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映画&ドラマで見るドラマチック韓国

③いまだに男性主義が強い女性への発言

東洋経済新報社「韓国はドラマチック」(2003年7月発行)

韓国は男性主義が日本よりも強い国だと思う。それは映画やドラマに出てくるセリフから如実に感じ取ることができる。

1986年の映画『霧の柱』は、当時の韓国社会での女性の自立というテーマを描き、女性映画の幕開けとされた作品。

能力のある女性が結婚後、夫に請われるまま仕事を辞め家庭に入ったが、仕事仕事で家庭を顧みない夫に不満を募らせていく。

2人の子供に恵まれ、少し手が離れるようになった頃に妻(チェ・ミョンギル扮)は翻訳の仕事を始めるが、夫(イ・ヨンハ扮)はその翻訳の仕事すら気に入らない。妻が、主婦でいることだけの不満を口にすると夫と喧嘩になる。

夫「女には育児と家事のほかに重要なことがあるというのか」
妻「女、女っていわないでよ。家庭に望むものが違っただけじゃない。家を守るのは女だけの仕事?自分に忠実に生きたいの」
夫「でかい口を叩くな。自分の権利を云々するような女は魅力ゼロだよ。立派な女に見えるだろうが最低だ」

こう言って妻にビンタを食らわせ、物を壊して家の中をめちゃくちゃにする。
結局、妻は家を出て、夫のもとにいる子供にたまにしか会えないさびしさを抱えながら、新しい人生を歩いていく。

「女は家にいるべき」「仕事を持つなんてとんでもない」という封建的な考えがはびこっている時代意識を感じさせる作品だった。

この流れを汲んでいるのが、95年の映画『サイの角のように一人で行け』だ。ここでは、大学の同級生だった3人の女性が、卒業し、結婚して、人生を歩んでいく様が描かれる。

3人とも結婚するものの、へワン(カン・スヨン扮)は、共働きのキャリアウーマンになっている。夫がおっくうがるので、出社前に子供を保育所に預けようとするが、ちょっと手を離した隙に子供が事故にあって死亡。それがきっかけで離婚し、今は作家として活動している。

キョンヘ(シム・ヘジン扮)は、放送局でアナウンサーをしている。産婦人科医の夫がいるが、夫は若い女と浮気している。

ヨンソン(イ・ミヨン扮)は、映画監督を目指して恋人とともにヨーロッパに留学までするが、夫の成功のために自分のシナリオまでも夫に渡し、帰国してからは夫を支えるために専業主婦になる女性。子育てをしているうちに社会からの疎外感を味わい、夫の監督が女性脚本家と浮気をしていると疑って精神的に不安定になっていく役だ。

この映画の中では、抑圧されている韓国女性の立場を表すセリフが随所に出てくる。例えば、子供を亡くしたへワンが新しい相手と付き合っていると、その男を好きな女がやって来て、ヘワンに向かってこう言い放つ。

「彼の家は非常に保守的です。ましてここは韓国です」
こう言って、暗に離婚歴のある女との結婚なんて、男の親が許すはずがないからあきらめてくれと釘を刺すのだ。

またヘワンが、この男に問わず語りにしゃべるセリフがこれだ。

「自分の子を殺した母親っていわれたことある? あの子の生きていた数億秒のうちで手を離したのはあの数秒だけだった。でも神は子供を連れて仕事に行こうとした私の代わりに、寝ていた夫を許した。そのとき悟ったの。神も男だっていうことを。そう神も男なのよ。もう絶対にだまされない」

一方、ヨンソンは才気煥発だったのに、その才能も夫にささげたあげく、夫を信じきれないまま結局自殺を図る。

「サイの角のように一人で行け。音に驚かざること獅子のごとく、網にかからざること風のごとく、サイの角のように一人で行け」と、好きだった仏教経典の一文を書き残して……。

そして、そんな友の死に接して、ヘワンは、「誰かとともに幸せになりたいなら、その誰かがやってくる前に自ら幸せになる準備ができていなくてはならない」ということを悟るのだ。

もうひとりのアナウンサーのキョンヘは、最後に放送部署から左遷されるが、そのときに後輩アナウンサーにいうセリフが開き直りとも悟りともとれて小気味いい。
「私は放送局に入ろうと整形までしたわ。でも結局テレビからも追い出された。これどういうことかわかる? 刀を使うものは刀で、顔で勝負しようという者は顔で敗れるということよ。大切なのは、ほしいものは自分でつかむということよ」

この作品は、韓国で1993年に出版された同名のベストセラー小説を映画化したものだ。原作者は1963年生まれの女流作家コン・ジヨン。日本でも翻訳本が出ているが、その序文に、「この小説は、経済成長のおかげで、法的、あるいは形式的、そして家庭においてさえも、女だと言う理由で差別を受けることなく育った最初の世代が、学校を卒業した後、結婚と言う制度に編入されることで経験する悲劇を描いたもの」「まさしく私たちの世代の話」と述べている。

韓国では社会全体で386世代が活躍しているが、その世代の女性たちは、少なからず、映画のような思いを乗り越えてきているということがうかがい知れる作品だ。

98年の『アドバケッ(弁護士)』は、正義感あふれる弁護士の活躍を描いたドラマ。この中で、主人公キム弁護士(ソン・チャンミン扮)のアシスタントをしているイ・ヨンエ扮する女性が、強姦事件の被害者から話を聞きだした帰りに、沈鬱な気持ちの中でキム弁護士に向かって力強く発するセリフがこれだ。

「女はいつも不公平に慣れてきました。不公平に対抗するとすぐにその女性は気の強いフェミニストなんていわれるし。この国の社会通念は大きく変わるべきです。いえ、変えていきます。それが私が法律を勉強している理由でもありますから」
2002年に放送された『ロマンス』は、女性高校教師と男子生徒が愛し合うというストーリー。

6歳年上の女教師チェウォン(キム・ハヌル扮)と男子生徒グァヌ(キム・ジェウォン扮)は、お互いに立場を知らずに出会って好感を持つ。しかし、次に会ったときには教師と生徒とわかり、さまざまな葛藤の末いったんは別れを決意するものの、思いを断ち切れずに付き合うようになるが、世間の目が厳しくて……と言う内容。

そこに男子生徒の家庭とチェウォンの家庭のひとかたならぬ因縁も絡んでくるという深刻な内容だが、チェウォンがドジなキャラクターで、ところどころにコミカルな場面が出てくるところと、男子生徒が貧乏にめげずに前向きに努力し、愛を貫抜き、仕事をがんばる姿が作品のトーンを明るいものにして、後味のよいさわやかな恋愛ドラマだった。

この中で、男子生徒と噂が出た同僚を心配して先輩女性教師がチェウォンに語る場面がある。

「まだ世の中は偏見と固定観念だらけ。男性問題が出てきた芸能人はすぐに消えちゃうし……。韓国はいい国だけど、女性のことはまだまだなのよ」
その後、女教師と男子生徒が付き合っているのが世間にばれてチェヨンは学校をやめることになるのだが、そのときにチェヨンの母親の知り合いが助言する。

「旅行とか留学をさせるんだ。どうせもう教師にはなれないだろう。韓国社会は保守的なんだ。もう前科者と同じだぞ」
これを聞いて私は、「ぜ、前科者と同じですか……」と思わず絶句した。

急激に変化を遂げている韓国社会。1987年に男女雇用平等法が制定され、女性たちの社会進出もどんどん目立つようになってきたが、それでもこうした女性に向けたセリフの数々が出てくるところを見ると、やっぱり意識のうえではまだまだなのかなあと感じられる。

しかし、2001年の『青い霧』では、LC電気という大会社の親族で筆頭株主の女性キョンジュ(キム・ミスク扮)が社長になろうとするときに、重役のひとりである彼女のいとこの男性が、自分も社長の座を狙っているだけに猛烈に反対する。

そのときのセリフが、「うちの会社は保守的だから女がでしゃばるのはね」というものだった。

それに対してキョンジュは負けずに、「女がでしゃばるだって? あなた留学したのは無意味だったの? そんな時代遅れの発想をして」と言い返し、結局は社長に納まるという設定になっていた。

男は都合のいいときに保守的な部分を持ち出すが、女のほうは、もう以前のような役割分担に甘んじてはいない。そしてまだまだとはいいながらも、女性の立場が強くなりつつあるのは確かなようだ。

 

参照作品

『霧の柱』
1986年作品
監督=パク・チョルス 脚本=キム・サンス
出演=イ・ヨンハ、チェ・ミョンギル
大学時代に出会い結婚したカップル。女は夫や姑の希望で仕事を辞め家庭に入り子育てをする。夫は順調に出世していくが、仕事が忙しく家庭を顧みない。家でできる翻訳の仕事さえ夫は気に入らない。そんな夫についに切れ、妻は離婚を決意する。1980年代韓国の男尊女卑思想の中での女性の自立を描いた作品。

『サイの角のように一人で行け』
1995年作品
監督=オ・ビョンチョル 脚本=コン・ジヨン 出演=カン・スヨン、シム・ヘジン、イ・ミヨン
大学の同級生3人はそれぞれ社会人になり結婚したが、ヘワンは子供の死をきっかけに離婚して作家の道へ。アナウンサーのキョンヘは夫の不倫に自分も不倫で仕返しをする。ヨンソンは専業主婦として映画監督の夫に尽くしぬいたあげく、夫が脚本家の女性と浮気していると思い込んで自殺を図る。3人3様の女性の生き方を描いた作品。

『アドバケッ(弁護士)』
1998年 MBC
PD=イ・スンヨル 脚本=ハン・テフン、キム・ヨンヒョン 主演=ソン・チャンミン、イ・ヨンエ
正義感の強い庶民派弁護士を主人公に、利潤追求に走る大手法律事務所のエリート弁護士と対比させながら、法曹界の誤った慣行と制度に対抗しながら体験する葛藤、挫折を通して一人前の弁護士に成長していく姿を描く物語。

『ロマンス』
2002年 MBC
PD=イ・テヨン 脚本=ペ・ユミ 主演=キム・ハヌル、キム・ジェウォン
ドジでおっちょこちょいの高校教師と男子生徒が恋をして、周囲に反対されながらも愛を育んでいくストーリー。男子生徒は、父親が事業に失敗し自殺したせいで一家を背負うことになるが、必死に働いて先生との恋にも向かおうとする姿が非常にすがすがしい。深刻になりすぎず、明るく切ない。男子生徒に扮したキム・ジェウォンの殺人的微笑と、時折見せるふてぶてしさが魅力いっぱいで、彼のような子にここまで思われたらグラつかない女はいないでしょう。

『青い霧』
2001年 KBS
PD=ピョ・ミンス 脚本=イ・グンリム 出演=イ・ギョンヨン、イ・ヨウォン、キム・ミスク
特に強い欲も持たず、46歳になるまで大会社の社長として地位も名誉も手に入れ無難に過ごしてきた男。それがある日、23歳のダンス講師と知り合い、人生で始めて恋を知る。そして恋のために妻も子も会社もすべてを捨てていく姿を描いた。雰囲気のある格調高い映像、心にしみるセリフ。特に最終回のラストシーンは秀逸で余韻が残る。