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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

⑤「オッパ」と「アジョシ」の関係は……?

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

韓国では対人関係を示す言葉に特徴がある。この呼び方次第で相手との関係性が透けて見えるのだ。

その中でも一番よく耳にするのが「オッパ(=おにいさん)」だろう。韓国では妹が兄を呼ぶ場合の呼称が「オッパ」だ。と同時に、血のつながりはなくても親しみを感じる男性のことも「オッパ」と呼ぶ。

だからドラマの第一話などで、まだ人間関係がよくわからないときには、その「オッパ」の意味が、本当の兄妹なのか恋人なのか、単に親しい間柄を示しているのかがとてもわかりにくい。

翻訳者泣かせの単語だろう。でもこの「オッパ」、呼ばれたほうはたいそううれしいものらしい。このうれしさを表すシーンがいくつかのドラマで見られる。

『トマト』という、靴のデザイナーを目指してがんばる女性と弁護士の恋物語のなかで、ヒロインの友人で歌手を夢見る女の子が金をだまし取られて、顔見知りの男性に慰められる場面で、次の会話が交わされる。

女「悪党を捕まえなきゃ、おじさん居場所知ってるでしょ」

男「先生じゃなくておじさんかよ」

女「ひっぱたいたりしたのに今さら先生なんて呼べないわ。おじさんが嫌ならオッパと呼びます」

男「オッパ?(ちょっとうれしそうに)呼んでみな」

女「オッパー」

男「おお、妹が呼ぶのと感じが違うな。よし、もう一回呼んでみろ」

女「オッパ」

男「おお刺激的な感じだ、もう一回」

女「オッパ」

男「おお、いい感じだ」

このふたりはドラマの中でもコメディーリリーフ的な存在なので、少々大げさでコミカルなセリフになっているが、「オッパ」と呼ばれることがどれだけうれしいものかが伝わってくる。

『秋の童話』でも、ウォンビン演じるテソクが、恋しているウンソ(ソン・ヘギョ扮)から「テソクオッパ」と呼ばれて、「オッパ? オッパか……」とにやついて、ものすごくうれしそうな顔を見せる場面があった。

しかしその後、自分を裏切ってジュンソ(ソン・スンホン扮)と逃げたウンソから「オッパ」と呼ばれたときには、「オッパ? 親しげに呼ぶな」と怒っていうことになる。

ある知り合いの映画スタッフが映画の撮影中、主演女優からずっとアジョシ(=おじさん)といわれていたのに、あるときその女優さんが「オッパ」と呼んだことがあったという。そうしたら周りのスタッフから「アジョシでいいんだアジョシで。オッパなんて呼んだらこいつ、君の家の前で待ち伏せしちゃうよ」とからかわれたそうだ。「オッパ」と「アジョシ」の間にはそのくらいの差違があるのだ。

「アジョシ」は、先にも書いたとおり、訳すと「おじさん」だが、特に親しくない男性に対する一般呼称として受けとめられている。

『八月のクリスマス』では、交通取り締まり員のタリム(シム・ウナ扮)が、仕事で必要な写真の焼付けを頼む写真館の青年ジョンウォン(ハン・ソッキュ扮)に対して「アジョシ」と呼ぶ。こんな感じで、店の人とお客の関係ではよく使われる呼び方だ。

『明朗少女成功記』では、20歳のヤンスン(チャン・ナラ扮)は29歳のギテ(チャン・ヒョク扮)のことをアジョシと呼んでいる。一方で、同じ29歳のソック(ユン・テヨン扮)のことは「オッパ」と呼んで区別している。

これは年齢が問題というよりは関係性が大きくかかわっている。ヤンスンにとってギテは第一印象が悪く、お手伝いさんとして仕える家の主人のようなものだったし、おこりん坊で、なにかと自分に突っかかってくるため、「アジョシ」扱いだ。ソックのほうは最初から自分に優しくて、しかも仲のいい友だちの兄と言うこともあり、「オッパ」的存在なのだ。

なんだかんだいいながらもヤンスンのことが好きなギテはそれが面白くなく、「なんで俺はアジョシで、あいつはオッパなんだ?」と文句をいう場面があるが、そのときヤンスンは「私がギテオッパって呼ぶんですか? こっぱずかしい」といって相手にせず、その後もずっと「アジョシ」を貫く。

済州島を舞台にした、財閥の息子と島の娘との恋物語『ラビングユー』では、20歳のヒロイン、ダレ(ユージン扮)が、無礼な男ヒョク(パク・ヨンハ扮)のことを「アジョシ」と呼ぶ。ふたりは最初は反発しながらも次第に惹かれていき恋仲になるのだが、そうなってもヒョクは相変わらず「アジョシ」のまま。

ある日ヒョクが、「お前、俺にいつまでアジョシ、アジョシって呼ぶんだ。たった5歳違いだろ」と言うが、ダレは「じゃあドチンピラと呼びますか?」といってかわすのである。

どうも、一度「アジョシ」で定着したものを「オッパ」に直すのはかなり気恥ずかしいものがあるらしい。

その一方で、ダレの友人で金持ち男をものにしようと計算高い女のスギョン(イ・ユリ扮)はヒョクのことを最初は「あのアジョシ怖いわ。チンピラみたい」といっていたのに、実は大系列グループ会社の社長の息子だとわかったとたん、たいして会ってもいないのに「オッパァ」と甘えた声で擦り寄っていくのである。この変わり身の早さ、わかりやすいのだ。

『イヴのすべて』では、野望の女ホ・ヨンミ(キム・ソヨン扮)は田舎で付き合っていたチンピラふうの男のことは「ノ」、彼女がいうニュアンス的には「あんた」呼ばわりして嫌っていたが、ソウルに出て来て、優しくしてくれるお兄さんのような存在のウジン(ハン・ジェソク扮)のことは「オッパ」と呼んで頼りにしていく。

お嬢さん育ちのジン・ソンミ(チェリム扮)は、幼なじみで恋心を抱いているウジンのことは「オッパ」で、留学先のロンドンで大学の先輩だったヒョンチョル(チャン・ドンゴン扮)のことは「ソンベ(=先輩)」と区別している。これはソンミの恋心がヒョンチョルのほうに傾いていった後でも変わらない。

ソンミとヨンミの先輩アナウンサーのジュヒ(キム・ジョンウン扮)は、仕事に燃えるバリバリのキャリアウーマン。ヒョンチョルとは親同士が婚約させたがっている間柄にもかかわらず、ジュヒはヒョンチョルを「ノ」(この場合のニュアンスは”君“という感じ)と呼んだり、「ヒョンチョルさん」と呼んで、甘えた感じを排除し、友だち関係を強調している感じだ。呼び方ひとつにも性格が現れている。

そしてもうひとつ「ヒョン(=兄貴、にいさん)」という呼び方もある。一般的には男が年上の男性を親しみを込めて呼ぶ表現だが、女性が、間柄から見て本来なら「オッパ」と呼ぶべきところを、あえて「ヒョン」と呼ぶこともある。

『危機の男』では、大学時代からの恋人同士だったヨンジ(ペ・ジョンオク扮)とドンジュ(キム・ヨンチョル扮)だが、ヨンジは恋人のドンジュのことを「ヒョン」と呼んでいる。それがかえって、対等というか、大人同士の恋を示しているようでなんだかかっこよく映る。

『愛の群像』でも大学講師のシニョン(キム・ヘス扮)は、先輩の教授(イ・ジェリョン扮)のことを「ヒョン」と呼んで慕っている。「オッパ」はなんだかべたっとした感じがするが、「ヒョン」はサバサバした間柄を表すようで呼びやすいのかもしれない。

 

参照作品

『トマト』
1999年 SBS
PD=チャン・ギホン 脚本=イ・ヒミョン 出演=キム・ヒソン、キム・ソックン
靴のデザイナーを夢見るハニと、ひょんなことで同居することになった弁護士のスンジュン。スンジュンの母親は大手靴メーカーの社長で、互いにそうとは知らず、ハニはその会社に就職する。昔なじみの友人で、ライバル会社のセラの意地悪にも気づかず、明るくがんばる姿を描いたシンデレラサクセスストーリー。

『秋の童話』
2000年 KBS
PD=ユン・ソクホ 脚本=オ・スヨン 出演=ソン・スンホン、ソン・ヘギョ、ウォンビン
赤ちゃんの取り違えから起こった悲劇。兄妹として育ったジュンソとウンソが大人になって再会し、運命の恋が始まる。秋の景色が美しい江原道の自然を背景に、童話のような、純粋な恋がゆったりと描かれる。周囲を傷つけないためにと、どんなにあきらめようとしても離れられない魂の恋。それがジンジン胸に迫ってくる演出のうまさ。2人の母親の情もきめ細かく描かれており、登場人物も、視聴者も、涙、涙に暮れるドラマ。

八月のクリスマス
1998年作品
監督=ホ・ジノ 脚本=オ・スンウク、シン・ドンファン、ホ・ジノ 出演=ハン・ソッキュ、シム・ウナ
余命いくばくもない青年ジョンウォンと、交通取り締まり員のタリムが育むほのかな愛。死を意識した青年の、家族との日々、仕事をこなす日常が淡々と抑制された描写で描かれ、しずしずと染み込むような感動で胸にジーンと来る珠玉の名作。

『明朗少女成功記』
2002年 SBS
PD=チャン・ギホン 脚本=イ・ヒミョン 出演=チャン・ナラ、チャン・ヒョク
「情けない王子を救うたくましい少女」のモチーフで作られたラブストーリー。友の裏切りによって両親の作った化粧品会社を奪われるギテと、そんなギテを励ましながら仲間たちと共に会社の復権に取り組んでいくヤンスンの、胸のすくラブ・サクセスストーリー。漫画チックだけど、チャン・ヒョクのやんちゃなふてくされぶり、チャン・ナラのど根性娘ぶりがぴったりで、見ていて思わず顔がほころんでしまう作品。

『ラビングユー』
2002年 KBS
PD=イ・コンジュン 脚本=キム・ジョンヒョン、シン・ヘジン 出演=パク・ヨンハ、ユージン、イ・ユリ
済州島を舞台に繰り広げられるラブストーリー。大企業の2世ヒョクが以前海でおぼれたときに救ったのが、明るい島の娘ダレだった。1年後、互いに気がつかないままふたりは恋に落ちて……。「人魚姫」が基調になっている。済州島の美しさ、主演のパク・ヨンハのかっこよさに気づかされた作品。