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ミュージカル『シラノ』開幕!その③

記事内容の転載はご遠慮ください

③では、

作品の見どころについて簡単にご紹介します。

あ、その前に、
原作ではシラノとロクサーヌは従兄妹の設定ですが、
韓国ではいとこ同士の恋愛はタブーなので、
そこは変えて、ただ幼い時から親しくしていた
兄と妹のような関係という感じになっています。

 

1幕は90分ありますが、
コミカルな場面が多くてかなり笑えます。

特に2場のパン屋の場面は、
「告白したいことがあるの!」というロクサーヌと、
それはもしや自分では?と期待するシラノの
勘違いの掛け合いがとっても楽しいです。

でも、シラノは恋の仲立ちを頼まれてしまうわけで、
笑った後はいつも切ないのです。

あ、その場面に行く前にシラノが歌う
「Bring Me Giants」がすっごくいい曲ですね。
豊かな広がりがあって、でもどこか温かみがあって
シラノの人間味がすごく良く感じられるメロディーです。
こちら→

で、この2場では「我らガスコン」という、
シラノと男性アンサンブルによる「俺たちはガスコン青年隊だ~!」と
力強く歌い踊る勇壮な曲もインパクトが強くて
魅せてくれます!
こちら→

ガスコンというのはガスコーニュ地方出身という意味なのだそうで、
その出身者たちは気性が荒くて勇猛で知られるそうです。
なので、そんな男たちばかりのガスコン青年隊の曲なので
曲調もパフォーマンスも勇猛果敢な感じです。

 

3場のバルコニーでは、ロクサーヌが
恋しいクリスチャンを戦場に行かせないように
ド・ギッシュ伯爵をかわいくだますシーンがまず笑えます。

しっかりちゃっかり、
自分の恋のためならクルクル機転を利かせてしまうロクサーヌは
チャーミングです。

その後、クリスチャンと二人になって、
「さ、素敵な愛の言葉で私を感動させて~」と
目をキラッキラッさせて待ち受けるのですが、
帰ってくるのは「愛してます。たくさん~」というような
凡庸な言葉だけなので(^-^;、
言葉に酔いたい彼女はどんどんあきれてくる~という
掛け合いシーンも爆笑。

このシーンの後、一人になったクリスチャンが歌うソロ曲は
日本版では無かったようなので
韓国版の特徴の一つですね。
思わずクリスチャンに同情したくなる切なげで聞かせてくれるいい曲です。

そして次が1幕の最大の見どころ、
バルコニーの上と下で繰り広げられるシーンです。

クリスチャンにあきれて部屋に引きこもってしまったロクサーヌの心を取り戻すため、
クリスチャンがシラノから口伝えで愛の言葉を唱え、ロクサーヌの心を動かすシーンです。

ここも始めは爆笑なのですが、
途中からシラノがクリスチャンの帽子とマントを借りて
自分の口でロクサーヌへの愛を告白するのですが、
最初はいかにもクリスチャンの身代わりでしゃべってる風だったのが、
だんだん、自分の気持ちそのままを切実に語るようになっていく感じがいいんです。

これまでずっとそんな風にロクサーヌに恋する気持ちを伝えたかったんだろうな
と感じられて、身代わりとはいえ、彼女に愛を告白できて夢のような気持だったのだろうなと。

でもそうやって自分の言葉で彼女の心が動いたのに、
その戦利品であるキスを受けるのは
美男のクリスチャンなのだ~とシラノが思い知るところが切なくて、
ここが最初の泣きポイントでした。
シラノ役の3人の俳優ごとに3者3様の演技で切なさを表現しているので
ここはバルコニーの上のロクサーヌと下のクリスチャンと、
少し離れた場所で二人を見ているシラノという立ち位置なので
目が忙しいですが、シラノに注目したいところですね。

その後も「結婚の儀式をするあいだ、ド・ギッシュ伯爵を足止めしてね」とか、
「戦場でクリスチャンが危険に合わないように助けてあげてね」とか、
ロクサーヌはシラノの自分に対する気持ちを知らないとはいえ、
かなり残酷なことを平気でシラノに頼んでいて、
その度に観客もシラノの気持ちを思って切なくなるのです(涙)。

で、1幕最後にシラノが歌う「Alone」。
日本版ではもっと前のシーンで、
ル・ブレに敵を作りすぎだよと心配されて、
それに対して言い返すように
「権力者におべっか使うなんてまっぴらだ、自由に一人で生きるのだ~」
という感じで歌うことになっていたようですが、
韓国版では、1幕の最後に持ってきています。

そのほうが1幕がバシッと締まって座りがいいですし、
大きな月をバックに歌うのが雄大なメロディーとも似合って
この曲もすごくいいです!
2幕の最後にも歌われます。
こちら→

あ、そうだラスト近くに「月から落ちてきた」という曲とパフォーマンスが
とても面白いのですが、何の予備知識もなく見た時は
「え?」となりましたが、
これはそもそも戯曲にあるんですね。
なのでもちろん映画でも出てきましたし、
それが舞台ではさらにカリカチュアされた感じで出てくるので
動きも歌い方もコミカルで笑えます。

あのリュ・ジョンハンが
「ピリパラ~ツキカラキタ~」とか言って
宇宙人のように歌うミスマッチ感がたまりません(爆)

 

以下、二幕の話に入りますので、ネタバレします。

二幕に入ると、1場では、
ロクサーヌとシラノとクリスチャンの3重唱の場面があるのですが、
そこで、一文字一文字に自分の思いを託して
ロクサーヌに手紙を書いている想いを
切なく歌うシラノの気持ちにグッときます。
こちら→

その後クリスチャンが亡くなる場面、
死に際のクリスチャンにシラノは
「彼女は君を選んだよ」と言ってやり、
もう永遠に真実は言うまいと決意するところがまた泣けるんですね。
クリスチャンにも同情してしまいます。

そしてそこから15年後の最後の2場、
キュートで愛らしかったロクサーヌは
すっかり落ち着いた婦人になっています。

歌的にはド・ギッシュとル・ブレの前で、
「彼は素晴らしい人~」と
ロクサーヌによって歌われる
「彼こそ奇跡」という曲が素晴らしいです。

その後、ケガしながらもやってきたシラノと二人きりになって、
手紙の主がクリスチャンではなくシラノだったと
ロクサーヌが知る場面が、2幕の最大の見どころになってきます。
これが歌で掛け合いのように表現されます。

そして最後、シラノは椅子から立ち上がって死神と闘おうとするんですね。
最後の最後までおとなしく死んだりしない。
そこがシラノのシラノたるところなんだなあと思わせられます。

『シラノ』は、切ない愛の部分がメインですし、
私自身の印象としてもそこに目が行きがちでしたが、
今回観てみて、さらに原作も読んだり映画を見たりしてみると、
死に際してもクリスチャンのことを立てて
最後までロクサーヌに自分の想いを明かさなかった男気や、
寂しくて不器用だったけど、決して世の中に迎合しなかった男の、
筋を貫き通した崇高な生き方が
強く印象に残る作品だったなあと感じました。

そして、やはり、美しく素晴らしい音楽と歌が
ここぞ、という場面で入ってくるので、
戯曲よりも、映画よりも、
ミュージカルの『シラノ』に感動したのでした。
もう聞けば聞くほど素敵な曲ばかりですから。

 

シラノの人物像が『ラ・マンチャの男』を彷彿させ、
実際戯曲や劇中でも
「君はドン・キホーテを知ってるか?お前もあんな風になるぞ」
というセリフが出て来るくらい精神が似ています。

そして大いなる片想いの部分は『二都物語』を彷彿させますね。

なので、これらの作品が好きだった方には特にドンピシャではないかと
思います。

とにかく、こういう作品を製作したいと思ったリュ・ジョンハンさんは
ロマンチストなんだなあと思いましたし、
実際に、心の通った素敵な舞台に作り上げて、
本当に素晴らしいなと感じました。

 

2017年7月16日執筆

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