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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑳韓国男性は総じてマザコン

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

韓国男性はほぼ例外なくマザコンだという。マザコンの真偽は別としても、母を思う気持ちを前面に出すのは決してはばかられることではないというのが韓国だ。

一例を挙げると、Kポップでは母親を題材にした曲が結構ある。日本でも、「母さんの歌」や、森進一の「おふくろさん」、森昌子の「おかあさん」という曲があったが、バリバリの若手の男性アイドル歌手では、思ってはいても、気恥ずかしくて、とてもじゃないけどあからさまに母への気持ちを歌ったりはしない。

だが、韓国ではそれを堂々とやってのける。1998年にデビューした男性5人組のグループ g.o.dのデビュー曲がまさに「お母さまへ」だった。

女手ひとつで自分を育ててくれた母親への思いを綴った歌で、苦労のしどうしで、やっと小さいながらも食堂を持つことができたその祝いの晩に亡くなってしまった母親へ、「僕はあなたを愛していたよ、一度もいえなかったけれど。愛しているよ、今はもう安らかに眠って。僕のいない世界で永遠に……」と、今風の格好をした5人の男の子がラップ調で淡々と歌う。これが大ヒットになり、韓国中にお母さんブームが巻き起こった。

同じく男性5人組で、日本でいうとSMAPのようなスーパーアイドルグループ、H.O.T(現在は解散)も、「マイマザー」という歌を歌っている。

「もうこれ以上あなたを悲しませたりはしない。愛しているよあなたを、この世の果てまで……」と、まるで恋人に向けていっているかのような言葉を母親に投げかけている。

H.O.Tといえば、韓国ではカリスマアイドルで、ヘアスタイルもファッションもクールに決めている。その彼らがこう歌っても、誰も「気持ちちわるー」とかいったりしない。「母親思いのいい青年たちね」となるのである。

韓国の教育バラエティ番組で、母親が、受験勉強で忙しい高校生の息子のために一足早く学校に行って豪華な朝ご飯を作って子供をびっくりさせるという企画のひとコマを見たことがある。

学校にやってきた息子は、母親が自分のために早起きして一生懸命にご飯を作ってくれたのを見て感激し、「お母さん、愛してるよ」とお礼をいっていた。日本だとせいぜい「お母さんありがとう」だろう。やっぱり韓国人の母への思いは並々ならぬものがある。

2002年のワールドカップで韓国代表で活躍したチャ・ドゥリ選手は、所属のドイツリーグから帰国した際に、迎えに来ていた母親の肩を抱いて恋人同士のように歩いていた。それがテレビカメラに写されていてもうれしそうな顔で堂々としている。やっぱりこれが韓国なんだなあとしみじみ思った瞬間だった。

ドラマを見ていても、影を背負った男性の、そうなった理由のほとんどは母親が原因という設定になっている。

『日差しに向かって』に出てくる大企業のひとり息子は、父親が自分の母親を捨ててほかの女と結婚したことからグレて、自堕落な生活を送っている。

『秋の童話』のウォンビンが演じたテソクもそうだ。ホテル経営をしている父親と母親が離婚したことが、物事をシニカルに見る、プレイボーイの素地を作ったという設定になっていた。

古くは、歴史上の人物で、暴君として名をとどろかせた李朝10代君主の燕山君(在位1496~1506年)を描いた一連の映画も、実の母親が謀略の果てに毒殺されたと知り、常軌を逸した行動に出るようになる様が描かれる。

『燕山君』(61年)では、成人してから実の母の存在を知り、その名誉回復を願うが、重臣たちに反対され、「お前たちに母はいないのか」と叫び、酒や女におぼれていく。そして母の死の裏には陰謀があったという事実を知るや烈火のごとく怒り、陰謀にかかわった人々を処刑し、手のつけられない暴君と化し、家臣、民衆に圧制を強いていくのである。

母親に似ているから好きになるというセリフもよく出てくる。

『ジュリエットの男』は、大物相場師の孫チャン・ギプン(チャ・テヒョン扮)と、父親の自殺で急遽デパートを継ぐことになった女性ソン・チェリン(イェ・ジウォン扮)の恋の行方と企業乗っ取りを絡めたドラマ。

ここでギプンは海外放浪からの帰国の飛行機の中で、チェリンを見かけ、自分の母親に似ているという理由で一目ぼれする。以降は軽口を叩きながらもチェリンのためにデパートを守るべく、ボディーガードのごとく必死で立ち振る舞うのである。

『私たちは本当に愛したのか』でも、野望ギラギラ男のカン・ジェホ(ペ・ヨンジュン扮)は年上の大学講師のシニョン(キム・ヘス扮)に母の面影を見出し、惹かれていく。

つまり韓国では、男性がグレる理由も、人を好きになる理由も、母親を理由にしておけばみんな納得するということなのだろう。

 

参照作品

『日差しに向かって』
1999年 MBC
PD=パク・ソンス 出演=チャ・テヒョン、キム・ヒョンジュ、チャン・ヒョク、キム・ハヌル
ままならない青春時代に出会った4人の男女。父親に反発し、自堕落に生きてきた男が、貧しいながらも正直に懸命に生きている女性に出会って成長していく。チャ・テヒョンがシリアスな役に挑戦し、チャン・ヒョクは、無口だが、心優しい反抗児を演じてそれぞれ魅力的。

『燕山君』
1961年作品
監督=シン・サンオク 脚本=イム・ヒジェ 出演=シン・ヨンギュン、ト・グンボン、キム・ヒガプ
李朝10代君主で、暴君として知られる燕山君が、実の母が周囲の陰謀によって毒殺されたという死の真相を知ることで怒り狂い、圧制を敷いていくようになる様を描いた歴史ドラマ。

『ジュリエットの男』
2000年 SBS
PD=オ・ジョンロク 脚本=パク・ケオク 出演=チャ・テヒョン、イェ・ジウォン、チ・ジニ、キム・ミニ
父親の自殺で大手百貨店の跡を継ぐことになった娘チェリンと、彼女を守ることになる大物相場氏の孫チャン・ギプンが、乗っ取りをたくらむ輩を相手に戦う企業ラブストーリー。そこに敵方の息子でチェリンの恋人だった男も絡んで切ない三角関係が展開される。はったりが利いて、コミカルで、でも本音はとても真剣というチャ・テヒョンの魅力がパワフルに炸裂している。