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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

④強い女、現る

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

女性に関する発言では、まだ相変わらずな部分をにおわせるものがあるが、ひと昔前の韓国映画によくあったように、耐えて、忍んで、従順で……という印象は、最近は様変わりしてきた。

近年、映画でもドラマでも元気のいい女の子たちが活躍する物語が大人気となっている。2001年に韓国で公開された『猟奇的な彼女』は、破天荒で予測不能、突拍子もない言動をするとんでもない女の子が、純情な男の子を振り回すロマンチック・ラブストーリー。

「猟奇的」とは、本来の意味ではなく、「特異な、変わってる」というニュアンスで使われる韓国の流行語。

その普通とは違っている”彼女“(チョン・ジヒョン扮)は、いつも「ああしろ、こうしろ」と命令調で、気にくわないと「ぶっ殺す」を連発して暴力を振るう。

援助交際をしているオヤジには説教し、お酒をがぶ飲みして酔っぱらう。遠慮がなく、やりたい放題で、”耐える“という言葉とは対極にある彼女の小気味よさにすっきりさせられるのだ。

そのへんが人気を集めたのか、韓国映画史上歴代ベスト5に入る大ヒットとなった。もっともこれが”猟奇的“と呼ばれてしまうところが、韓国がまだまだ保守的な社会だということを物語っているのかもしれないが。

同じく2001年に、『猟奇的な彼女』以上に大ヒットした『花嫁はギャングスタ―』という映画がある。これはやくざ組織の女ボスが、余命幾ばくもない姉の願いをかなえるために平凡なサラリーマンと結婚するというコメディー・アクション。

喧嘩も強けりゃ、雰囲気もクール、研ぎ澄まされたナイフのようなこの女ボスは、いつも男の子分たちを引き連れている。

しかし、肉親の姉には弱く、「あなたの子供の顔が見たい」と言う姉のために、見合いで結婚した夫に強引に肉体関係を迫るなど、とにかくいつも主導権を握って行動する。

優しいが、どことなく情けない感じの夫は、事情もわからず妻のなすがままである。これなども、男女の関係性からいえば、『猟奇的な彼女』の大人版という感じだ。

そして、2002年の春から夏にかけて放送されたドラマ『明朗少女成功記』も、韓国の男女観を見事にひっくり返してくれた。

文字通り、明るくがんばりやの少女ヤンスン(チャン・ナラ扮)が成功していく話だが、今までだとこういう場合、必ず金持ちの優しい男が出てきて、窮地に陥った少女を助けて成功に導いてやるというのがお決まりのパターンだった。

しかしこのドラマでは、金持ちの大会社の事業本部長だった男ギテ(チャン・ヒョク扮)が側近の罠にはまり一文無しになったのを、逆にヤンスンが力になって助けてやるのである。

そしてギテが立ち直って元の居場所に戻った後、めでたく結ばれるのではなく、ヤンスンはギテにプロポーズされるも、「私の夢は軍隊に行くことだったの。入隊の条件が未婚の女性だから今は結婚はできません。軍隊から戻ってきてから考えます」と言ってのけるのである。

そこでギテは予想もしなかった断りの言葉にふてくされ、「普通なら何としてでも徴兵のがれをするもんだろ、俺ふられたのか?」「軍隊が理由でふられた男は大韓民国で俺だけだ」とぼやくのである。

そして明日がヤンスンの軍入隊という最後の夜、「明日見送りには行けないよ。泣きそうだから。女の前で泣いたら恥ずかしいし」といってひとりバスに乗り、車窓を眺めながらヤンスンとの思い出の日々を思い起こしてひとり涙するのだった。

当日も結局見送りに来るが、隠れて出るに出られず、最後の最後にヤンスンの前に姿を現して今にも泣きそうな顔で「待ってるからな。元気でな。手紙くれよ」と叫ぶのだ。

かわいいったらありゃしない。そしてこのドラマも視聴者らの大きな支持を得てシンドローム現象が起こったのである。

こうした新しい女性像が大衆の支持を得ているのをみると、韓国社会のこれまでの女性に対する概念に変化の兆しありといえるだろう。いや、女性に対してだけではなく、男性にも意識変化を促しているのだ。

これに関して韓国の新聞に面白く分析しているものがあった。それによれば、韓国の家父長制度というのは、女性を抑圧してきただけでなく、実は男性にもすべての責任を負わなければならないという負担感を与えてきた。

それが、『猟奇的な彼女』のように、強い女に振り回されて、男性がそれを甘んじて受け入れている描写には、男性もそんなにがんばらなくても、これからは重荷を下ろしてもいいのだという男性側の願望が潜んでいたというのだ。だから『猟奇的な彼女』は、女性たちからだけではなく、男性からも受けたのではないかと言うことだった。

実際に『猟奇的な彼女』以降は、強い女性に男性が引っ張られるというような映画のようなカップルが増えているといわれている。女性にとって、持てる力を発揮する時代が来たのと同様、今まで必要以上にがんばってきた男性陣が自然体になってくる時代の到来でもあるわけだ。

 

参照作品

『猟奇的な彼女』
2001年作品
監督・脚本=クァク・ジェヨン 出演=チョン・ジヒョン、チャ・テヒョン
純情男のキョヌが地下鉄で出会ったかわいい‘彼女’は、破天荒な言動をとるとんでもない女の子だった。軽快なテンポでコミカルに進みながら、最後はほろっとさせられるハートウォーミング・ラブコメディー。

『花嫁はギャングスタ―』
2001年
監督=チョ・ジンギュ 脚本=カン・ヒョジン、キム・ムンソン 出演=シン・ウンギョン、パク・サンミョン、アン・ジェモ
極道の女ボスを務めているウンジンは、生き別れになっていた姉と再会し、病弱な姉を安心させるため、一般人の町役場の男性と無理やり結婚する。クールで喧嘩が強い女ボスがお見合いしたり、子供を作ろうと夫に無理やり迫ったり、さまざまなシチュエーションがおかしく、またほろっとさせるコミックアクション。

『明朗少女成功記』
2002年 SBS
PD=チャン・ギホン 脚本=イ・ヒミョン 出演=チャン・ナラ、チャン・ヒョク
「情けない王子を救うたくましい少女」のモチーフで作られたラブストーリー。友の裏切りによって両親の作った化粧品会社を奪われるギテと、そんなギテを励ましながら仲間たちと共に会社の復権に取り組んでいくヤンスンの、胸のすくラブ・サクセスストーリー。漫画チックだけど、チャン・ヒョクのやんちゃなふてくされぶり、チャン・ナラのど根性娘ぶりがぴったりで、見ていて思わず顔がほころんでしまう作品。