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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑧韓国では年齢のサバが読めない

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

前項でもしばしば会話の中に出てくるように、年齢にこだわる韓国人にとって、たとえ相手がサバ読もうとも、本当の年齢を確かめるときに有用なのが「住民登録証」だ。

これは満17歳、韓国式に数え年でいえば18歳になったら、申請して発給してもらうもので、韓国に住む人は必ず持たなければならない身分証明証である。

以前は紙製だったらしいが、現在はプラスチックカードになっていて、表には写真、名前、住所と出生時に付与される住民登録番号が記載され、裏には右手の親指の指紋が押捺されている。住民登録番号には生年月日から性別、出生地などの情報が入れ込まれているため、このカード1枚でその持ち主のほとんどの情報がわかってしまうという代物なのである。

『猟奇的な彼女』では、大学生のキョヌと“彼女”のカップルが、付き合いだして100日目の記念日に、高校の制服を着てナイトクラブに行く場面があるが、そのとき入り口でお店の人に向かって差し出しているのがこの住民登録証だ(注:住民登録証の部分だけは映画の最後に出てくる)。

この住民登録証を持っているということは、韓国式の数え年では18歳以上だということになる。それでふたりは、高校生の格好をしているけれど、もう大人なんだよということを示すために、「どうだ」とばかりに見せているわけだ。

『エンジェル・スノー』は、子供がほしくてたまらない夫婦にやっとできた赤ちゃんが、難病のために、生まれても長くは生きられないと宣告されてしまう。胎児の段階で難病が判明するため、苦悩しながらも堕胎すべきだという夫の意見に、どうしても生みたいと主張する妻。

そんな夫婦の葛藤の末に生む決意をするのだが、祈るような気持ちで出産を待っていた父親のソギュン(イ・ソンジェ扮)は、ようやく生まれた赤ちゃんの顔を見てハッと思い立って役所に駆け込んである紙をもらってくる。

これはおそらく出生証明書か戸籍だと思われるが、ソギュンはそれを妻(コ・ソヨン扮)に見せて、「見てくれ、ぼくらの名前の下、イ・ユンジンって書いてある。住民登録番号もある」という。

たった数時間の命だが、ふたりの赤ちゃんがこの世に確かに存在したという証を残すために、走って走って住民登録番号をもらってきた父親の気持ちを考えると思わず涙が出てくる場面だった。

ところで、韓国ではこの住民登録証がないと運転免許証やパスポートも発給されない。韓国のインターネットサイトを見るとき会員登録をする場合にも、ほとんどの場合住民登録番号を記入しなければならなくなっている。

日本では住民基本台帳ネットワークが、個人情報の漏洩と、国民総背番号制につながるのではないかと不安視されているが、韓国ではパク・チョンヒ政権下の1960年代から、「スパイなど北朝鮮からの不穏分子に対抗するため」ということなどを名分に、国民監視体制を一層強化する目的で身分証の発給が義務付けられた。

それが今も続いているわけだが、この住民登録証の発給申請書を作るときに、申請書の裏面に10本の指の指紋を押捺するそうだ。そして先にも書いたように、登録証の裏にも右の親指の指紋を押捺する。1年以上滞在する外国人も外国人登録をしなくてはならないので、韓国に住んでいる日本人もこの指紋押捺は経験する。

日本では、1980年代に在日外国人に義務付けていた指紋押捺に対して、ひとりの在日韓国人が指紋押捺を拒否したのをきっかけに、外国人に対する人権侵害であるという運動が活発になり、外国人登録法の度重なる改訂を経て、2000年までに指紋押捺が全廃されたという経緯がある。

ところが韓国では、なんと成人はみんな指紋押捺をしていたのだ。しかも10本とも。在日韓国人が日本であれほど問題視した指紋押捺なのに、本国韓国のこの現状はいいのか?という疑問がわくところだ。

日本では、日本に永住している韓国人をはじめとした外国人だけが指紋押捺を義務付けられていたから、あたかも外国人は犯罪者だといわんばかりで問題になったのだろうか?

韓国でも『住民登録証を引き裂け』(イ・マリオ監督)というドキュメンタリー映画が作られているように、やはり国が個人情報を管理するのはおかしいという声をあげて指紋押捺を拒否している人たちもいるが、その数は決して多いとはいえない。

私の知り合いの韓国人は、「えっ日本には住民登録番号ってないの? 身分を証明するとき困るじゃない」と真剣に驚いていたぐらいだ。

この反応に代表されるように、多くの韓国の人たちはこのことをそれほど問題と思っていないようだ。

 

参照作品

『エンジェル・スノー』
2001年作品
監督=ハン・ジスン 脚本=シム・ヘウォン、パク・ミヨン 出演=コ・ソヨン、イ・ソンジェ、ユン・ソジョン
結婚6年目になるカップルのソギュンとジヌォンの悩みは子供ができないこと。何度目かの人工授精でやっと妊娠したジヌォンだったが、子供は難病にかかっており、長く生きられない命だとわかる。苦悩し、葛藤する夫婦の姿を通して愛と優しさが描かれる催涙性作品。

『住民登録証を引き裂け』
2001年作品
監督=イ・マリオ
住民登録証制度に疑問を投げかけるドキュメンタリー作品。