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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑭何はなくともまずキムチ

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

韓国といえばキムチ。何はなくともまずキムチというわけで、ドラマを見ていても食べるシーンでは必ずキムチが出てくる。キムチが話題のメインに取り上げられることも多い。

『止まらない愛』は、こういう表現もおかしいが、ピュアな不倫もの。

テキスタイルデザイナーの女性キョンジュ(オ・ヨンス扮)が取引先の妻子持ちの男性ハン社長(チェ・ミンギュ扮)に恋をして切ない思いを抱えているのだが、1日だけでも一緒にいられたら悔いはないという覚悟で一晩を過ごすシーンがある。

男は雨に打たれて寝込んでいるのでふたりの間には何もないままだが、キョンジュが目覚めたハン社長にふと聞くのがキムチのことだ。

キョンジュ「キムチは浅漬けと深漬けとどっちが好き?」

ハン社長「ラーメンには深漬けで、カルグックス(うどん)には浅漬け。ご飯にはきゅうりキムチで玄米には大根キムチ。欠かせないのは水キムチで、一番好きなのはよく漬かったキムチ。冷凍庫で保存して真夏に食べる。こんな雨の日のチゲは格別だよ」

キョンジュ「そこまでうるさい人とは……。そんな人とは一緒に暮らせない。……私たちキムチを漬けながらやっていけるかな?」

今後、共に暮らせるようになるのかどうかをほのめかすという場面だった。

『I LOVE ヒョンジョン』でも、おてんば娘のヒョンジョン(キム・ミンソン扮)と財閥3世のボムス(カム・ウソン扮)が意気投合している場面でもやはり、「キムチはよく漬かったのと漬けたばかりとどっちが好き?」という会話があった。これにはボムスが「よく漬かったほうですよ」と答えると、ヒョンジョンも「私もそう! すごく合いますね」となってますます盛り上がるのだ。

また、中国を舞台にした映画、時代ロマンの『MUSA―武士―』では、スタッフ、キャストとも中国の砂漠で長期間のロケをしたが、クライマックスとなる土の城での撮影のとき、キムチ恋しさに、アン・ソンギを中心にした韓国キャストで”キムチソング“を作って披露し、みんなで合唱して大爆笑だったという楽しいエピソードを主演のチョン・ウソンが語っていた。「もしもキムチがなかったら、何を楽しみにご飯を食べよう……」という内容だったそうだ。

このように、韓国の人のキムチに対する愛は並々ならぬものがある。なにせ韓国人は3歳ごろからキムチを食べ始めるそうで、それ以来ずーっと食卓にあるのがキムチなのだ。

韓国人にとってのキムチに匹敵する食べ物は日本にはちょっと見当たらない。

映画『春の日は過ぎゆく』では、恋人同士の心のすれ違いを映し出す小道具としてキムチがうまく使われていた。

ラジオ局のプロデューサー兼アナウンサーをしているハン・ウンス(イ・ヨンエ扮)はバツイチの女性。一緒に仕事をするようになった音声エンジニアで、年下のイ・サンウ(ユ・ジテ扮)と付き合い始め、甘い時間を過ごすようになる。

どちらかというと女のほうが積極的で、「死んだらあんなふうに同じお墓に入ろう」などといったりするほどだったのが、男のサンウから結婚を意識するような発言が出始めると、一度失敗経験があるせいか、女は急速に引いていく。そのきっかけのようなシーンにキムチが出てくるのだ。

――ある日ウンスの部屋で食事をしているふたり。ウンスは、サンウが家から持参してきたキムチをほおばる。

ウンス「キムチおいしいわ、誰が漬けたの?」

サンウ「うちの父」(注:サンウの家は父と息子のふたり暮らし)

ウンス「本当!」

サンウ「キムチ漬けられる?」

ウンス「もちろん。そう見えない?」

と返事をするのだが、次にサンウが

「恋人を紹介しろって、父が」

と続けると、とたんに押し黙り、

「私、キムチ漬けられない」

ときっぱりいうのだ。そういわれても彼女のことが大好きなサンウは、

「僕が漬けるよ。僕が漬けるから」

とぽそっとつぶやく。――

なんとも切ないシーンだが、このあたりからウンスはサンウと距離を持とうとするようになる。

この映画では、キムチに限らず、ウンスは最初こそラーメンを作ってやるが、後はもっぱら男のサンウが食事を作ってやっていた。男性が台所に立つのは韓国でも自然なことになりつつあるのだ。

キムチはそれぞれの家にはそれぞれの味があって代々伝えられるといわれているが、最近はそうでもない。

『あなたそして私』は、裕福な家の一人娘として大切に育てられたスギョン(チェ・ジンシル扮)という現代的な女性が、会社の同僚のドンギュ(パク・サンウォン扮)と結婚するが、ドンギュの家は貧乏で、知り合いのおばさんの家で間借りしながら夫の父や兄弟たちと大家族生活を送ることになってしまうホームドラマ。

その中で、食事の用意をしているスギョンが夫のドンギュに「キムチ買ってきて」というシーンがある。こう言われたドンギュは、「キムチを買ってくるのか? キムチは漬けて食べなきゃ」と至極当然のように言い返すのである。

ドンギュの家は封建的で、いつも妹が食事の支度をして当然キムチも手作りだった。でもスギョンは学生時代も勉強ばかり、社会人になってからは広告会社で有能な社員としてがんばっていたせいで、家庭的なことは一切だめなのだ。

そこで、「私一度もキムチ漬けたことないの。できない」と困るのである。

こうしたドラマのシーンを反映する数字がある。2002年11月28日付の『中央日報』に、キムチを漬けない家庭が急速に増えているという記事が紹介されていた。

20代から50代の主婦450人を対象にアンケート調査した結果、キムチを直接漬けて食べる割合が2001年の72%から55.7%に激減した一方で、買って食べると言う割合は10・5%から22.0%に上昇し、実家などからキムチをもらって食べると言う割合も17・5%から22・3%に増えたという。特に20代、30代でキムチを漬けるという割合は20%から40%近くも激減しているそうだ。

このまま行けば、韓国もだんだん家庭のキムチの味が廃れていくのかもしれない。

 

参照作品

『I LOVE ヒョンジョン』
2002年 MBC
PD アン・バンソク 脚本 チョン・ユギョン
出演 カム・ウソン、キム・ミンソン
財閥3世のボムスとバリバリの下町っ子ヒョンジョンのかわいいラブストーリー。恋する二人のラブラブぶりには思わず頬が緩む。しかし、財閥の親族相続への疑問を投げかけたり、安易にもとの地位に戻ったりせず二人で身の丈にあった生活を続けていこうとする姿勢には作り手の社会的メッセージが感じられる。

『春の日は過ぎゆく』
2001年作品
監督=ホ・ジノ 脚本=リュウ・チャンハ、イ・スギョン、シン・ジュノ、ホ・ジノ
出演=ユ・ジテ、イ・ヨンエ
音声エンジニアをしているサンウは、ラジオ局のアナウンサーでプロデューサーをしている女性と出会い恋に落ちる。甘く幸せな時間はつかの間で、結婚を考えるサンウに対して、女性は去っていこうとする。ひとりの青年が体験する愛と別れを季節の移ろいと共に細やかに描き出した情感たっぷりの作品。

『MUSA―武士―』
2001年
監督・脚本=キム・ソンス 出演=チョン・ウソン、チャン・ツィーイー、アン・ソンギ、チュ・ジンモ
1375年、中国・明に派遣された高麗の密使一行。スパイ容疑をかけられ追われる身となった9人の武士たちは蒙古軍にとらえられていた明の芙蓉姫を助けながら中国大陸を横断する旅に出た。チョン・ウソン、チャン・チィーイーという韓国・中国を代表する若手スター共演のスペクタクルロマン。