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ヒョンビン  慎ましやかな好青年

2009年1月発行「恋する韓流」(朝日新聞出版より) ※記事の転載はご遠慮ください

『私の名前はキム・サムスン』(05年)でブレイクしたヒョンビンだが、私はその前のドラマ『アイルランド』(04年)を見たときから、いいなあこの人と思っていた。
まっとうに生きていながら、その実、誰よりも寂しさゆえのやさしさを抱えている青年で、そのまっとうさが逆に痛々しいというか、胸に刺さる感じで、そんな繊細な感じを出すのがうまいなあと、感じ入ったのだ。

実は2004年に新人のころの彼に会ったことがある。
済州島のイベントで、映画『まわし蹴り』(04年)の制作発表会ということで、主演のキム・ドンワンやヒロインのチョアンらと共に日本ファン向けのステージに立ったのだ。
まだ全然有名でなかった彼は、ふらりとリハーサルに現れ、ワサワサと忙しそうにスタッフが動いている現場で、心もとなさそうに、舞台監督にいわれるまま動かされていた。

なにせまだ新人だから、舞台監督の扱いも雑。「君、そこでまわし蹴りをするんだよ」や「最後に歌を歌うんだ」などと有無を言わさない勢いで言われていた。
このときのヒョンビンは、大きなサングラスをかけ、派手な赤色のシャツに白いズボンをはき、しかも髪形がツンツンと上にとんがったようなスタイルだったので、一見チンピラのアンちゃんぽかったのだ。しかし、本番でメガネをかけていない映画の中の映像が出ると、「あ、好みの顔!」と私は即座に思った。

でも本番のステージでもサングラスはかけたまま。よっぽどはずしてくださいとお願いしようかなと思ったが、そのときのステージ上のメインはなんといっても主演のキム・ドンワンだったし、取材のカメラマンたちも、ヒョンビンについてはみんなノーマークで、「どうでもいいよ、彼は」という感じだったこともあり、そこまで突っ込むことはしなかった。
これが今となっては、「あのとき、ヒョンビンいたんだよねえ。やっぱりサングラスはずしてもらえばよかった」と、その場にいた取材仲間たちとの語り草になっている。


ところで、『私の名前はキム・サムスン』を見た世の多くの女性たちは、皮肉屋の王子様を演じたヒョンビンに恋をしたことだろう。本当は優しいくせに、つい意地悪なことを言ってしまい、薄い唇で皮肉っぽく微笑む傲慢な男。
へたな男がやると単なる嫌な奴になってしまうが、ヒョンビンだとこの上もなく魅力的。苦みばしった青い笑い方とあのイケズさが女性のハートを打ち抜くのだ。
だが、素の彼は落ち着いていて、穏やかで、慎ましやかな好青年という印象だ。

ソウルで映画『百万長者の初恋』(06年)の日本マスコミ向けに設けられた特別ミニ記者会見に参加したことがあるが、丁寧におじぎをしながら報道陣の前に現れ、去るときも同じくで、その物腰が柔らかくて、礼儀正しい。
すでに『私の名前はキム・サムスン』で大ブレイクしていたにもかかわらず、少しもおごったところがなく、思慮深くて、彼が身にまとう空気はどこまでも静かだった。
それでいてしっかりと自分の言葉で表現豊かにしゃべる。
ヒロインのイ・ヨニのこともちゃんと立ててあげて、それらがすべて自然なので、本当に素敵な青年だなあとますます好感を持ってしまった。

イ・ヨニも、「撮影では本当に良くしてもらって、モニターを一緒に見てくれたり、私の役のキャラクターについて、色々な話を一緒にしてくれました。すごく寒い撮影現場では、あたたかいジャンパーを貸してくれて、すごくいい方だなと思いました」とべた褒めで、それを横で聞きながらヒョンビンは照れくさそうに、「彼女ったら~」という感じでイ・ヨニを指差しながら柔らかく微笑んでいた。

その後、日本公開される『百万長者の初恋』のプロモーションのために来日したとき、私は映画のパンフレットに掲載するインタビュー用にいくつかの合同インタビューの席に同席したのだが、取材が殺到したこともあり、だいたい各社一問で時間切れの感じで、質問者としては、あとひと突っ込みしたいところ。
でも無情にもスタッフから「ここまでです」と言われてしまい、「あ~もっと聞きたかったのに……」とインタビュアーが残念そうな顔をすると、ヒョンビンも‘あ~、本当に申し訳ない’という表情を顔いっぱいに浮べてお返ししていたのが、彼の人柄がにじみ出ていて面白かった。また取材者が質問に答えてくれたお礼を言おうものなら、ヒョンビンは頭ごと首を少しかしげて、えくぼもくっきりと、遠慮がちにニッコリ微笑む。
そして取材が終わると自分から背の高い身体をかがめて手を差し出し、取材者一人ひとりと握手していた。

デビュー当時から性格がいいのは折り紙つきといわれてきたが、人気が出たあともそれは変わらない。
『百万長者の初恋』も、新人時代の無名の自分にいい俳優になるためのいろいろなアドバイスをしてくれたキム・テギュン監督との仕事だったので、内容にかかわらず絶対にやりたかったのだという。
こんなふうに‘義理’を大事にするところもポイントが高い人なのだ。