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お父さんの帰宅も早まる社会派歴史ドラマ

※2003年7月発刊「韓国はドラマチック」(東洋経済新報社)より。

社会派歴史ドラマには、人気、内容ともに好評を博した作品が多い。このジャンルで真っ先にあげられるのは、1995年のSBSドラマ『砂時計』(全24回)だ。韓国人とドラマの話をすると、必ず名前が挙がる名作中の名作。1970年代から80年代の世相を背景に、暗鬱な時代を生きた若者の痛みと愛、葛藤を描いたドラマだ。明るいとは言えない内容にもかかわらず、64.5%と歴代3位の数字をはじき出した。

主人公は、高校時代からの同級生パク・テス(チェ・ミンス)とカン・ウソク(パク・サンウォン)。パク・テスは、父親がパルチザンだったという理由で陸軍士官学校の試験に落ち、そのことに絶望した母親までをも事故で失い、裏の世界に入ることになる。カン・ウソクは、貧しいながらも正し生き方をしようとする父親の望みで、法律の道を進むことを人生の目標にする。そんな2人の前に登場するのが、カジノの大立て者を父親に持ちながらも学生運動に身を投じる激しさを持った女性ヘリン(コ・ヒョンジョン)。

3人はウソクの下宿で出会い、青春のひとときを楽しむのだが、‘ソウルの春’や‘光州民主化闘争’など、この時代に吹き荒れた社会運動を経て、彼らの道は大きく分かれていく。ヘリンは、父親の跡を継いでカジノ経営に携わり、パク・テスも勢力を広げていく。そして、ウソクは検事になる。政界と裏社会の癒着や、裏社会同士の勢力争いなどに巻き込まれながら、テスとウソクの友情、テスとヘリンの愛憎が描かれる。

最後は、抗争の果てに相手方を殺してしまったテスと担当検事のウソクが法廷で相まみえる。判決を前に、監獄の中で語り合う2人。「おまえに求刑することなどできない」と言うウソクに対し、テスは「おまえのようなヤツが求刑するなら俺は納得できる。おまえがやれ」と答える。それでもウソクは、光州事件の時に鎮圧軍の一員として市民軍に銃を向けたことをいまだに悩み、そんな自分に人を裁くことなどできないと告白すると、「問題は、その後にどういう風に生きてきたかだ。今のおまえのように生きたやつもいるし、今の俺のように……。おまえはえらいよ」と励ますのだった。

そして求刑当日、ウソクは辛い思いで「被告人は幾度も選択の岐路に立ち、その度に、より安易な道を選んできた。自分の力を利用し、人の力を借りて一足飛びに目的にたどり着こうとした。それが被告人の罪であります」として、テスに死刑を求刑するのだった。

時代が分けた2人の人生に、自らの生き方を照らし合わせ、その時代に対する懐かしさと痛みを喚起させる内容に韓国の人たちは夢中になった。若い女性の多くは、18歳からボディーガードとしてヘリンに付き従い、命をかけてヘリンを守り抜いたペク・チェヒ(イ・ジョンジェ)の姿がお目当てだったという説もあるが…。

ドラマ中に挿入されるロシア民謡もまたドラマを盛り上げ、実に格調高い人間ドラマだった。夜9時50分から始まるドラマだったが、その時間は『砂時計』の時間ということで、お父さんたちも帰宅が早まり、飲み屋の収入が半減したという。その昔日本でも『君の名は』のラジオの放送時間は銭湯の女湯が空になったのと同じ現象が起こったのである。

 

現代史に埋もれていった人々を描く感動大作

『砂時計』から遡ること3年。1992年のMBC創社30周年記念ドラマ『黎明の瞳』は、58.4%の視聴率で、韓国のドラマのレベルを高めた作品として記憶されている。このドラマは、日帝、解放、6.25事変などの現代史を背景に、それぞれ異なった環境で生きてきた3人の男女の生き方を通して、現代史の中に埋もれていった多くの人々の生き様を描いた感動大作だ。完成度の高い映像と美しい音楽、そして中国、フィリピンでの海外ロケも行われ、いろんな意味で話題を呼んだ。

また分断国家、韓国ならではの題材を扱ったのが、1998年のSBSドラマ『白夜3.98』。ロシアを舞台に、ロシア所有の核兵器をめぐっての北朝鮮と韓国の諜報員らの戦いを描いた戦争大作で、チェ・ミンス、イ・ビョンホン、イ・ジョンジェ、シン・ヒョンジュンといった韓国のタフガイが揃い踏みで、シム・ウナ、チン・ヒギョンがヒロインとして花を添える。

ほとんどがロシアロケで、俳優たちもロシア語をしゃべり、戦闘シーンなどは特撮を駆使していて、とにかくスケールが大きい。

『砂時計』の夢よもう一度という意図があったであろうことは、作風からも、使用している音楽からも、登場する俳優からも感じられるが、韓国人の誰もが経てきた実際の事件が背景になっていた『砂時計』と違って、こちらは描かれる内容があまりに現実の生活感からかけ離れていたためか、前評判ほどは人気を集められなかったようだ。