物語。イ・ジョンジェは人間味に富んだ役どころで、表情豊かにパントマイムやら漫才やら、声帯模写やら様々な芸を披露するが、人を笑わせているのに心では泣いているという演技には泣かされた。

『黒水仙』での刑事役は、それまで韓国に無かったスタイリッシュな刑事像を作り出すことに成功した。デビュー作『若い男』とこの『黒水仙』とで一緒に仕事をしたペ・チャンホ監督に言わせれば、イ・ジョンジェは後姿も絵になる男だと絶賛していた。

 

 イ・ジョンジェ体面記

2000年の10月、『純愛譜』の撮影中にちょっとしたインタビューをした。

『純愛譜』の中では平凡な公務員で、おたくな男の役ということで、髪型も前髪を揃えてちょっと変な感じを醸しだし、目つきもどこか宙をさまよっているようで、役に入り込んでいた。だからいつものように「きゃー素敵!」という感じではなかったのだが(笑)、こんな風に全く違う人になり切れてしまうのがイ・ジョンジェの俳優としてのすごいところだなあと実感。

「今までやってきた役とは随分違うので、観客の方も、すごく繊細な人でないと演技の面白さがわかってもらえないかもしれない」と語り、まもなく終わってしまう撮影を名残惜しそうに振り返っていた。

「『純愛譜』はすごく楽しく撮影が出来たんです。だからこういう楽しい作品の時は、ああ、こういうのが2時間の短編じゃなくて50話連続の連続ドラマだったらいいのになと思います」というほど本人はお気に入りの作品だったようだ。

その後プライベートでは大学路の「イルマーレ」というイタリアンレストランのオーナーになり、インテリアを自分で担当している。飾っている写真も一点一点自分で選び、かかる音楽の選曲も自分でやっているというほど思い入れのあるお店となっている。

そして2004年になって、『純愛譜』で共演したこともあるキム・ミニとの熱愛が発覚。キム・ミニは9歳年下で、CF界の妖精と呼ばれる女性。映画共演以降、何度かのCF共演がきっかけで恋人へと進展したという。おしゃれなカップルだ。