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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑰不倫ドラマも時代とともに様変わり

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

儒教社会はいかにも倫理観を大切にしそうだが、やっぱりそこは人間、だめとわかっていても、自分の配偶者以外に心惹かれてしまうこともある。

というわけで、韓国ドラマでも不倫を描いた話は数知れずだが、その描き方は時代と共に変わってきている。

1996年に放送された『愛人』(注:日本語のニュアンスと違って韓国語では”恋人“の意味)は、イベント企画会社に勤める働く主婦と造園設計師との恋。女性のほうは、仕事の忙しさで家庭を顧みない夫にさびしさを募らせている。男のほうは、家庭的な妻と子供に恵まれているというダブル不倫だった。

お互いに「なんだもう結婚しているのか」と思いつつ、何度も会っているうちに恋に落ちていく。ふたりは逢瀬を重ねて一緒になろうとまで思いが高まるが、道徳意識が働いて一線は越えられない。

そして男のほうは,妻が入院したという知らせを聞いて、離婚の決心が揺らぎ、再び家庭に戻る。女のほうも、仕事で失敗した夫を支えていく決意をしてふたりは元の家庭に納まるのだった。

このドラマは”愛人シンドローム“を起こし、自分の欲望を抑えていた多くの既婚男性と人妻の心をときめかしたといわれた。

放送委員会主催で開かれた「ドラマの素材及び社会的影響に関する討論会」なるものの俎上にも上がり、「今までのドラマが主に夫が浮気して妻は夫の浮気によって苦痛を受けるという一方的な形だったのに、『愛人』では男女の感情を同等に表現して韓国の夫らが妻の感情を考えてみるきっかけを作った」と評価される一方で、ドラマの中でふたりの恋を美しく切なく描いたために、「家族が一緒に見るテレビで、妻帯者と人妻の不倫を正当化するような態度で扱ったのは思慮深くない行動だ」「不倫を美化している」との非難の声も相次いだ。

ラブシーンといっても、キスシーンぐらいしかなかったにもかかわらず、国会においてまで「韓国の性意識を完全にひっくり返す汚染物質のようなドラマだ」と取り上げられるなど、あちこちで論議の対象となった。

そして2001年には、46歳の妻帯者と23歳の女性との年齢差のある不倫を描いたドラマ『青い霧』が話題になった。

46歳のユン・ソンジェ(イ・ギョンヨン扮)は、結婚15年目。見合いで結婚した妻の実家の大企業で社長(本人は雇われ社長と卑下している)を務めている。婿として肩身が狭い上に、仕事での疲労にストレスが重なって、早くも五十肩になり、スポーツジムに行くようになるが、そこで出会ったのが、23歳のダンス講師シンウ(イ・ヨンウォン扮)だった。

シンウは早くに父を亡くし、再婚した母に反発しているファザコン気味の女性。心に空虚なものを抱えた者同士が出会って惹かれあっていく。

最初は年齢差を考えて自分を抑えているソンジェだったが、シンウの怖いもの知らずの積極的な愛情表現に引き込まれていく。そしてその愛を通して、自分が今までいかにお仕着せの人生を生きてきてしまったかに気がつき、「幸せか不幸か意識すらせず生きてきたが、手遅れじゃないなら自分の力だけで生きて行きたい」と告白し、妻キョンジュ(キム・ミスク扮)との離婚を決意するのだった。

一方シンウは、ソンジェの子供からお父さんを奪わないでと哀願され、その姿にかつての自分の姿を重ねて、苦しみながらもソンジェとの恋をあきらめようとする。

そしてソンジェのほうも、まだ年若いシンウのためにも別れなければならないと決意するのだった。「今はつらいだろうが、お前は俺を忘れるはずだ。20年後、いや10年後、道ですれ違ってもお前は俺に気づかないだろう。そうなれる。必ずそうなれるよ」と言う言葉を残して。

結局ソンジェはひとりの女性を愛して、地位も名誉も家庭も捨て、最後にはその愛にも終止符を打った。

このドラマでは結局、元の夫婦は離婚して、男は不倫相手の若い女性と別れた後も家庭に戻ることはなかったという終わり方だった。

このドラマでも軽いキスシーンが1回出てくるだけのプラトニックラブだったが、ドラマの序盤には、援助交際と不倫を助長するとの非難の声が上がった。

しかし同時に、純粋な愛だとの反論も上がり、活発な論争を繰り広げた。それだけさまざまなことを考えさせるドラマだったといえる。

40代の男性の愛を描いているということで、普段はドラマは見ないような40代、50代の既婚男性視聴者が共感を持って見ていたということでも話題になった。

2002年の『危機の男』になると、同じく不倫を素材にしていても描き方がもっとリアルになってくる。

結婚10年目の夫婦ドンジュ(キム・ヨンチョル扮)とクミ(ファン・シネ扮)。ドンジュは会社での人間関係に疲れ、辞職して田舎に引きこもって農業をやるという夢を実行に移してしまう。

夫のいきなりの行動に戸惑うクミ。そんな夫婦の間に亀裂が見え始めた頃、ドンジュのかつての恋人で画家のヨンジ(ペ・ジョンオク扮)が海外生活から帰国しドンジュの前に現れる。家の反対で泣く泣く別れたふたりなだけに、再会に心が揺れ、ついに不倫関係に走ってしまう。

一方のクミは夫が会社を辞めたため、仕事を始めなければと、大学で専攻していたイラストの腕を生かして出版社に就職していたが、夫の浮気に心を痛めているところに、出版社の社長で婿養子のカン・ジュナ(シン・ソンウ扮)の存在が入り込んでくる。

ドラマの始めは、夫のドンジュのほうが妻を裏切って不倫をする。今までは不倫ドラマといっても、精神的な不倫が主で、あまりあからさまな場面は出てこなかった。それでも十分に相手への思い、切なさは伝わってきたので、直接的なラブシーンのあるなしはあまり関係ないのだなと感じていたが、やはりあまりにもそうした描写が出てこないのは最近の実情を鑑みたときに現実離れしているのではないかとの議論も出てくるようになった。

そのせいか、この『危機の男』では、ドンジュとヨンジのふたりがベッドで片肌脱いだ姿が映し出され、そこにクミが乗り込んでいき、掛け布団を引っぺがそうとするシーンが出てきた。日本のドラマでは普通でも、韓国ドラマではかなり画期的な露出度の高いシーンだった。

ドラマの後半になると、今度は妻のクミがカン社長と惹かれあうようになり、このあたりから視聴率もググッと上がり始めていった。そしてこちらのふたりもとうとう一線を越えてしまう。

しかしこの恋はカン社長の妻の知れるところとなり、カン社長は離婚したくても離婚できない状況に追い込まれ、結局恋は成就しなかった。最後は、離婚したドンジュとヨンジが結婚して子供を設け、クミは童話作家として人気を得、3人の子供を引き取って生きていくのだった。

このドラマの夫婦は、双方の肉体関係を伴った不倫後に離婚し、新しい恋に生きるというスタイルをとった。これは脚本家のイ・ソンミさんのインタビューでも出てくるように、女性団体からは「どうしてドンジュのほうだけうまく行ってクミの不倫の恋は結ばれないのか」と非難されたそうだ。

また2002年の初夏に、『止まらない愛』というやはり不倫を素材にしたドラマがあったが、これも31歳の独身女性と35歳の妻帯者はずーっとプラトニックラブを貫いて、結局、夫婦のほうが離婚し、不倫の恋が実るという結末だった。

1996年の『愛人』が汚染物質とまでいわれて家庭回帰で終わったのに比べると、不倫の描き方、結末のつけ方、視聴者の見方もこの6年ほどの間に大きく変わってきたことをうかがわせる。

韓国の結婚しているカップルのうちの離婚の割合が、1990年には9組に1組だったのに、2001年には3組に1組に増えている。これはOECD加盟国中、アメリカ、イギリスに次いで3番目に高い数字だそうだ。また2002年はさらに1万300件増え、1日に398組が離婚しているという、統計庁が調査を発表し始めて以降過去最高を記録した。

現実がこうだから、ドラマの中でも、家庭に戻るより、離婚するほうが現実的な選択として受け入れられてきているのだろう。

 

参照作品

『愛人』
1996年 MBC
PD=イ・チャンスン 脚本=チェ・ヨンジ 出演=ファン・シネ、ユ・ドングン
それぞれ家庭を持つ30代の男女が陥った恋。美しいプラトニック不倫を描いて大ブームを巻き起こした。当時韓国ナンバー1美女といわれたファン・シネの美しさが際立つ。